第28話 大和撫子とスポーツ少年
文字数 4,208文字
「うるさいよ馬鹿日向…そんな驚く事でもないでしょ…」
とある秋の昼休み。わたしはいつものメンバーと一緒に仲良くランチタイムをしていた。
今日は天気が良いので中庭の休憩スペースでお弁当広げプチピクニック気分だ。風も涼しくて気持ちが良い。
「なんだよなんだよ!蒼、お前何も言ってなかったじゃん!!俺達親友だろ!?」
「俺は知ってたぞ?」
「なんで水城が知ってんだよ!?蒼、俺より水城が大切なのかよ!?信じらんねー!!」
と、箸を振り回しお行儀の悪い日向君は想像以上に騒いで興奮している様子だ…。
「…別に黙っていた訳じゃない。水城が聞いて来たから答えただけで…傷つけたなら謝る。」
「傷ついたよ!!けど俺お前好きだから嫌いにはならない!!」
「…それは良かった。けど引っ付くな…暑苦しい…」
確かに何か暑苦しい…日向君マッチョって訳じゃ決してないけど背は高いし…
蒼に無理矢理抱き付き相変わらず騒いでいる日向君を見るとちょっとだけ可愛く思えてしまう…
本当、寂しがり屋さんなんだから…
「わかった…お詫びにこの卵焼きをやるから…」
「このジューシーなから揚げでお願いします!!」
「…わかったよ…ほら…」
「素直なお前がやっぱり好き!!」
「俺は暑苦しいお前が少し鬱陶しい…」
「そう言いつつも優しいから蒼君大好き!!」
「…だから引っ付くなって…落ち着け。」
本当に少し鬱陶しそうに日向君を押しのけつつも、ちゃんとから揚げを贈呈する蒼は本当に律義だ。
それに比べて日向君は相変わらず落ち着きの無い事…蒼とまでは言わないけど、せめて水城君を見習えば良いのに。
まぁ…明るく元気なのが日向君良いところでもあるけど。何せ名前が小夏だもんね。
彼の場合小さい夏と言うよりはお祭りどんちゃん騒ぎの大きな騒がしい夏の方が合っているけど。
「お前らも本当仲良いよなぁ…八割方日向が勝手に絡んでるだけだけど…」
「そうよねぇ…ご主人様と犬って感じよねぇ…ははっ…」
「葉月と日向の関係もそう見えるけどな。どこまでも追って来るわんこって感じ?勿論犬は日向の方な。」
「やめてよ…こんなうるさいわんこいらないし。あたし猫派だし、どうせなら灯みたいなぽやんとした子猫が欲しいよ…」
「あ、それ俺も欲しいかも…」
二人は二人でなんかちょっと失礼な事話し出すし…。日向君はともかく、なんでわたしが猫に…
「もう、二人ともやめなって!いくら何でも本人のいる前で犬だの猫だのって…気持ちは分かるけど…」
「…そうだぞ、夏はともかく…気持ちは分かるが…」
「雛森君までやめなさいって…ほら、灯ちゃんちょっと落ち込んじゃったじゃない。」
いや…美波ちゃんにも責任あるけど…??全く、皆して犬だの猫だの…
サンドウィッチを頬張りながら、わたしは拗ねた素振りを見せアピールしてみる。傷ついてますよ的な。
『キャー!!春宮君~!!』
そんな時だった、渡り廊下側から女子達の黄色い声が聞こえて来たのは…
見ればそこには女子の群れが…その中から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
彼も相変わらずだな…。本人確認出来ないくらいのモテっぷり…いつ見ても凄い…
「そんな慌てないで?俺は逃げないからさ!」
女子の群れの隙間から微かに確認出来た爽やかキラキラスマイルを浮かべる少年は…同じ部活の咲良君だ。
女子達を相手に王子対応…ウィンクも様になるのは彼が当然イケメンだから。金髪碧眼の物語に出て来そうな理想の王子様の様な容姿をした。
でも本人曰く普通の庶民らしい。確かにイギリス人の血は引いているけどっていつか笑いながら話してくれた。気取らずむしろ明るく人懐こい親しみのある性格してるし。
「ああ…王子様は相変わらず凄いわねぇ…」
「うん…咲良君が見えないよ…」
「見えた試しがないよあたし…」
「わたしも…けど凄いなぁ…。確かに咲良君王子様系のイケメンだもんね。優しいし。」
「まぁ…ちょっとキザだけど…憎めないのよねぇ…」
と、珍しく奈々ちゃんも同意し頷く…日向君の扱いとは大違いだ。
そういや、人懐こいわんこって言えば…咲良君もそうだよね。ついでに言えば、忍先輩は正反対で気まぐれなにゃんこみたいだ。
「…お前の好みだな。」
「え!?ち、違うよ!?わたしどっちかと言えば忍先輩の方が…」
「……」
「だ、だから!好きとかそう言うんじゃなくて顔が!!本当そこ大事!間違えないでよね…恐ろしい…」
「…俺もああなった方が良いと言う事か…」
「駄目!蒼はそのままでいて!!絶対ああなっちゃ駄目!!」
また変な対抗意識を燃やしたのか恐ろしい提案を口にしたので、わたしは全力で止めた。
あんな無気力な自由人の蒼なんて見たくない…というか想像が全く出来ない。
「…ありのままの蒼が一番です…お願い…」
「…そうか?なら…」
「本当変な気起こさないでね?」
本当に…蒼は冗談か本気か分からない発言を時々するから怖い…
わたしが一生懸命本気で蒼を説得していると…突然背後から何かに抱き付かれた。そして目も塞がれ視界が真っ暗になる。
「あ~かりん!相変わらず小さいなぁ~!!」
