第162話 出陣!

文字数 3,175文字

 真弓さんの過去を聞いて、そして何処か心当たりがないか聞いてみると、真弓さんは確信を持って
『あの場所にいる』と断言した。
 そも言葉を聞いて、俺と水樹の目の色が変わる。
 そして二人同時に真弓さんに詰め寄る。

「真弓さん! それは何処ですか!?
「店長さん! その場所は何処なんですか!?
「待て待て、落ち着け。今教える」

 興奮している俺達を宥めると、遂に真弓さんの口からその場所が明かされた。

「街の外れに廃校があるのは知っているか?」
「廃校……ですか」

 廃校と言われても俺にはピンと来なかったが、どうやら水樹には分かったようだ。

「元中学校で、夏場になると肝試しとかによく使われている廃校ですか?」
「ああ、その廃校だ。恐らく景山はそこに居る」
「分かりました。ありがとうございます!」

 お礼を言って立ち去ろうとする水樹……いや、この場の全員に向かって

「お前達だけで行くのか? 相手は何人居るかも分からんし、凶器を持ってる可能性だってあるんだぞ?」

 真弓さんの意見はもっともな意見だ。だけど

「そんな物は関係ありません。俺の、俺達の大切な人が攫われたんです。ここで助けに行かなきゃ男じゃないでしょ!」
「全く、友也も言う様になったじゃないか。警察には私から連絡しておく。くれぐれも先走った行動だけはするなよ」
「ありがとうございます!」

 今度こそ助けに行こうとすると、楓に止められた。

「待って友也君!」
「どうしたんだ楓、早く助けに行かないと」
「その事なんだけど私も一緒に連れてって!」

 俺が驚いていると、残りの女性陣も楓につられる様に口々に一緒に助けに行くと言い出す。
 そして及川が

「私は相手の車見てるからきっと役に立つよ!」

 と震える足で必死に自分も行くのだとアピールしてくる。
 確かに相手の車を直接見た及川がいれば犯人の車を見つけやすくなるだろう。

「ありがとう皆。だけど一緒に連れて行く訳にはいかない」

 俺の拒絶に激しく動揺する。
 そんな中、さっきまで冷静だった楓すらも食い下がってきた。

「どうして私達が行ったらダメなのかな? 二人を助けたい気持ちは本物だよ?」
「ああ、気持ちが本物なのは分かってる。だけど連れていけない」
「どうして?」
「相手は柚希と沙月を攫う様な奴等だ。何をしてくるか分からない。そんな所に連れてはいけない。それに万が一楓達の身に何かあった時、俺は責任を取る事ができない。楓ならその意味が分かるだろ?」
「……うん」

 俺の説明を受けて、楓は納得いかないけど納得したという様子で渋々頷いた。
 しかし、納得できなかった及川が食い下がって来る。

「私達だって役に立ちたいんだよ! 私達だって心配なんだよ!」
「及川、気持ちは嬉しいんだけどやっぱりダメだ」
「どうしてよ!」

 及川の食い下がりにどうしたもんかと悩んでいると中居が

「お前ら女は邪魔なんだよ。こっからは男の戦いだ」
「は? 何それ! 女だから連れてけないって事?」
「そうだ。佐藤が言ってた事を要約するとそうなる」
「それって女性差別じゃん!」

 俺が言葉を濁した事を中居はズバッと言いやがった。
 
「及川!!
「な、何よ」
「俺達はお前達に傷ついて欲しくないんだ。もしお前が人質になったらと思うと怒りでどうにかなっちまいそうだ」
「中居……」
「佐藤と水樹は今まさにその状態なんだ。だから早く行かせてやれ」
「うぅ~~~~っ! 分かった、大人しく待つ! 佐藤!!

