第121話 叔父さん

文字数 1,835文字

 修学旅行2日目の朝、朝食を摂った後宴会場に全員が集められ今日の予定と注意事項を聞く。

 今日は始めにガラス細工の体験をした後に海上自衛隊函館基地に見学に行くという事だ。
 そういった連絡事項が終わり、部屋に戻り支度をして再度駐車場に集合となった。

 
 準備を済ませロビーを歩いていると楓の姿があった。
 話しかけようと近くまで行くと、ホテルの主任と何かを話していた。

 しかし妙に親し気に話している。
 楓もそうだが、いくら相手が学生とはいえ主任がそんな馴れ馴れしく話すのは非常識なのでは?

 それに楓ちゃんとか呼んでるし!
 これは馴れ馴れしすぎる! と思い二人の間に割って入る形で

「おはよう楓」

 と挨拶すると楓は笑みを浮かべて

「おはよう~」

 と小さく手を振ってくる。
 すると主任も俺に気づき

「おはようございますお客様」

 とお辞儀をしてきたので、軽い嫌味を込めて

「そんなに畏まらなくてもいいですよ。楓に接する時みたいにフランクにしてください」

 と言うと主任は

「そうかい? では遠慮なく」

 と言った後

「君が佐藤友也君かな?」

 と聞いてきた。
 というか本当にフランクに接してきたな。

「はい、そうですけど何か?」
「そうかそうか、君が()()()か」
「えっと、だから何でしょうか?」

 なんなんだこの人は? フランク通り越して何だか上から見られている気がする。
 などと考えていると

「いつも()()()がお世話になってます」

 と言って軽く肩をポンッと叩かれた。

 え? 今なんて言った?
 楓が姪? って事はこの主任は楓の親戚?

 俺が混乱していると楓が

「ごめんね急に、驚いたでしょ?」
「え、いや、まあ、うん」

 俺が驚きで言葉に詰まっていると主任が

「ははは、驚かせちゃったみたいだね」
「いえ……」
「改めて自己紹介するよ。楓の叔父の新島和利です。いつも楓がお世話になってます」
「えっと、佐藤友也です。楓さんにはいつもお世話になってます」

 と自己紹介すると主任は意味深に笑い

「そうだね、楓とは仲良くして貰ってるみたいだね」

 と言い俺と楓を交互に見る。
 すると楓が

「もう! 今はその事は関係ないでしょ!」

 と頬を膨らませて怒る。

「ははは、ちょっと揶揄い過ぎたかな。では私はこれで失礼します」

 と最後は主任らしく丁寧にお辞儀をして去って行った。
 それにしてもこんな形で楓の親戚の人に会うとは思わなかった。

「ごめんね~、叔父さん昔からああいう人なの」
「俺こそ話に割って入ってごめん。楓が主任と楽しそうに話してたから少し嫉妬しちゃって……」
「へ~、嫉妬してくれたんだ~?」
「ま、まぁな。そんな事よ早く集合場所に行かないと」

 と半ば強引に話を話題を変えてその場から離れる。
 
 つい嫉妬したなんて言ってしまった……。
 楓はどう思っただろう……。

 
 今日はガラス細工で小物を作ったり、海上自衛隊基地でカレーを食べたりした。

 ホテルに戻った俺達は夕食と風呂を済ませ、今は就寝前の自由時間だ。
 部屋では田口が騒いでうるさかったので、今は一人でホテル内を散策している。

 ホテルにある庭園を歩いていると、池の(ほとり)に南が一人佇んでいた。
 それははまるで映画のワンシーンの様な美しさがあった。

 俺がその姿に見蕩れていると

「あれ、トモ。こんな所でどうしたの?」
「南こそ何してるんだ? その恰好じゃ寒いだろ」

 と言うと南は無言で俺の腕に絡みつき

「じゃあトモがあっためて」

 その言葉に躊躇いながらも

「はぁ、しょうがないな。ホテルの中に戻るまでだぞ」
「うん」

 二人で池を眺めている。
 今は南と二人きりだ。
 これは絶好のチャンスかもしれない。

 そう思い、意を決して話そうとした時

「こうして二人で居れるなんて思わなかったなぁ……」
「そうだな……」
「2年になってから色々あったよね」
「……ああ」
「最寄り駅が同じだった時はおどろいたなぁ」
「俺もおどろいたよ」
「それからウチで勉強したりしたよね」
「もうちょっと勉強は頑張って欲しいな」
「その時に私の初めてを奪ったんだよね」
「おい、誤解招くような事言うな! あれは南からしてきたんだろ」

 といった感じで会話が弾む。
 
「それからも色々あって今もこうして二人で居れる……」

 ここで沈黙が訪れる。
 よし、今しかない!

「南、実は……「クシュンッ!」」
「やっぱり寒いね」
「だから言っただろ、ホテル戻るぞ」
「はーい」

 結局言えなかった。
 でも明日は自由行動だからまだチャンスはあるはずだ。

 そんな事を考えながらホテルに戻った。
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