第154話 ~沙月の女子会~

文字数 3,619文字

 「全くもう! 友也さんったら「似合ってる」の一言も言ってくれないなんて!」

 さっきまで友也さんとクリスマスに着るサンタコスを買いに行っていたけど、何を着ても褒めてくれないし、何処か素っ気ない様に感じて、それが頭にきて一人で帰っている最中だ。

「でも、あれだけで怒るのは大人げないかなぁ」

 友也さんは必死に私の事を追いかけてきてくれてたけど、今更どんな顔で会えばいいか分からないから家とは反対方向の電車に乗ってしまった。

 そして今は自宅の最寄り駅まで戻ってきて、ベンチで時間を潰している。
 改札を出ようとしたらロータリーのベンチに友也さんが居たので慌てて戻って今に至る。

「はぁ~、これからどうしよう」

 私がそう独り言ちると

「何が? どうかしたの?」

 私の独り言に返事が返ってきてビックリして声のした方を向くと、そこには及川先輩が立っていた。

「及川先輩! どうも、こんにちはです」
「うん、こんにちは」

 気のせいかな? いつもの元気が無いように感じる。

「それで? 何を落ち込んでるの?」
「バレちゃいましたか」
「まぁね、あれだけ深いため息ついてたらね」
「あは、あはは……」

 恥ずかしい! 周りに聞こえる位だったなんて!
 でもどうしよう。素直に言った方がいいのかな。
 
「えっとですね、実は友也さんと喧嘩しちゃいまして……」

 私がそう白状すると、及川先輩はグイッと身を乗り出して

「沙月ちゃんも? 実は私も和樹と喧嘩しちゃってさー」

 なるほど、だからいつもより元気が無い様に感じたのか。

「沙月ちゃん、これから時間ある?」
「はい、大丈夫ですけど」

 と言いながら、ロータリーで待っている友也さんが脳裏を過ったけど、やっぱり今は会えない。

「よかった、それじゃあ少し私に付き合って」

 と言って及川先輩と一緒にベンチを離れた。
 今考えてみると、友也さん以外の先輩と二人きりは初めてだ。
 及川先輩は友也さんと一緒のグループで冗談が言い合える仲というのは前に聞いた事がある。
 という事は私が及川先輩に嫌われたら友也さんに迷惑を掛けちゃうかもだから気を付けないと。

 そんな事を考えている内に目的地に着いたようだ。
 
「ここでいいかな?」
「はい、大丈夫です」

 連れて来られたのは駅構内にある喫茶店だった。
 ここは私も良く利用する。

 席に座り注文を済ませると、及川先輩が直球を投げて来た。

「どうして佐藤と喧嘩したの?」
「えっと、実は……」

 今日の出来事を話すと及川先輩は興奮気味に

「私もまったく同じ! 似合ってるとか可愛いとか全然言ってくれなくて、それで喧嘩しちゃったんだよね」
「及川先輩もだったんですか」
「そうなんだよ~。あ! 私の事は佳奈子って呼んで。沙月ちゃんはもうウチのグループの一員なんだし」
「はい、では佳奈子先輩って呼ばせていただきます」
「う~ん、それでもまだ固いけどまぁいっか」

 佳奈子先輩は一人納得してパフェを一口食べた。
 私もパフェを口に運びつつ質問する。

「喧嘩した時ってどうやって仲直りしてるんですか?」
「分かんない。付き合って半年以上経つけど初めて喧嘩したから」
「そうなんですか。じゃあ今まではラブラブだったんですね」
「ん~、どうだろう。和樹って基本的に私の服とか褒めてくれないし、好きって言ってくれないしで、それらが蓄積していって爆発した感じかも」

 そういえば友也さんも最初の告白以来私に好きって言ってくれてないかも……。
 
「私も好きって言って貰えてないです」
「あ~、佐藤はね~。何ていうか恋愛下手な感じだからね~」
「そうなんですか?」
「楓と付き合ってたのは知ってる?」
「はい」
「その時も佐藤は楓に手を出さなったみたいだからね~」
「そ、そうなんですか」
「まぁ佐藤は去年までボッチだったから女の子にどう接していいのか分からないっていうのもあるのかもしれないけどね~」

 佳奈子先輩の言う通り、どう接したらいいのか分からないのかもしれない。
 だとしたらこの程度で怒ったらダメなのかも……。
 でも中居先輩も友也さんと同じ様な事で佳奈子先輩を怒らせてるし……。
 あぁー、もう! どうしたらいいのか分からない。

 頭の中で色々な事を考えながら佳奈子先輩と話していると

「あれ? 佳奈子? と沙月ちゃん?」
「ホントだー。珍しい組み合わせだねー」

 声を掛けられ、そちらに視線を向けると、楓先輩と南先輩が立っていた。

「楓と南じゃ~ん、どうしたの二人して」
「私達は買い物の帰りだよ。佳奈子達は?」
「ん~、喧嘩同盟って感じかな~」
「へ?」

 いつの間にか変な同盟を組んでいる事になってしまった。
 それに元カノの楓先輩が居るから少し気まずい。
 そんな私の心情などお構いなしに佳奈子先輩は二人を同席させた。
 う~、どうしよう。


