第36話 お隣さんと体調不良と…
文字数 7,504文字
誰が何のためにそんな事をしたかは分からない…
けど、込められた悪意は確かにあって、それは発見したある物を見れば明らかだった。
やたらクオリティーの高い真っ赤なフランス人形風ドレスを着た、貧相で不気味な人形。そして人形に刺し込まれたマチ針の数々。それは剣を刺された『黒ひげ危機一髪』を思わせる。
しかも…その人形の中には…わたしの名前がフルネームで書かれたしわくちゃになった紙がねじ込まれていたのだ。
しかし、幸いにも呪われはしたがそれは失敗に終わったらしい。何故ならわたしはこうして今もぴんぴん元気に日々を過ごしているのだ。
ただし…精神的ダメージはかなり大きい。それはやがて胃腸の弱いデリケートなわたしの体を蝕んで行った。
「…気持ち悪い…」
夜中、ふらふらしながらトイレを出る…
ここの所胃腸が痛むと思ったらやっぱり吐いた…
これも呪いのお人形のせいなのだろうか??
「…いやいや…だってそれは緋乃先輩が対処してくれたし!!」
そ、そうよ…!胃腸炎とか流行ってるし?きっとその影響をデリケートで軟弱なわたしはもろに受けてしまったに違いない。元々胃腸は繊細なのだ。
ガチャ…
ようやっと部屋に辿り着き、ふらふらとベッドへ倒れ込む…
怖いよ怖いよ…呪いの人形とか本当悪趣味過ぎる!!
今こんな苦しんでいる時、人形の贈り主は神社でこっそり恨みつらみを込めながら、わたしに見立てた藁人形にぞっとするほど太く長い五寸釘を打ち付けているんだろうか?
そう考えるともっと最悪で恐ろしい事が次々に浮かんで来る。これぞ蕾ちゃんの言っていたネガティブのループ…『ネガループ』に違いない。
「…こんな事なら緋乃先輩に無理言って泊まってもらうべきだったかも…」
急に呼び出した事もあり、長く留める事も躊躇われた。呪いの人形の対処をして貰った後、わたしはあっさり緋乃先輩を帰してしまった。勿論、人形は緋乃先輩が引き取った。しかるべき処置を行うと言って。
「…蒼、起きてるかなぁ…」
痛むお腹を押さえながら布団にくるまり、ふと窓を見つめる…
ベランダに繋がる窓…今日はカーテンから光が差し込む程満月が明るく輝いている。
「満月…狼男…犯罪率増加…ぶつぶつ…」
呪いの様に呟くわたしは本当に病んでいるようだ…
ロミオがバルコニーに立つジュリエットに語り掛ける様に、わたしは窓を見つめる…
ああ蒼…あなたはどうしてお隣さんなの…?
なんて訳の分からない事を心の中で呟きながら、念を送る様に窓から目を離さずじっと布団の中で蹲っていた。
コンコンッ…
そんなわたしの想いが通じたのか、それとも元からの心配性レーダーが働いたのか…窓を叩く人影がうっすらと見えた。
わたしはふらふら歩いて行くと、窓の鍵を開けてやった。
「…灯。どうした?顔色が悪いぞ?」
窓から現れたのはお隣さんのロミオ…じゃなくて蒼だった。寝巻姿も月明りに照らされれば様になるイケメン。夜風に黒髪が微かに揺れるのも絵になる。
いつも涼し気で無表情の彼だが、わたしを見るなりその瞳は不安げな色に変わって行く…余程げっそりしていたのだろう。
「…ちょっと胃腸が…気持ち悪くて…」
今にも抱き縋りたい気持ちだったが、先ほど嘔吐したばかりだ。さすがに気になり、少しだけ距離をとり呟く乙女なわたし。さすがに『吐いた』とは言えない。
「…大丈夫か?一回全部吐いた方がすっきりするんじゃないのか?トイレ行くか?歩けるか?」
「……」
「何処か他に痛いところはあるか?」
「……」
蒼はわたしの身を案じてくれているのだ。本気で心配して気遣ってくれている。それは分かる。
分かるけど…乙女に向かって『吐いて来い』は無いだろう…
蒼はそう言う所は残念なことに鈍感だった。わたしの危機を察知しても年頃の乙女の恥じらう気持ちを察知する事は出来ないのだ。
肩を抱き、背中を擦りベッドまで誘導する蒼…嘔吐した事もあって非難の言葉一つも言う気力の無いされるがままのわたし。そんな冬の月夜…。
「…寒いか?」
「…大丈夫…多分いつもの胃腸炎…」
「…やっぱり…お前まだ気にしてたのか?一人で思い詰める前に俺を呼べって言っただろ?」
「…だってもう夜中だし…蒼一応風邪ひいてるし…」
「それでもちゃんと頼れ…俺に遠慮するなんてらしくない…」
「…別にそんなんじゃないけど…ありがとう…」
一応礼は言っておく。蒼は本気で心配してくれているのだから。風邪で辛いであろう自分の事など放っておいてまで。
横になると余計気持ち悪くなるので、とりあえずベッドの上に蹲っているとさっと布団を掛けてついでに頭を優しく撫でてくれる蒼…
普段なら幸せなんだけど、今は気分が悪いのでそんな気持ちに浸る余裕も無いのが悲しい。
