最終話 夜明け、そして――

文字数 3,437文字

 景山が連行された後、俺達も事情聴取を受ける事になった。
 俺は怪我をしていた為、病院で治療を受けてからだったが。
 その事情聴取も終わり部屋から出る。

 事情聴取をする部屋は二階にあり、階段を降りて行くとロビーでは両親と柚希が待っていた。
 階段を降りて行く俺の姿を確認した父親が俺の元まで走ってくる。
 心配かけたし怒られるだろうなぁ。
 それに怒られても仕方ないか。あの日、父さんとしたあの約束()を破ってしまったんだから
「友也……」
「父さん、ごめんなさ……っ!」

 謝ろうとすると、突然抱きしめられた。
 何が何だか分からず混乱していると

「心配させるな!」

 と言って強く抱き締めた後に

「よくやったな、偉いぞ」

 と、褒めてくれた。
 父さんに褒められるのはいつ以来だろうと考えながら

「心配かけてごめん。それと約束を破ってごめんなさい」
「お前達が無事だったんだ、お前が謝る必要は無い」

 そう言って身体を離し、真っすぐ目を見つめて

「今までお前に手を差し伸べてやれなくてすまなかった」

 と言って頭を下げる。
 どうしたらいいか分からずあたふたしていると、母さんと柚希がやって来た。
 そして母さんは父さんの隣に立つと

「父さんは不器用だから、愛情の注ぎ方が分からなかったのよ」

 そう言いながら父さんの肩にそっと手を添える。父さんはその手を包み
 
「母さんにも苦労をかけたな」
「もう、何言ってるの。私は友也が立派に育ってくれて嬉しいわ」
「母さん……」

 今まで自分の殻に閉じこもり、親不孝をしてきた。
 そんな俺を認めてくれている。
 親に褒められるのはいつ以来だろう。
 中一の時にひどく言い合ってからほとんど話さなくなったからな。
 俺も何か言わなきゃ……。

 そう考えていると、柚希が

「お兄ちゃん、また()助けてくれてありがとう!」

 そう言って無邪気に笑って飛びついてきた。

「いてて……そっちの腕はやめてくれ」
「こーら、柚希! お兄ちゃんを困らせないの」
「ははは、お前達は相変わらず仲が良いんだな」

 永い間忘れていたような感覚。
 まるで子供の頃に戻ったような、少し歯がゆい気持ちになった。


 ―――そっか、そうだったよな。

 

「父さん、母さん。それに柚希、ただいま()

 俺の言葉を受けて目を丸くする三人だが、すぐに笑顔になり

おかえりなさい()

 と声を揃えて言ってくれた。


 しばらく話し込んで、そろそろ帰ろうとした時、何やら入り口の方が騒がしくなった。
 
「肉まんに醤油かけて食べると美味しいんだって!」
「いやいや、想像できねぇわ」
「俺はからしを付けて食うのが好きだな~」
「え~、からしの方がありえなくない」

 肉まんの話で盛り上がりながらロビーに入ってきたのはいつものグループメンバーだった。
 もしかして一晩中待っててくれたのだろうか。
 これが仲間って事なのかな……。

 俺が感慨に耽っていると、沙月が俺に気づいた。

「あ! 友也さん!」
「え! マジ!」
「やっと終わったのか!」

 沙月が俺の所まで走ってきて、すかさず頭を下げる。

「助けてくれてありがとうございます!」

 署内に響き渡る程の声量でお礼を言われる。
 沙月も自分の所為で俺が怪我したとか思って責任を感じてるのかもしれない。

「沙月、頭を上げてくれ」
「……はい」

 頭を上げた沙月の目は、やはりというべきか。泣き腫らした痕があった。
 沙月には怖い思いもさせてしまったけど、無事で良かった。
 そして俺は今にも泣きそうな沙月を抱きしめて

「怖い思いをさせてごめん、無事でいてくれてありがとう」
「そんな……友也さんは助けに来てくれたじゃないですか。それであんなに傷だらけになって」
「馬鹿だな、彼女を助けるのは当たり前だろ? 沙月が無事だったんだ、こんな傷安いもんさ」
「友也さん……大好きです」
「俺も沙月の事が大好きだ」

 自然と顔と顔が近づき、唇は振れるか触れないかの所で

「コホンッ!」
「「あっ……」」

 両親が居るのをすっかり忘れてた。
 俺達は慌てて離れ、沙月を紹介する。

「この子は桐谷沙月(きりやさつき)っていって、俺の彼女だよ」

 俺が両親にそう紹介すると、沙月はわたわたと慌てて

「き、桐谷沙月といいます! 不束者ですがよろしくお願いします」

 と言って深々とお辞儀をする。
 いや、不束者って!

