第38話 友情

文字数 2,611文字

 教室に入り自分の席に着くと、及川と話していた水瀬がやって来て

「朝から見せつけてくれるね~! このこの~」

 と言いながら肩を叩かれた。痛いよ。
 及川もそれに乗っかり揶揄ってくる。

「もうラブラブだね~。よ! 色男」

 この二人が組むとやっかいだなぁ。
 そこで俺は反撃する事にした。
 及川に手招きをし、近くに来た所で耳打ちをする。

「及川こそ中居とはどうなんだ?」

 俺がそう言うと、一瞬で顔が赤くなり俺を睨みつける。

「そ、それは今関係無いし! それに中居の事なんて……」
「好きなんでしょ? 誕プレも買ったし」
「む~~!」

 真っ赤な顔で唸りながら睨まれた。
 揶揄い過ぎたみたいだ。
 俺達のやり取りを見ていた水瀬が

「なになに、佳奈子顔真っ赤じゃん! 佐藤なにしたの?」
「アドバイスを送っただけだよ」
「アドバイス?」
「詳しくは及川に聞いてくれ」

 と言って俺はそそくさと戦線離脱した。
 そこでふと視線を感じ、視線の先を見る。
 楓が怒った表情で俺を見ている。
 なにやら口を動かしている。
 読唇術とか出来ないけど、分かりやすかった。
 く・っ・つ・き・す・ぎ
 これは後で謝らないと怖そうだな。

 そうこうしている内に予鈴がなり、担任が教室に入って来た。

「明後日からゴールデンウイークだが、明けたらすぐに郊外遠足があるので五月病になるなよ~」

 とだけ言って出て行った。
 あの人は必要最低限の事しか話さないので楽だ。
 そのまま1時限目の準備をし、少し休もうと机に突っ伏した。

 4時限目が終わり、昼休みになりいつもの窓際後方へ向かおうとした時

ガンッ
 
 と、急いで食堂に向かうクラスメイトの足が俺の机に当たった。

「わ、わりぃ。大丈夫か?」
「大丈夫、何ともない」

 特にこれと言って被害が無かったのでそう答える。
 今まではこんな事はなかったがたまたまだろう。
 そのままいつものグループに混ざり昼食を摂る。
 楓の距離が肩が触れる位近いがこれも気にしない。
 気にしたら緊張で食事が出来なくなってしまう。

 その後何事も無く授業を全て終えて帰り支度をしていると

「一緒に帰りたいけど部活があるから……」

 と楓が俯きながら言ってきたので

「楓はエースなんだから頑張れ! また今夜LINE送るから」

 と言い頭を撫でる。
 すると満面の笑みで

「うん! 待ってるから」

 と言って部活に向かった。
 無意識に頭撫でたけど今頃恥ずかしくなってきた。
 隣の及川はニヤニヤしてるし。
 俺は逃げる様に「じゃ俺は帰るから」と言って教室を飛び出した。

 その日の夜、いつもの会議が柚希の部屋で行われた。

「新島先輩とは何か進展はあった?」

 と開口一番に聞いてくる。

「そんな直ぐに進展なんてしないよ」
「はい嘘!」
「なんで!」
「部活中ずっと新島先輩機嫌よかったもん! 何かしたんでしょ?」
「うっ……」

 ついさっきまで楓とやり取りをしていて、機嫌が良かった心当たりはある。
 無意識に頭を撫でた事がかなり嬉しかったらしい。
 まさか部活にまで影響していたとは。

「ほら~、何をしたの? キスしちゃった?」
「き、キスはしてない! 一緒に帰れないって落ち込んでたから今夜連絡するって言って頭撫でただけだ」

 キスとか何考えてんだ柚希は。俺達は清い交際をしているのだ。

「ある意味キスより効果的な事してるじゃん。そんな事されたら女の子はひとたまりもないよ」
「え? そうなのか?」
「やっぱり無自覚でやってるんだ……」

 柚希はやれやれという感じで首を振る。
 俺はそんな凄い事してたのか?
 柚希はコホンとわざとらしく咳をして

「他には普段と変わった事は無かった?」
「んー、雑巾が頭に当たったり、机けられたりしたかな」
「それってやっぱり……」
「どっちも偶然だと思うぞ? メッチャ謝ってきたし」

 そう、偶然が重なっただけだ。今言った通り凄い謝ってきてたし。
 自分で自分に言い聞かせる。

「お兄ちゃんがそう言うなら……。でもこれからも何かあったらすぐに言ってね」
「ああ、分かってる」
「でも、新島先輩には言わない方がいいかも」
「わかってるよ。心配させるような事はしないって」

 そう言って今日の会議を無理やり終わらせて部屋に戻る。
 柚希が最後に言った「そういう意味じゃないんだけどなぁ」というのは聞かなかった事にしよう。
 明日も楓と登校だから早めに休もう。

 楓と一緒に登校し、今日は何事も無く放課後を迎えた。
 部活に行くまでの短い時間だがグループで集まって話している時だった。

「今日は特に何も無かったな」

 と水樹が言う。
 まぁ、これと言って面白い事とかもなかったしな。
 と考えていると

「俺等がずっと見てたしな。やりたくてもできなかったんだろ」

 と中居が言う。
 何の話をしているのだろう?

「何の話?」

 と聞くと、突然水樹に肩を組まれ小声で

「友也に嫌がらせする連中の事だよ。昨日やられてただろ?」
「あれは偶然だろ」

 楓に聞かれない為に肩を組んだのか。
 そこに反対側から中居も肩を組んできて

「どこまでお人好しなんだお前は。あれはワザとだ」
「でもメッチャ謝ってきたし」
「お前があいつらから目を逸らした瞬間笑ってたんだぞ? それでも偶然か?」

 中学時代の事が蘇る。
 
 『ごめん、ワザとじゃないんだ』
 『ごめん、気づかなかった』
 『あいつ、ごめんって言っとけば何でもできるよな』

 俺の表情が曇ったのが分かったのか、水樹と中居は

「とりあえず俺等の目の届く範囲ではもうやらせないから心配すんな」
「ああ、次見つけたらブッ飛ばす」

 と心強い事を言ってくれる。
 俺はその言葉に感動し涙が出そうになるが、必死に堪える。

「水樹、中居ありがとう」
「いいっていいって、仲間だからな」
「俺は弱い者虐めが嫌いなだけだけどな」

 こいつ等と知り合えて良かった。

 その日の夜、水樹と中居の言葉を思い出しては嬉しさに悶えていた。
 これが友情って奴なんだな。
 
 スマホの通知音が鳴り、画面を確認する。
 さっきまでの幸せが吹き飛んだ。
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