第116話 お見舞い③

文字数 2,452文字

 身体が熱くて目を覚ます。
 時計を見ると1時を少し回った所だ。

 寝付いてから1時間ほどしか経っていない。
 また熱が上がってしまったのかもしれない。

 熱を測ってみると37.2度と平熱より少し高い位だ。
 それなのにこの身体の熱さはなんなんだ?

 そこでとあるモノが目に飛び込んでくる。

『これで自信回復! 精力増強赤マムシドリンク』

「……」

 もしかしてあのドリンクの所為か!
 道理で動悸もする訳だ。

 それに……元気になっちゃってるよ……。

 確か多少の熱なら風呂に入っても大丈夫らしいからシャワーを浴びてスッキリしよう。
 それに昨日から汗を一杯かいて気持ち悪い。


 少し熱めのシャワーで汗を流し、湯冷めしないように丁寧に身体を拭く。

 サッパリして大分気分が落ち着き、部屋へ戻るとスマホの通知ランプが光っていた。
 確認すると沙月からのLINEだった。

〈起きてますか?〉

 とだけ送られてきている。
 なので

〈起きてるよ〉

 と短く返す。
 すると直ぐに既読がついた。

ピンポーン

 とまたしてもインターホンが鳴る。
 俺は嫌な予感を感じてモニターで確認すると、そこにはスマホ片手に佇んでいる沙月が居た。

 南といい沙月といい、学校をサボってまで来てくれるなんて……。
 なんて感動は無く、こんな事で一々サボるなと言いたい。

 玄関まで行き、ドアを開けると

「もーっ! どうして直ぐに開けてくれなかったんですかー」
「いや、結構直ぐに開けただろ」
「インターホンも何回鳴らしても応答無かったですし」
「ああ、さっきまでシャワー浴びてたから気づかなかった」
「シャワー!? 熱とかは大丈夫なんですか?」

 と言って慌てた様子で聞いてくるが、そんなに心配なら怒らないで欲しい。

「熱は大分下がってるから大丈夫だ」
「ふぅ、そうですか。安心しました」
「ああ、もう大丈夫だから学校に戻れ」
「大丈夫ならお邪魔しますねー」
「ん?」
「へ?」


 沙月に強引に押し切られ現在沙月は俺の部屋で待機中だ。
 そして何故か病み上がりの俺がコーヒーを淹れている。

 コーヒーを持って部屋に戻ると、何故か沙月が布団にくるまっていた。

「何してるんだ?」
「まるで友也さんに包まれてるみたいです……」

 と言って顔を赤くしている。
 赤くなるならやるな! こっちまで意識しちゃうだろ!

「そんな事言ってないで布団から出ないと帰らすぞ」
「もぅ、つれないですね~」

 と言いながらベッドから降りる。

 沙月と入れ替わりで俺がベッドに入ろうとすると

「私の匂いを嗅ぐんですか? 友也さんのエッチ」

 と言われたので横になるのは我慢してベッドに腰を掛けている。
 沙月はコーヒー片手にキョロキョロと部屋の中を見渡している。

 どうせ汚い部屋だの、ヲタク臭い部屋だの言われるのだろう。
 今更そんな事を言われても少ししか傷つかないので放置していると

「友也さん、これなんですか?」

 と言ってとあるDVDをヒラヒラさせている。

「ちょ、おま、どうしてそれを!」
「友也さんが下に居る時にちょ~っと家探ししました」
「何やってるの! 早くそれ返せ!」

 と言って沙月から奪おうとするが、ヒョイと躱されてしまう。

「このDVDの女の子って誰かに似てるような気がするんですよね~」
「き、気のせいだろ」
「あ! 楓さんに似てますね! もしかしてこのDVDで……」
「違う違う! ただの偶然だし、そんな事全然してないし!」

 と言うと、沙月は若干引き気味に

「必死過ぎですよ……」

 と言ってDVDを返してきた。

 ああ、もういっそ誰か殺してくれ……。

 俺が落ち込んでいると、沙月はまた勝手にベッドに上がり

「友也さん、どうですか~?」

 と言って変なポーズをしている。
 そのポーズの所為でシャツの隙間から谷間が見えてしまっている。

「何やってるんだ?」
「雌豹のポーズです!」

 はあ、とため息を吐くと今度は違うポーズを取り出した。
 そして今度はパンツがチラリと見えている。
 何なの! 羞恥心とかないのかコイツは!

「今度は何のポーズなんだ?」
「えっと、男性をその気にさせるポーズ? らしいです」
「らしいですってなんだ! ってか、そ、そんなのでその気になる訳ないだろ」

 嘘です。凄いドキドキしてます。

「むぅ~、後はえむじかいきゃく? っていうのを試してみますね~」

 と言ってもぞもぞし出したので、慌てて沙月の肩を掴んで止める。

「や、やらなくていいから!」
「え~、でも興奮しなかったんですよね?」
「っていうか何でそんなに興奮させたいんだ? 痴女なのかお前は?」
「失礼ですね! 風邪の時は性的興奮すると治りが早くなるらしいんですよ!」

 はあ、沙月も変な知識に踊らされている。
 そんなのは都市伝説みたいな物だろう。

「そんな事で女の子が男の部屋であんなポーズするな! 襲われても仕方ないぞ!」

 と両肩を掴み、敢えて耳元で言って注意すると

「それって友也さんが私を襲いたくなったって事ですか?」
「ちが、そうじゃなくて……」
「でも友也さん呼吸が荒いですよ?」

 と言われて気づいたが、何だか沙月の呼吸も少し荒い気がする。

「それは……急に激しく動いたからだ」
「でも、凄いドキドキしてますよ」

 と言いながら沙月は俺の胸に手を当てる。
 そして沙月の顔が段々と近づいてくる。

 いつもなら止めさせるのだが、頭が朦朧(もうろう)として言う事を聞かない。

「友也さん……私やっぱり友也さんの事が……」
「沙月……」

 お互いの吐息が掛かるほどの距離。
 伝わる体温と女の子の匂い。
 それら全てが思考をシビレさせる。

 あぁ……止まらない……。

 唇が微かに触れた瞬間

「ただいまー! 元気になっ……お邪魔しました」

 いつの間にか帰っていた柚希がノックも無しにドアを開け放った。
 そして今の状況を見てドアを閉めようとしているので

「待て待て! 誤解だから!」

 と叫んで引き止める。


 その後、俺と沙月で必死に弁明をしてやっと誤解が解けた。
 
 しかし沙月が帰り際に放った一言で全てが水泡と化した。



「あれでも一応、私の初めてですからね♪」
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