第68話 水瀬南のターン②

文字数 2,201文字

 俺は今、リビングでテレビを見ている。
 何故かというと

「ちゃちゃっとシャワー浴びてお昼作るから、リビングでテレビでも見てて!」

 と言われ、反対するのもおかしいので素直に従った。
 テレビを見ててと言われたが、正直それどころではない。

 同い年の女子、しかも美少女がシャワーを浴びている。
 健全な男子高校生なら色々想像してしまうのだ!
 幸いここからではシャワーの音が聞こえないので何とかテレビに目をやる事で想像しないで済んでいる。
 
 テレビに映るワイドショーをボーッと眺めていると、風呂場の方から俺を呼ぶ声が聞こえた。

「トモー! トモー、聞こえるー?」

 家だからだろうか、いつもより大分ボリュームが小さい。

「聞こえてるぞー! どうしたー?」

 と少し大きめに返事をすると

「大変なのー! ちょっとこっち来てー」

 全然大変そうに聞こえないが、一応向かう事にした。
 しかし、間取りが分からないので

「何処に居るんだー?」

 と聞くと

「こっちこっちー」

 と声のした方へ向かうと、扉から顔だけ出したミナミを発見した。
 何で顔だけ出してるんだ? と思いながら近づくと俺に気づいたミナミが

「ストーップ!」

 と叫んだ。

「何だよストップって」
「いいから、そこで止まって!」
「わかっ……!?

 わかったと言おうとした瞬間、少しだけ開いた扉からミナミの肩から鎖骨にかけて見えてしまった。
 髪も濡れている事から恐らく服は着ていないのだろう。

「あー! トモ変な事想像してるでしょー」
「か、考えてない! それより大変な事ってなんだよ!」
「それなんだけどね~、自分で呼んどいてなんだけど、トモに頼るのはな~」
「用が無いなら戻るぞ?」

 ミナミの方を見ない様にしながら答える。

「ちょっと待って! ある! 用事あるから!」
「なんだよ、どうしたんだ?」
「えっと~、着替え持ってくるの忘れちゃった」
「もしかして、俺に取って来いとか言わないよな?」

 と恐る恐る聞くと

「さすがトモ! その通りー!」
「まてまて、自分で取りに行けよ!」
「私に全裸で家の中をうろつけと?」
「そうだよ、俺はリビングに籠もるからその間に着替え取って来い!」

 漫画やゲームだと主人公が仕方なしに着替えを取りに行くが、俺はそこまで馬鹿じゃない。
 俺が行かなくともミナミ自身が行けば問題ないのだ。

「タオルも忘れたからビショビショだし、ここからだとリビング通らないと部屋にいけないんだよ~」

 なるほど、そう来たか。
 神様はどうしても俺に取りに行かせたいらしい。
 だが俺はそんなに甘くない。

「部活に持って行ったタオルで一回拭いて、もう一回シャワー浴びればいいだろ?」

 どうだ! これなら問題ないはずだ!

「バッグは部屋に置きっぱなしにしちゃったよ~」

 なん……だと!? 

「トモお願い~、着替え取って来て~」
「まだだ、まだ諦めるな!」

 まだ諦めるには早い。
 頭をフル回転させ、どうすればこの状況を打破できるか考える。
 そして思いついた! 究極と言っていい程の回避方法が!

「だったら俺は一旦家の外に出るから、その間に着替えろ」

 どうだ! これなら回避出来るはず!
 そう考えていると

「でも床がビショビショになっちゃうじゃん」

 今更ながら、ループって怖いと感じた。


 俺は今、リビングで上半身裸で瞑想している。
 ミナミが俺のシャツを着て部屋に着替えを取りに行ったのだ。

 最初は俺も抵抗したが、それ以外の妙案が思い浮かばなかった。
 そして俺が目を瞑っている間に取りに行くという流れになったのだ。

 しばらく修行僧の様に瞑想していると、階段を降りる音が聞こえた。
 そしてリビングのドアが開けられミナミが入って来る。

 目を瞑っているからだろうか、嗅覚や聴覚がいつも以上に冴え渡る。
 シャンプーの匂いや息遣いまで手に取る様に分かる。
 まるで直ぐ傍に居るかの様に感じられる。

「トモ、もういいよ」

 と耳元で囁かれビックリして倒れる。
 目を開けると自分の服に着替えたミナミが笑っていた。

「あははは、トモ面白ーい!」
「驚かすなよ!」
「ごめんごめん」

 すぐ傍に感じたのは本当に傍に居たからなのか。
 でも足音も気配も感じなかったぞ? 俺が鈍いだけか。

「ちゃんと着替えて来たみたいだな」
「当たり前でしょー。でもトモのシャツ濡れちゃったから洗濯しておくね」
「いや、いいよ。着てれば直ぐに乾くし」
「もう洗濯機に入れちゃったよ」
「え? それじゃあ乾くまでずっと上半身裸でいなくちゃいけないのか」

 これ何て羞恥プレイ?
 女子の前で上半身だけとはいえ裸で過ごすとか恥ずかしいんですけど!

「そんなに恥ずかしい?」
「恥ずかしいよ! 逆で考えてみろ」
「……もう、トモのエッチ」
「何を考えたんだよ!」

 俺のツッコミに「あはは」と笑う。
 こっちは笑いごとじゃないんだけどなぁ。

「まぁまぁ、夏だし直ぐに乾くからそれまで我慢して」
「わかったよ、それより早くお昼にしようぜ? お腹すいたよ」

 とキッチンの方へ向かおうとすると、後ろから抱きしめられた。
 シャンプーの香りと背中に柔らかい物が当たってる感触がある。
 夏場でただでさえ薄着なミナミに、俺は上半身裸なので感触が良く分かる。
 じゃなくて

「ミナミ? これは色々とマズイと思うんですけど」

 と何故か敬語になってしまった。

「分かる? 私今、ブラ付けてないんだよ」

 その言葉に俺の理性が徐々に蝕まれていった。
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