第52話 決意

文字数 2,530文字

 家に帰り自室に籠もる。
 告白を断るっていうのはこんなに辛いんだな。
 出来れば二度としたくない。
 でも柚希曰く、めぐみたいな子が何人かいるらしい。
 柚希の奴、その子達全員とデートしろとか言わないよな?
 もうあんなのは勘弁して欲しい。

 夜の11時、いつもの様に会議が行われる。
 俺が今日の事を報告しようとすると

「今日はお疲れさま、めぐお兄ちゃんに感謝してたよ」

 と言われた。
 もう知ってたらしい。
 柚希が聞いたのかめぐが言ったのか分からないが、女子のこの手の話の拡散スピードは凄い。

「もう二度とこんな事やらないからな」

 と、一応釘を刺しておく。

「大丈夫、今回だけだから」
「ならいいんだけど」

 他の子達はどうするのか聞きたかったが怖くて聞けなかった。

「まぁこれで女子は落ち着くと思うよ」
「そうなのか?」
「めぐが告白してダメだったっていうのが広まればそうそう告白しようなんて思わないよ」
「だと有り難いな」

 まだ不安はあったが、柚希がこう言うならそうなんだろう。

「それよりも男子の方が問題なんだよねぇ」
「1年の男からも妬まれてるのか……」

 同級生だけでも精一杯なのに1年にまでも妬まれてるのか。

「1年はそこまでじゃないかな。そもそも新島先輩とほとんど接点無いしね。憧れの人に彼氏が出来てショックって感じかな」
「それならよかった。これ以上敵が増えるのは嫌だからな」
「問題は2年生なんだよねぇ」

 やっぱりそうか。
 楓に告白してフラれたあの3人をどうにかしないとな。

「どう? きつい?」
「正直言えばきついな」

 俺の言葉を聞いて何やら考え込む。
 俺もこの問題は早く解決しておきたい。
 精神的にも身体的にも結構きつい。

「犯人は分かってるんだよね?」
「ああ」
「そうしたら、中居先輩達に助けを求めるのもありなんじゃない?」
「そうだな、何かあったら言えって言われてるしな」
「ならそれで……」
「ちょっと待て」

 柚希が何かを言おうとしたのを止める。
 不機嫌に頬を膨らませて

「なによ?」

 といいながら可愛げに睨んでくる。
 なるほど、こういう所でも自分を演じるのか。

「その事については俺一人で解決したい」

 俺の言葉を受けて一瞬ビックリするが、すぐに冷静になり

「できるの?」

 と聞いてくる。

「どうだろうな、でもこれは俺がリア充に成る為の試練だと思ってる。ここで中居達に助けて貰ったらダメな様な気がするんだ」
「でも中居先輩達の力を借りるのもお兄ちゃんの力だよ?」
「そうだな、いざとなったら頼るかもしれないけど、出来る範囲は一人でやってみたいんだ」

 俺の言葉を聞いてビックリしたのか、柚希は後ろにひっくり返りそのまま寝転がった。
 寝転がった状態のまま

「やっぱりお兄ちゃん変わったね」
「そうか?」
「うん、昔のお兄ちゃんなら直ぐに中居先輩達に助けを求めてたと思う」
「……そうかもしれないな」
「でもいい事だよ。これが解決出来たら学校一のリア充も近いかな」
「解決出来たらな。下手すると今より酷くなる可能性もある」
「そしたらまた相談に乗ってあげる」
「ああ、サンキュー」

 こうして今日の会議は終了した。
 部屋に戻った俺は冷静に今の俺を分析した。
 去年までぼっちだった俺が今ではトップカーストのグループに所属している。
 友人関係は良好だろう。
 学校のアイドルと言われた楓が彼女になった。
 これだけ見ればかなりのリア充だろう。
 見た目もイケメンと言われる事が多い。
 学校のアイドルとイケメンのカップル。これは学校中に知れ渡ってる。
 そしてそんな俺を妬む奴もいる。
 相手が楓だから仕方ない部分もあるが、あの三人だけは別格だ。
 他の男子は陰口で納まる所を、あいつらは直接俺に仕掛けてきている。
 そいつらさえ何とか出来れば他も落ち着くだろう。

 どうすれば解決出来るかは正直分からないけど、直接話してみるしかないだろうな。
 もしかしたら面と向かって殴られるかもしれない。
 けど、ここで逃げたら今までの努力が無駄になってしまう。
 早速明日から行動してみるか。

 そう考え、決意をして眠りについた。

 月曜日、教室に入るや否や、楓に腕を引っ張られて理科室まで連れて来られた。
 
「デートしたんでしょ? どうだったの?」

 と、少し心配そうに聞いてくる。
 俺がこの間の事を話すと

「そっか、納得してくれたんだ」

 と言って安堵している。
 今回は結構不安にさせたかもな。
 
「心配かけてごめん」
「ううん、大丈夫」

 その後、教室に戻りいつも通りに過ごす。
 今日も楓が手作り弁当を作ってきたが、中居達は諦めたのか何も言って来なかった。
 そして全ての授業がおわった。

 「じゃあ部活行ってくるね」

 と楓を見送り、行動を開始する。
 先ずはクラスが近い4組に向かう。

 4組の教室にはまだ結構な数の生徒が残っていたが、目当ての人物を見つける事が出来た。
 俺は入り口近くにいた女子に話しかける。

「ねぇ、ちょっといいかな?」
「え? 私?」

 と以外そうな表情をしてこちらにやってくる。
 
「佐藤君だよね? どうしたの?」
「ちょっと人探しててさ、藤原って奴いるかな?」
「藤原!? あんな奴に用なの?」
「うん、悪いんだけど呼んで貰えないかな?」
「まぁ佐藤君の頼みなら」

 と言い、名前も知らない女子が藤原を呼ぶ。

「藤原ー、佐藤君が呼んでるよー!」

 女子の声が教室に響き渡る。
 すると教室に残っていた生徒達が一斉に俺に注目する。
「ホントに佐藤君だ!」「由美子佐藤君と喋ってる、羨ましい」「何で佐藤君が藤原なんかに?」

 等と聞こえてきたがそれらを一切無視して、俺は一人の人物だけを見ていた。
 そいつはクラスの隅で驚愕の表情をしている。
 俺はそいつに向かって

「藤原、話があるからちょっときてくれないか?」

 俺の呼び出しに、更に顔色まで悪くなっていた。
 
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