 悩みに悩んだ末、及川は残る事を決断したと思ったら威勢よく俺の名前を呼ばれた。

「な、なんだ?」
「絶っっっ対二人を助けてきてね!」
「ああ、任せろ!」

 力こぶを作って自信満々に応える。
 そして俺は中居に

「中居、頼みがある」
「ぁん? なんだ? 喧嘩なら手加減しないぜ」
「いや、中居は女子達を家まで送っていってくれ」
「はぁ? 俺も助けに行くに決まってるだろ。女共は此処で待機でいいだろうが!」
「中居の言う事も一理ある。だけど……頼む! 中居だけが頼りなんだ!」

 そう言って俺は深く頭を下げる。

「……ったく、お前にそこまでされたら断れねぇな」
「中居……」
「なんてツラしてんだよ。女共は任せろ。その代わり俺の分も暴れてこい!」
「あ、ああ。暴れまくってくるよ。楓達は任せた」
「おうよ」

 中居の頼もしい返事を受けて俺と水樹は外に飛び出した。
 駐輪場に着き、水樹がバイクに跨りエンジンを掛ける。

「よし! 友也乗れ」
「ああ」

 及川の目撃情報から時間が経っている為、俺も急いで後部座席に乗る。

「なぁ、廃校って此処から遠いのか?」
「少し離れてるな。けどコイツで飛ばせばそんなに時間は掛かんねぇよ」
「ガッチリ捕まっとくから気にせず飛ばしてくれ!」
「オーケー! そんじゃ行くぞ!」

 こうして俺達は柚希と沙月を助けるべく、ファミレスを後にした。



 公道を暫く走った後、細い脇道に入りそして再び暫く走ると周囲には田んぼが広がっていた。
 自動車がやっと一台通れる位の道を進むと、うっすらと廃校らしき物が見えてきた。
 そして廃校がくっきりと見える位置まで来た時、水樹がバイクを止めた。

「どうしたんだ水樹? もうすぐで着くだろ?」
「だからこそ、此処からは徒歩で行こう。エンジン音で気づかれちまうからな」
「なるほどな。オッケ、分かった」

 バイクを落ちていたトタン板で隠し、俺達は最新の注意を払いながら廃校に向かった。
 

 廃校の傍までやって来たが、今のところ話声等は聞こえてこない。
 周囲を警戒しながら正門に行くと車が数台停まっていた。

「水樹、この車って……」
「ああ、店長さんの言った通りだったな」

 正門に停まっている車の何台かには、及川が言っていたステッカーが貼られていた。
 それに、俺が見た車も停まっている事から景山も此処に居るだろう。
 ここで一旦真弓さんに連絡を入れる事にした。

「もしもし佐藤です。真弓さんが言ってた通り廃校に車がありました」
「やはりか。こっちは警察が来て今及川さんから事情を聞いてる所だ」
「そうですか。こっちにはどの位で警察は来るんですか?」
「それが及川さんの話を聞いてからでないと動けないらしい」
「何なんですかそれは! 一刻も早く助け出さないと!」
「はやる気持ちはわかるが、及川さんの証言に信憑性がないと動けないらしい」
「くそ! だったら俺達だけで助けます!」
「待て友也! 早まった行動は……」

 真弓さんがまだ何か言っていたが、それを無視して通話を切った。
 ちくしょう! こういう時に警察が動かなくてどうするんだ!
 こうなったら俺達だけで助け出すしかない。
 
 真弓さんとの会話の内容を水樹に伝えると、水樹も俺に賛同してくれた。
 警察の対応が遅い以上、俺達が助けないと。

「どうする? 校舎の何処に居るか分からない」
「とりあえず一階から順番に見てくしかないな」

 周囲は田んぼに囲まれていて街灯も無い中、廃校には明かり一つ見当たらなかった。
 こうなると何処に隠れているのか分からないので、教室を一つ一つ確認していく事になった。

 俺達が校舎に忍び込んでからどの位の時間が経っただろう。
 今は三階まである教室の一番最後の教室の中に居る。

「全部の教室を見たけど影も形も無いな」
「チッ! あいつら何処に隠れてやがる」
「教室に居ないとなるとあとは体育館とかか?」
「そうだな。かなり時間食っちまったから忙がねぇと!」

 最後の教室も空振りで、急いで体育館に向かおうとした時、窓の外で光がチラついた。

「待て水樹!」
「どうしたんだ友也。早くしねぇと……」
「あれを見てくれ」
「ん? 窓の外に何……あれは!」

 三階の隅にある教室の窓から見えたのは、体育倉庫らしき場所に数人がたむろしている所だった。

「水樹!」
「ああ、行くぞ!」

 俺達は掃除用具入れから武器になりそうな物を持ち、体育倉庫に向かった。
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