第107話 文化祭1日目①

文字数 2,361文字

 とうとう文化祭当日を迎えた。
 
 準備期間とはまた違った雰囲気だ。
 廊下ではコスプレや着ぐるみも見かける。

 学年問わず、皆が今日まで頑張ってきた。
 そして開催を今か今かと待ちわびている。

 教室に入ってもそれは変わらず、みんなソワソワしていた。

 とりあえずいつものメンバーで集まると、田口が

「今日はさ、恭子ちゃん来るからその時はあまりイジらないで欲しい」

 と言ってきた。
 そりゃそうだよな。好きな人の前では恰好を付けたい気持ちは分かる。
 そう考えていると中居が

「もしかしてあのキャラで行くのか?」
「もちのろんよ! っていうか、恭子ちゃんからテンション上げるなって言われてるんよ~」
「お前……俺達にも紹介しろよ」
「分かってるって~」

 そんな事言われてたのか。
 まぁ落ち込んでる田口が好きだからしょうがないのか?

 と雑談していると、早川に呼ばれた。

「友也ー、勝負の事忘れてないよね~?」
「ああ、覚えてるよ」
「よ~し。大差で勝ってやるよ」

 と言って早川はメイドグループへ向かった。
 
 どうしてあそこまで勝負に拘るんだろう。
 でも、勝負をするなら勝ちたいな。

 俺は男子達を集めて

「たった今、早川から宣戦布告を受けた! 皆、この勝負勝つぞ!」

「「「おおおぉぉぉ!!」」」

 よし。こっちだって気合いでは負けてない。
 

「只今より、第46回咲高祭(さくこうさい)を開催致します」

 と校内アナウンスが流れ、遂に文化祭が始まった。

「おかえりなさいませご主人様」
「ご主人様、ご注文はいかがなさいますにゃ?」
「お待たせしましたご主人様、早く食べてくださいね」

 開始してから1時間が経過したが、その殆どがメイド目当ての男性客ばかりだ。
 しかもメイドの接客のクオリティが高い。

 基本的に男性客は女子が、女性客は男子が接客するので今は執事係の出番が無い。
 呼び込み係が一生懸命呼び込んでくれているので今は信じて待つ事しかできない。

 そう考えていると、早川が待機場所に現れ

「あれあれ~、随分暇そうじゃ~ん。羨ましいな~」

 とだけ言って出て行った。
 それに対し何もいいかえせなかったのが悔しい。

 それからしばらくして

「おい、女性客来たから準備しろ!」

 と呼び込みの奴が勢いよく待機室に入って来た。

「結構な人数だから全員で手分けして接客してくれ」

 と言って待機室から慌ただしく出て行った。

 漸く執事の出番だ。

「みんな、このチャンスを掴もう! 練習以上に丁寧に接客するのを心がけてくれ」

 と言うと、皆の顔が引き締まる。
 中居と水樹を除いて。

「中居、少しは愛想よくしてくれよ?」
「うっせーよ、こういうのは向き不向きがあんだろ」

 と中居が言うと、木村が

「それ! 中居君はそのキャラで行こう。お嬢様に厳しい執事! これは流行るかも!」
「んだそりゃ」

 木村のテンションと言っている意味が理解できない中居は呆れていた。
 
 あとは水樹だな。

「水樹、大丈夫だよな?」
「任せろって。女の扱いは慣れてるよ」
「なんかそのセリフ聞くと逆に不安になってくるよ」
「はは、それよりもちょんとリーダーやってるな」
「まぁ、皆には迷惑掛けたくないしな。それに折角の文化祭だから楽しもうと思ってさ」
「やっぱ友也は変わったな。何か困ったらすぐ相談しろよ?」
「ああ、サンキュー」

 というやり取りをしていると

「お嬢様がお帰りになりまーす」

 と合図があったので待機所から出る。

 するとそこに居たのは

「友也さ~ん、こんにちは~。約束通り来ましたよ~」

 と言いながら手を振っている。
 ここは俺が行くと皆に伝え、沙月の元へ行き

「お帰りなさいませお嬢様」

 とマニュアル通りに言うと

「ヤバイ! 友也さんチョー似合ってます! 写メ取っていいですか?」
「当店は撮影禁止となっております」
「うぅ~、しょうがないかぁ。あっ! 今日は学校の友達も連れてきましたよ」

 沙月の言葉につい普段の喋り方で

「マジか! サンキュー沙月」

 と言うと

「沙月? お嬢様の私を呼び捨てですか?」

 うっ、しまった。

「申し訳ございません、沙月お嬢様」
「うむ、苦しゅうない」
「それではお席の方へご案内いたします」

 と言って沙月の手を取り、席まで案内し

「それではご注文が決まりましたら御呼び下さい」
「はーい♪」

 と言って一旦裏に戻った。
 そして他の奴等の様子を見るとキチンとやってるみたいだ。

 中居もぶっきら棒ではあるが、そこがカッコイイと受けているので問題ないだろう。
 水樹も宣言通り女性客を虜にしているしこの調子なら大丈夫そうだ。

「すみませ~ん」

 今の声は沙月か!
 早く行かないと文句言われそうだったので向かおうとすると、木村が応対しようとしていた。

「御呼びでしょうかお嬢様」
「いえ、あなたは御呼びじゃないです」
「ですが、当店は指名制ではないのでご了承願います」
「嫌です。友也さ~ん、たすけて~」
「なっ!?

 くそ。何やってるんだ沙月の奴は!

「と~も~や~さ~……」
「お待たせ致しました、沙月お嬢様!」
「あ! やっと来たー」
「沙月お嬢様、少々お待ちください」
「早くしてくださいね~」

 俺は木村に小声で

「すまん、コイツは俺が面倒みるから」
「そんな事よりあの子はなんなんだ!」
「怒る気持ちは分かるがここはがま……」
「まるで天使じゃないか! あの小悪魔的な笑顔に天使の様な声!」
「は? 木村なに言って……」
「知り合いなんだろ? 是非紹介してくれ!」
「え~と……」

 どう答えるか迷っていると後ろから

「私は友也さんの彼女なのでごめんなさい」

 と沙月がとんでもない事言いやがった。
 すると木村は

「あぁ、所詮この世は弱肉強食、顔が良ければモテ、悪ければモテないんだー」

 と訳の分からない事を叫びながら裏に引っ込んでしまった。
 その後木村は沙月が帰るまで裏から出て来る事はなかった。
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