「うん、いい子じゃないか。友也が必死に助ける訳だな」
「そうね。沙月ちゃんって呼んでもいいかしら?」
「あ、えっと。はい! 喜んで!」
「ありがとう沙月ちゃん。そうだ! 今度家に遊びに来て! 一緒にご飯たべましょ」
「は、はい! 喜んで!」

 沙月が緊張のあまり返事が居酒屋みたいになってしまっている。
 だけど父さんと母さんに気に入られたようで何よりだ。

 沙月と母さんが少し離れて話している。
 沙月が居なくなったのを見計らった様に水樹達が俺の元にやってきた。

「挨拶が遅れてすみません。友也くんの友達の水樹孝弘(みずきたかひろ)といいます」
「これはこれはご丁寧にありがとうございます」
「そしてこいつらが愉快な仲間達です」

 と水樹が紹介すると

「ふざけんな水樹! 俺は中居です」
「水樹君そりゃないっしょ~。俺は田口っていいまーす!」
「あんたたちうるさい! 私は水瀬南(みなせみなみ)です」
「もう! 静かにして! 私は及川佳奈子っていいます」
「騒がしくてすみません。私は新島楓(にいじまかえで)です」

 皆が代わるがわる自己紹介をしては少し離れた所で言い合いをしている。
 元凶の水樹は外側からくくくっと笑いながら見ている。
 その光景を見た父さんが

「良い友達を持ったな、大切にしなさい」

 と言いながら背中ポンッと叩く

「俺達に構わずに彼等と話してきなさい」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は皆の元へ駆け出していた。

 
 皆と合流すると、話題は事情聴取の話になった。
 どう言う事を聴かれたか等話した後

「かつ丼出なかったな」
「それ俺も思った!」
「俺も俺も! 楽しみにしてたんだけどな~」
「何か自腹なら食えるらしいぜ」
「マジかよ! こっちは被害者なんだからタダにしろっての」

 とかつ丼の話で盛り上がっていると、南が突然叫んだ。

「あーーー! 皆外見て外!」

 いつも以上に興奮している南に言われるがまま外を見ると

「日の出だ」
「おぉ、スゲェな」
「綺麗~」

 と見蕩れていると水樹が

「待て待てお前ら。今日は何月何日だ? ただの日の出じゃないだろ」

 水樹に言われて気づく。
 そうか、今日は元旦か。
 他の皆も今日が元旦だと気づいたらしく、中居が

「だったら外で見るっきゃねーよなぁ!」

 と言って出て行ってしまった。
 その後を及川が

「あ! ズルーい! 私も行く!」

 と中居を追いかけて出て行く。
 そして気づくと全員で外に出ていた。
 沙月もやっと母さんから解放されたらしく、柚希と一緒に俺の隣に並ぶ。

「初日の出だー! みんなー、今年もよろしくー!」
「水瀬、うるせぇよ」
「えぇ!」

 中居が南を注意する。
 確かに近所迷惑だな。
 
 中居が一歩前に出ると

「ここはリーダーに挨拶して貰うか」

 と変な事を言うと、俺以外の全員が頷く。
 そして中居に腕を引っ張られて前に出ると

「もうお前がリーダーだ。ちゃんと締めてくれよ」

 と言ってニカッと笑う。
 正直、俺がリーダーなんてありえないだろ!
 なんてちょっと前の俺なら思ったかもしれないな。
 だけど、俺だって成長してる! それを皆が認めてくれてる。
 それだけで俺は自信を持つ事が出来る。

「おう、任せろ!」

 と、俺は胸をはって言い切った。


 一旦解散して、今は初詣に行く準備をしている。
 着替えを終えて一息ついてると、ドアがノックされた。
 ドアを開けると、振り袖姿の柚希が立っていた。
 柚希は恥ずかしそうに立っていた。

「よく似合ってるじゃないか」

 と言うと、柚希は顔を赤らめて、モジモジしながら

「あ、ありがとう。他の皆もそう言ってくれるかな?」
「当たり前だろ」
「お兄ちゃんが言うんなら大丈夫だね」

 やっぱり柚希は変わったな。
 今までの柚希なら自信満々で皆から褒められる事を疑わなかった。
 それに雰囲気が柔らかくなった感じだ。
 
 準備を終えて二人一緒に家を出る。
 待ち合わせ場所に向かう途中、柚希が口を開いた。
 
「ねぇお兄ちゃん」
「どうした柚希?」
「私、お兄ちゃんの所でバイト始めようと思うの」
「どうしたんだ急に?」
「新しい自分になりたいの。色々教えてね」
「そうだなぁ、先ずは―――」


 自己顕示欲の強い妹にプロデュースされる事になった俺が
 自己顕示欲が無くなった妹をプロデュースする事になった。
 
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