第111話 ライブ

文字数 2,352文字

 俺が体育館に着くと他のメンバーは全員揃っていた。 

「待たせてごめん」
「大丈夫だよ。まだ時間じゃないし」
「それより早く機材運んじゃおうぜ」

 メンバー全員で機材置き場から機材を運び出し舞台袖に置いておく。
 
 そして

「只今より有志団体によるイベントを開催致します」

 というアナウンスが流れ、一組目が演目を始める。

 遂に始まってしまったー、もう引き返せないと考えていると他のメンバーも同じ気持ちなのか

「やべー、始まっちゃったよ~」
「うわー緊張する~」

 と口にしている。
 しかしリーダーの純が

「落ち着けって、俺達はキチンと練習してきたじゃないか」

 とメンバーの不安を払拭させようとしている。

「それに俺達には佐藤がいるじゃないか。皆をビックリさせてやろうぜ!」
「そ、そうだよな!」
「よ、よし、やってやる!」

 とメンバーを鼓舞した後に

「という訳だからさ、今日は思いっきり歌ってくれ」

 と言いながら肩を叩かれ

「ああ、今日は全力で歌うよ。だからミスしても許してくれな」
「ははは、その時は一蓮托生だな」

 気づくと他のメンバーの表情から不安が消えていた。
 さすが今日までバンドを纏めてきたリーダーだ。


 そうこうしている内に俺達の順番が近くなって来た。
 袖から館内をみるとお客さんで溢れ返っている。

 それを見た瞬間足が震え出した。
 こんな大勢の前で歌わなければならない。
 それに失敗は絶対に許されない。

 今までの人生で感じた事の無いプレッシャーを今になって感じていた。
 幸いメンバーには気づかれていないが、このままじゃマズイ。
 
 俺の所為で失敗してしまう!
 と考えていたその時、

「おいっすー、どうだ友也、緊張してないかー?」

 と言って片手を挙げながら水樹が現れた。
 いや、水樹だけじゃなく中居や田口、楓・南・及川までもが舞台袖に居た。

「み、皆、どうして」

 と聞くと中居が

「お前の事だから緊張してんじゃねぇかと思ってな」
「中居……」

 中居の言葉に続く様に皆が声を掛けてくれる。
 しかし、喫茶店の主力が殆ど店を抜け出してしまっているのでそちらも気になったが

「ああ、喫茶店なら今日はもう営業中止になったよ」

 と水樹が言う

「え? どうして?」

 と俺が戸惑っていると、いきなり背中をバシーンッ! と叩かれた。
 後ろを振り返るとそこには何故か早川の姿があった。

「私のリーダー権限で今日は中止にしたんだよ。残り時間も少なかったしね」
「いや、それは流石にやりすぎなんじゃないか?」
「誰の所為だと思ってるわけ? 友也が心配で皆が集中出来てなかったからそうしたんだよ」

 そう言われ再びグループのメンバーを見渡すと

「俺達だけじゃないぜ、あそこ見てみろよ」

 と水樹に促され、入り口近くを見ると、クラス全員が集まっていた。
 その横には沙月と友華さんの姿もあった。

 俺は目の奥が熱くなるのを感じながら

「皆ありがとう」

 と言うと水樹が

「今まで頑張ってきたお蔭だな。皆友也の事を認めてるよ」

 その言葉を聞いて遂に目から熱い物が流れてしまった。
 そんな俺を見た楓が

「もう、友也君は泣き虫だなぁ」

 と言いながら涙を拭ってくれた。
 その直後に後ろから抱きしめられ

「私は、私達はいつでもトモの味方だから頑張れ!」

 と南が言い

「佐藤が頑張ってたのは皆知ってるからね~。取りあえず全力でぶつかっていこー!」

 と及川が言ってくれる。

「佐藤君~、泣きすぎだって~。俺等のリーダーの凄い所見せてちょーだいよ」

 と田口にまで慰められたしまった。不覚!

「皆……俺がんば……っ痛ぁ!」

 俺が感謝の言葉を伝えようとした時にまたもやバシーンッ!と背中を叩かれた。
 俺は早川の方を向き

「何すんだよいてーな!」
「っつーか私の話終わってないんだけど」

 と言いながらズイッと顔を近づけてきた。

 女の子特有の甘い匂いに大きな瞳に長いまつげ。
 程よい大きさの胸に金髪の巻き髪。
 そしてプルッとした唇から放たれた言葉は

「あんたの為に店閉めたんだから、ちゃんと宣伝してきなさいよね!」

 と言ってプイッと踵を返して舞台袖から出ていった。

 それを見ていた中居が

「あの早川にあそこまで言わすとかマジハンパねぇな!」

 と言われた。


 そうこうしている内に

「佐藤、俺達の番だぞ、急げ!」

 と純から声が掛かった。
 
「それじゃ皆、行ってくる!」

 そう言って俺は舞台に立った。


 
 ステージから見る景色は圧巻だったが、皆のお蔭で緊張はしなかった。
 
 最初の一曲を終えてメンバー紹介した後に少しのMCが入る。

「そして最後に臨時ボーカルの佐藤友也です」

 と言うと皆がそれに合わせて音を重ねてくれる。
 すると、テレビの中でしか聞いたことのない黄色い声援が館内を包んだ。

「俺は正規のメンバーではないけど、ここまで来れたのは友人のお蔭だと思ってます。俺一人では絶対にこの舞台には立てなかった。この場を借りて言わせて下さい。ありがとう」

 俺が頭を下げると、館内からは拍手が巻き起こった。

「こんな俺の為に店を閉めてクラスの皆が応援に駆けつけてくれました」

 おぉ~! という声が漏れる中

「ぶっちゃけ売り上げがヤバイのでみんなに来てもらえると助かります。2年3組でメイド&執事喫茶やってます。明日は俺が執事服を来て皆さんをもてなすので是非来てください」

「きゃー! 絶対に行くー!」
「佐藤君頑張ってー!」
「佐藤君ステキー!」

 という声援の中

「では次の曲です。『 I wanna be with you 』 聞いてください」



 こうして俺の人生で最初で最後であろうライブが終わった。

 最初はどうなるかと思ったけどグループの皆やクラスの皆、果ては早川にまで応援されて無事に成功させることが出来た。

 因みに、柚希は最前列でスマホ片手にご満悦だった。
 
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