第93話 2学期

文字数 2,586文字

 今日から2学期が始まる。
 俺はいつもより早く学校に着いた。

 そして真っすぐに理科室へと足を運んだ。
 昨日の夜、二人に沙月と友華さんの事で話があるから理科室に来るように頼んでおいた。

 理科室のドアを開け中に入ると既に二人が揃っていた。
 
「おはよう、二人とも早いな」
「おはよう友也君」

 と挨拶を交わしていると、南が

「トーモー! おっはよー!」

 と言いながら駆け寄ってきて抱き付いてきた。
 相変わらずスキンシップが激しいなと思っていたら

「あっ! 南ズルイ!」

 と楓までもが抱き付いてきた。

 なにこれ! マシュマロのサンドウィッチだよ!

 っと、危ない危ない。また思考が飛んでいく所だった。
 沙月に迫られて耐性付いていなかったらヤバかった。

 と考えていると

「友也君ネックレス買ったんだ! うん、似合ってる」
「ホントだ! トモかっこいい!」

 と早速ネックレスが見つかったので

「とりあえず二人に伝えたい事があるから離れてくれないか?」

 と言うと二人ともスッと俺から離れ、真剣な表情になる。
 俺は何から話せばいいか迷っていると、楓が

「とりあえずどうなったか結果だけ先に聞かせて」

 と言ってきた。
 なので簡潔に伝える。

「沙月はキッパリ振ったよ、姉の友華さんとは趣味友達の様になった」

 俺の答えを聞いて楓が驚いていた。
 まさか俺がどちらかを選ぶと思っていたのだろうか?

「キッパリ断ったって事は沙月ちゃんに告白されたって事だよね?」
「ああ、そうだ」

 そんなの当たり前だろうと思っていたら

「ファミレスで会った時沙月ちゃんは恋愛しないタイプだと思ったから安全だと思ったのに」
「それであの時沙月は問題ないって言ったのか」
「うん。でもこの短い期間で沙月ちゃんを変えちゃうなんて……さすが友也君だね」
「いや、俺自身何かをしたって訳じゃないんだけどな」

 楓は初めて会った時に沙月が遊びで男を落としてると感づいていたのか。
 それなら沙月の事はちゃんと話した方がいいかもしれないな。

「沙月の事はキッパリ振った。だけどまだ諦めないらしい」
「そうなんだ。でも私は南以外に手を抜く気はないから」

 と久々に楓は凍てつくような雰囲気を出していた。
 そんな楓を見て南は

「改めて私のライバルが強力だと思い知ったよ」

 と呟いていた。

「結果だけを言うとこんな感じだけど、どうしてこうなったか説明させてくれ」

「うん、知りたい」
「私も知りたい! 沙月ちゃんが諦めてないならライバルだしね」

 二人の了承を得たので夏休み中に起こった出来事を話した。
 沙月が柚希の企みに加担してる事だけを伏せて。

「じゃあそのネックレスはプレゼントだったのね」
「ああ、すまない」
「別に謝る事はないわ。そのネックレスをどうするのかは友也君が決める事だから」
「私は付けてて欲しいなー。カッコイイし!」

 本当は二人とも快く思っていないかもしれない。
 でもこれは、涙を流すほどに好きになってくれた沙月がくれたものだ。

「二人とも怒るかもしれないけどこれは大事にしたい。相手が誰であれ、俺のために用意してくれた物なんだ」
「ふふっ、友也君ならそう言うと思った」 
「ねー。トモのそういう誰にでも優しいとこ好き!」

 意外にも二人はすんなりと納得してくれた。

「楓、南……ありがとな」
 ホント、この二人にはかなわないな。
  
  
 続けて、友華さんとの件も報告した。
  
 出会った時から俺を慕ってくれていた事。
 そして、これからも仲良くして欲しいと言われた事。
 
 沙月の時とは違い二人の目に闘志の炎が見えた気がした。
 俺との共通点が多い分、より親密になり得る友華さんは要注意人物らしい。
 まぁ友華さんから好きと言われてキチンと断っていないからしょうがない。
友華さんの中で答えが出た時、その時は俺もハッキリと答えを出そう。

 こうして桐谷姉妹についての報告会が終わった。


 理科室を後にして教室へ向かう。
 道中でチラチラと視線を感じたが、以前の時の様な敵意は感じられなかった。

 教室に着きいつもの溜まり場へ向かうと

「よっす友也、久しぶりだな」
「佐藤君久しぶり~」
「おっす、お前全然焼けてねぇな」

 と三者三様の挨拶を交わした所で水樹が目聡くネックレスに気づいた。

「おっ! 友也も遂にオシャレに興味を持ったか」
「お、おう」
「しかもこれってクロスハーツじゃん! 結構な値段しただろ?」
「ま、まぁな。でも丁度セールやってて安かったんだよ」

 え? このネックレスってそんな高い物だったの?
 沙月の奴、安物とか言いやがって。

 と考えていると、水樹から聞いたのか中居と田口もネックレスに興味を持った。

「へ~、佐藤にしてはセンスあるな」
「うおー、佐藤君似合いすぎっしょ~」

 マジで今度沙月には何かお礼しないと罰が当たるな。

 ひとしきりネックレスやアクセサリーの話題で盛り上がった後、予鈴が鳴ったのでそれぞれ席に着く。
 席に着くと横から

「おはよう佐藤、全然焼けてないね~」

 と及川が挨拶してきたが

「お前、中居と全く同じ事いってるぞ。さすがラブラブカップルだな」

 と揶揄うと

「べ、別にラブラブとかそんなんじゃないから!」

 と耳まで赤くして反論してくる。
 反応が面白いのでもう少し揶揄ってみる

「夏休み中に何か良い事あったんじゃないか?」
「え!」
「え?」

 及川は赤くなる所か茹蛸状態になってしまった。
 何この反応、まさか本当に……。

 と色々な想像をしているとチャイムが鳴り、担任の先生が入って来る。
 相変わらず時間ピッタリに来るなこの人は。

「え~、この後体育館で始業式をやって今日は終わりだが、2学期は文化祭があるから各々何か考えておけよー。明日のLHRで決めるからなー」

 とだけ言って教室から出て行った。
 と同時に教室内がざわつく。

 まぁ無理もない。
 文化祭は一番盛り上がるイベントだからな。


 その後始業式を終え、部活も無いのでいつものメンバーで帰ろうという事になったが

「ごめん、俺これからバイトなんだ」
「友也バイト始めたのか」
「ああ、もうすぐ一か月位になるかな」
「へー、何処でバイトしてんの?」
「駅近くのファミレスだよ」

 俺がそう言った瞬間、メンバー全員が不敵に笑った。
 そして中居が

「それじゃファミレスで文化祭の会議な」

 やっぱりそうなりますよねー。

 どうか沙月が余計な事をしませんようにと祈った。
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