第45話 意固地

文字数 2,349文字

 1時限目が終わるや否や、及川は何故か俺を連れて中居の元に向かった。
 座っている中居を見下ろすような感じで睨みながら

「どうしてプレゼント貰ったの!」

 バンッと机をたたきながら言う。
 及川って怒ると怖いんだな。今度からあまり揶揄わない様にしよう。

「あん? いきなりどうしたんだよ?」
「だ・か・ら! 何で麻耶のプレゼント貰ったの?って聞いてるの!」
「別に誰から貰ったっていいだろ」

 それを聞いた及川は

「あっそ! 知らない!」

 と言って女子グループの方へ行ってしまった。
 場に妙な空気が流れる。
 空気の読めない田口が

「こえ~! どうしたんだろうな及川」

 でも今回に限っては田口は事情を知らないので仕方ないのかもしれない。
 その後も田口が中居に色々話すが中居はずっと黙ったままだった。
 こんな時一番に動きそうな水樹を見てみると、中居を見守る様に傍観している。
 今回は動かないつもりなのだろうか?

 それから放課後まで中居と及川が会話する事が無かった。
 この状態が続くのは流石にマズイんじゃないだろうか?
 そう考えながら学校の最寄り駅まで一人で歩いていると

ドンッ!

 とお腹に衝撃が走り、痛みと苦しさで呼吸が出来なくなった。
 一体何が起こったんだ?
 と考えていると

「ははは、ざまぁみろ」

 という声と走り出す足音だけが聞こえた。
 一体誰が? 考え事をしていたので顔を見れなかった。
 やっぱりこれも楓と付き合った代償なのだろうか?
 俺は痛みに耐えながら立ち上がり、何事かと見ている人達に「何でもないんで、だいじょうぶです」といってその場を後にする。

 家に着く頃には痛みも大分和らいでいたが、鏡で腹部を見てみると朝まで無かったアザが出来ていた。
 春休みから柚希に言われて毎日筋トレしていて良かった。
 少ないながらも筋肉が付いていたのでこの程度で済んだのだろう。
 もしかしてこの事を予見して筋トレを? 等と考えるが、流石に今回は偶然だろう。
 しかしどうするかな。 何かあったら話す様に言われてるけど此処までされるとは思っていないだろう。
 なら、心配掛ける様な事は言わない方がいいだろう。
 そう結論付けてベッドに倒れ込んだ。

 
 翌日、教室に着くと同時に水樹に連れ去られた。
 廊下の窓際に寄りかかりながら水樹は

「友也は及川と中居の件、どう思う?」

 と聞いてきた。どうやら完全に傍観という訳じゃないみたいだ。

「昨日の状態が続くとマズイんじゃないか?」
「どうマズイと思うんだ?」
「そりゃ及川が中居に愛想つかす可能性があるだろ?」
「そうだな。他には?」
「他に?」

 他にマズイ事って何かあるだろうか?
 今までの経験不足の所為でそれ以上思いつかない。
 降参して水樹に尋ねると

「俺達のグループは男子グループと女子グループが合わさって出来てるだろ?」
「そうだな」
「男子の方は中居がリーダーだろ? なら女子は誰がリーダーだと思う?」
「それは楓じゃないのか?」
「まぁそうだな。でも女子のリーダーはもう一人存在する」
「あ! 早川か」
「そそ。んで、及川は早川グループの奴等とも仲がいい。どういう意味か分かるか?」

 そう言われ考える。
 女子は楓派と早川派が存在していて、及川は俺達のグループに入っているが早川派の奴等とも交流がある。
 及川は中居が好きで、早川も中居が好き。
 そこまで考えて気づいた。

「早川を無下にすると及川の立場がヤバイって事か」
「そう言う事」

 といって、まるで答え合わせをして正解した子供を見るような目で俺を見る。
 まさか試されてたのか?

「だから中居が誕プレを断らなかったのは及川の為だったんだよ」
「だったら及川にそう説明すればいいんじゃないか?」

 そう説明すれば及川も納得してくれる筈だ。

「それがそんな簡単にはいかないんだよなぁ」
「どうして?」
「中居の性格考えてみろ」

 そう言われ今までの中居の言動を思い出す。

「面倒くさいな」
「だろ? 中居が一言言えば解決するんだけどな」

 水樹がやれやれといった感じで肩を竦ませながら教室に戻っていった。

 その後も中居と及川の会話は無く、グループに居てもお互い干渉しない様にしている様に見えた。
 表面上はいつものグループだが、やはり何処かギスギスしている感じがある。
 そんな状態のまま郊外遠足の日がやって来た。

 予想通り中居と水樹が火起こしをし、女子達は野菜等を切っている。
 俺はというと、ひたすら串に肉と野菜を刺していた。
 因みに田口は形だけのリーダーになり、男子と女子の間を往ったり来たりしてちょっかいを出している。

「火の準備出来たみたいだから、佐藤君どんどん持ってきちゃって!」

 とだけ告げ、手伝う素振りも見せずに女子の方にも声をかけている。
 なんだろう? 田口を見ていると、リア充って大変なんだなって思えてくる。

 調理場から焼く場所までは少し離れているので、トレーに串を並べて運ぶ。
 俺がトレーを持って行くと

「おおー、いい感じじゃん」
「よし、どんどん焼いてくか」

 と次々に網に乗せていく。
 肉が焼ける良い匂いが鼻孔をくすぐる。
 すると中居が

「そろそろ焼けるから女達呼んでこい」

 と言う。
 女子達はまだ洗い場で使った調理器具等を洗っていたので呼びに行こうとすると

「きゃあっ!」

 と言う悲鳴が聞こえた。
 俺の聞き間違いでなければ今の声は及川の声だった。
 急いで向かおうとする俺を、物凄い勢いで中居が追い抜いていった。
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