「へ~、佳奈子が中居と喧嘩するなんてね~」
「ずっと中居ラブだったのにね」
「それだけ不満が溜まってたって事! 私だけじゃなくて沙月ちゃんもそうなんだから!」
「え? 沙月ちゃんも?」
「なになに? トモと喧嘩したの?」
「えっと、そうですね~。実は今日……」

 楓先輩と南先輩にも今日の出来事を話すと

「ははは、トモらしいね~」
「うん、友也君そういう所あるからね~」

 二人は私の話を聞いてあるあるみたいな感じの反応をした。
 流石に私より付き合いが長いだけはあるなと実感した。
 
「友也君は滅多に褒めてくれないからね~。私達が我慢するしかないよ」
「そうそう。それに私がいくら色仕掛けしても手を出さないチキンだしね!」
「え! 南そんな事してたの?」
「やば! 今の無し! 私は何もしていません!」
「ダーメ! 詳しく聞かせて貰うからね!」
「う~、失敗した~」

 とんでもない事実が発覚したけど、南先輩の言う事も一理ある。
 私が誘惑した時も絶対に手を出そうとはしなかった。
 でも、あれは付き合う前だし、今誘惑したらどうなんだろう。

 南先輩が楓先輩に問い詰められて、佳奈子先輩が愚痴をこぼしてと、色々カオスな状況だ。
 私はどうしたらいいか四苦八苦していると

「あ? お前達、がん首揃えて何してんだ?」

 如何にもなギャルが話しかけて来た。
 もしかしてこの人も友也さんの知り合いなのだろうか? と考えていると

「あれ? 麻耶じゃん! ちょうど良い所に来た。座って座って!」

 南先輩が麻耶と呼んだギャルを無理やり席に座らせた。

「何なんだよ一体。それに友也の彼女までいるじゃんか」

 といって麻耶先輩は私を一瞥する。

「は、はじめまして! 桐谷沙月っていいます」
「あたしは早川麻耶、ヨロシク」

 う~、やっぱりギャルの人は緊張する。
 でも先輩だし、何より友也さんの知り合いみたいだから頑張らないと。

「んで、この集まりは何なんだ?」
「えっとね~、和樹と佐藤への不満をぶちまける会かな」
「何だそりゃ。あいつらが何かしたのか?」
「実はね~……」

 佳奈子先輩が事情を説明すると

「なるほどな。それで日ごろの不満をぶちまけてるって訳か」
「そうそう!」

 早川先輩は事情を飲み込むと

「だったらこんな所で不満言ってないで直接本人に言えばいいんじゃねぇの?」
「え?」
「本人に言わない限り改善されないだろ」
「……それはそうだけど」
「それにあいつらは結構男気はある方だと思うけどな。特に友也なんて私に正面から喧嘩売ってきたしな」

 そう言って早川先輩はタピオカミルクティーを一口飲むと

「お前達が惚れたのはそういう所なんじゃねぇの? だったら細かい事でぐちぐち言うなよ」

 なにこの人、カッコイイ! でも、早川先輩って実は友也さんの事が……。

「麻耶の言う通りだね。肝心な事忘れてた」
「うんうん。流石だね~」
「そうだよね。私は男気のある和樹に惚れたんだった」

 先輩たちがそれぞれ反省を口にすると

「友也君って結構度胸あるんだよね」
「それに凄く優しいしね」
「和樹も人の嫌がる事は絶対にしないし」
「あいつは責任感もあるしな」

 あれ? 今度は良い所を上げ始めた。
 でも先輩達の言う通りだ。
 友也さんは優しくて責任感が強くて、いざと言う時は頼りになって。
 私はそんな友也さんを好きになったんだ。
 早川先輩の言う通りこんな所で愚痴を言ってないで話し合いをすればいいんだ。
 でも、どうやって仲直りに持って行こう……。


 
 喫茶店から出て今は及川先輩と二人きりだ。
 楓先輩達は変える方向が逆らしい。
 最初はどうなる事かと思ったけど、友也さんへの想いを再確認できたから結果的によかった。
 それにさっきお姉ちゃんから電話で

『動物公園のチケット貰ったから一緒に行かない?』

 と誘われて丁度いいと思った。
 明日は目いっぱい遊んで心をリフレッシュさせて、そしたら友也さんに謝ろう。
 きっと佳奈子先輩も仲直りする気になってる筈だし、誘ってみようかな。

「佳奈子先輩、一緒に遊園地に行きませんか?」

 私の心は決まった。きっと動物公園に行った後には仲直りできると思う。 
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