「…さ、咲良君?」
「当たり~!!あかりんの姿見えたからつい捕まえちゃった!あ!なっちも発見!!」
ちなみに…咲良君がハグするのは別にわたしに惚れているからとかではない。これが彼の挨拶なのだ。さすが海外育ちだ。
ま、まぁ…悪い気はしないけどね…?余計な気持ちが無い分尚更…
「あれ?イケメンも発見!!あ!!てか雛森蒼!?結構女の子の間じゃ有名だし、俺一度会ってみたいと思ってたんだよね~!!ラッキー!」
「…どうでもいいから灯から離れろ。そしてお前もちょっと浮かれるな…何か腹立つ…」
案の定蒼は咲良君からわたしを引き剥がすと、本当に少しムッとした様子で自分の方へと引き寄せた。
そんな蒼の様子を見て、咲良君は一瞬きょとんと首を傾げたが何かを察したのか慌ててわたしから離れた。
「ああ、ごめんごめん!俺達別にそんなんじゃないし!」
「……」
「あかりんは確かに可愛いし大好きだけど…多分君には勝てないよ!」
「…なら良い…」
「そっか!君があかりんのお隣さんかぁ~!!益々ラッキーだなぁ~!!あ、蒼君って呼んで良い?…ん?てことは…二人今付き合ってるの?そっかぁ~!!おめでとうあかりん!!」
「おい…」
再びわたしをハグし、満面の笑みを浮かべる咲良君…。そのせいで少し離れたところで見守る取り巻き女子達から悲鳴が上がった。
「…咲良君、やめなって…。それ以上灯に何かしたら雛森君に絞められるよ?」
「え?ああ、ごめん!俺考えるより行動する方が早いからつい…。あれ?そっちにもイケメンが…それに可愛いお姫様もいるじゃん!なっち早く紹介してよ!!」
「…美波は駄目だよ。可愛いけど。」
「美波ちゃんっていうんだ!初めまして、俺春宮咲良って言います!もしよかったら今度二人で…」
「だからやめろって言ってんでしょうが!!」
ゴスッ…
美波ちゃんの手を握り王子モード全開で口説こうとする咲良君…直後奈々ちゃんの右肘が彼の脳天に直撃した。
ああ…奈々ちゃん本当素敵だ…。学年一の王子様にも容赦はしないこの清々しさ…!!
「なになに!?ななちんの友達!?スッゲー王子じゃん!!」
「あはは、良く言われる!てかその髪スゲーカッコいい!!」
「マジ!?良い奴…!!俺、日向小夏な!」
「何その名前~!!みかんみたい!!あははは!!」
「…よく言われるっす…」
お、おお…ナチュラルとエセ金髪同士が仲良くなった…。
確かにこの二人ってどこか似てるんだよね。人懐こいところとか、憎めない良い奴ってところとか。
やたらテンション高く意気投合する日向君と咲良君…こうして見ると…日向君も結構イケメンなんだよね。咲良君には負けるけど…
そしてそんな二人の間に立って日向君をからかっている奈々ちゃんも様になっている…
ま、まぁ…わたしは蒼が一番だけど…
何事も無かったかの様にランチタイムを続行する蒼を見ながらそんな事を密かに思いのろけてみたりして…
ああ、今日もまた涼し気な目をして何を考えているのか分からない…このマイペースさんめ…
「…ほら、お前も早く食え。食べるの遅いだろ?」
「う、うん…」
「なんだ?食欲無いのか?」
「だ、大丈夫だよ!ね、熱測ろうとしないでって…!!」
「心配して何が悪い?ほら…」
そう言って額に手を当て少しだけ顔を近づけて来る…
ああ…やっぱり蒼の手ってヒンヤリして気持ち良いな…落ち着くっていうか…
「お~…暑い暑い…な?三島?」
「み、水城君…!!そっとしておいてあげなさいって…」
「…何かこう隣でイチャイチャされたらさぁ…ちょっとな。何か俺も可愛い彼女欲しくなって来たわ~…」
「はぁ…そんな事言ってると候補者が次々現れて大変な事になるわよ?水城君モテるんだから…」
「マジで?でも俺積極的な女の子より一歩引いた大和撫子みたいな子が良いなぁ…」
「灯ちゃんとか?」
「あれは雛森のだし…大和撫子って言うより夢見る少女って感じじゃね?それが花森の可愛いとこでもあるけど…」
「そうねぇ…灯ちゃん気を抜くと危なっかしいから…」
わたしと蒼がいつものやりとりをしている隣で、水城君と美波ちゃんはのほほんとそんな会話をしながら見守っていた。
「…あ、良い事思いついた。三島、俺と付き合う気ない?」
「え、ええ!?」
「…俺確かに花森事好きだったけどさ…正直今、お前の事気になってんだよな…しっかりしてるけど放っておけないって言うか…花森とは違う意味で…」
「…それって…灯ちゃんの代わりって事?」
「違うって…俺そんないい加減な男じゃないし。…で、どう?」
「…そ、そんなからかわないでよ!いい?水城君?やって良い事と駄目な事ってあるのよ?」
「…いや、俺真面目に言って…っておい!?」
美波ちゃんはいきなり立ち上がると、水城君の顔も見ずに俯いて走り去ってしまった。
「あ、あれ?美波ちゃん??」
「…どうしたんだ、三島は…?」
すぐ隣でそんなやり取りが行われていた事など全く気付かなかったわたしと蒼はそろって首を傾げた…
そして奈々ちゃんと日向君も同じく…
「…ちょっと焦り過ぎたか…」
そんな水城君の呟きにその場にいた誰もが気づかなかった…
きっと聞こえていたら奈々ちゃん辺りが黙ってはいなかっただろう…