ああ…わたしは本当、蒼の優しさで生きてるな…
「…蒼、もう大丈夫だから部屋戻って寝なよ。」
「大丈夫な訳ないだろ…そんな青白い顔して…」
「でも蒼また風邪ぶり返したら…」
「俺はお前と違って軟弱じゃないから大丈夫だ。」
「確かに…蒼って意外と丈夫な体してるよね…」
「そうじゃなきゃお前の面倒は見れない。」
「じゃあ見なきゃいいじゃん…」
「それはそれで落ち着かないから無理だ。」
「…そうだったね。」
「…ほら、もういいから寝ろって…気持ち悪いならやっぱりトイレに…」
「さっき吐いたから大丈夫…」
「吐いたのか!?…お前…相当追い詰められてないか?気にするな、あんな事…マカロンさんだってそう言ってただろ?」
蒼…未だに緋乃先輩の事『マカロンさん』なんだ。よっぽど美味しかったんだろうな。緋乃先輩のマカロン。
何となく蒼がマカロンを頬張り、微かに幸せを嚙みしめる姿を想像してみた。可愛いな。
「…灯、お前今変な妄想してなかったか?」
「え、え?し、してないよ??」
「…まぁ少し余裕出て来たって事ならいいけどな…」
呆れてか安心してか、蒼はため息を吐くとわたしの隣に腰を下し肩を抱き寄せて来た。
今日の蒼はちょっと大胆…い、いや…これはただ心配しているだけなんだろうけど。
顔は真っすぐ前を向いたまま、でも手に込められる力は強く…まるで落ち込んで弱っているわたしを支えてくれているようで心強い。
本当…わたしのお隣さんは頼もしい…
「…大丈夫だ。俺が傍にいるから…」
「…う、うん…」
「お前は何も気にしなくていい…」
「…分かってる…」
呟くようにそう言う蒼の顔は薄暗い室内では良く分からなかった。髪に隠れた横顔が微かに月明りに照らされただけで。
それでも…何となく蒼がいつもの無表情で、彼なりに精一杯考えて弱ったわたしを安心させてくれようとそう言ってくれた事は分かる。
ああ…何かなぁ…心がむず痒い!!
顔が熱くなり、赤くなっている事が蒼に気づかれませんように(熱を測られるから)と願いながら、わたしの心は次第に鎮まり落ち着いて行った。徐々に眠気もやって来る程…。
「…灯?」
「…むにゃむにゃ…」
「…寝たのか…」
良く分からない寝言を呟いているわたしを見ながら、その時蒼はふっと微笑んだのだ。
わたしは当然その顔は知らない。熟睡していたから。
*****
「ええ!?呪いの人形!?何それ!!」
翌日、奈々ちゃんに例の出来事を話すと案の定…怒り心頭と言った様子で眉を吊り上げ、拳を硬く握りしめていた。
今日は蒼も登校し、風邪も回復に向かっている様だ。念のためと言ってマスクはしているけど。
「超陰険じゃん!!なんなのその女!あたし、ちょっと探し出してとっちめて来る!!」
「な、奈々ちゃん!!まだその子がやったって決まった訳じゃないし…それに蒼のファンは学校中に沢山いるよ。多分。」
「でも一番怪しいじゃん!!灯に声を掛けて来たっていうのも何かさぁ!絶対そいつよ!灯の事逆恨みして、何かしようって魂胆なのよ…許せん!あたしの可愛い灯に何てこと!!」
いやぁ…奈々ちゃんたら本当イケメンなんだから…
怒り収まらぬ奈々ちゃんは、偶然尻尾を振ってやって来た日向君に八つ当たりする始末。華奢な腕で長身の日向君の首を絞め落とそうとしていた。
ああ…日向君たら…奈々ちゃんに構われて嬉しそうにしちゃって。いや、苦しそうにしてるのかな?何か良く分からないや。
「それにしても…怖いね…呪いの人形なんて…」
と、これは遊びに来ていた美波ちゃん。心底気の毒そうにわたしを見ながら心配している様だ。
もう…美波ちゃんも可愛いんだから…そんなに怯えちゃって。
「灯ちゃん、大丈夫?何かあったら私にもちゃんと話してね?」
「うん、ありがとう美波ちゃん。頼りにしてる。」
「奈々絵ちゃんほど頼もしく無いけどね?」
「奈々ちゃんと比べたら駄目だって。」
「あはは、確かに!!」
まだ日向君に八つ当たりしている奈々ちゃんを見ながら、美波ちゃんとわたしは顔を見合わせ思わず笑ってしまった。
そんな時だ。教室の入り口に見覚えのある人物を見たのは。昨日話しかけて来た女の子だ。蒼に告白した…
その子は遠慮がちに教室を覗き込み、わたしの姿を目にすると少し安堵したように笑顔を浮かべ手を振った。
か、可愛いな…。こんな子が呪いの人形なんて作って鞄に入れるなんて陰険な事するとは思えないけどな。
「…お、おはよう。花森さん。昨日は突然ごめんね…もしかして怖がらせちゃったかと思って…」
「お、おはよう…わたしの方こそ…昨日はいきなり逃げちゃってごめん…なさい…」
その子の前に来たのは良いが…このなんとも言えないぎこちない会話と空気が息苦しい。
ああ、また胃が痛くなって来たかも…
「私、隣のクラスの花咲子瑠璃(はなさきこるり)って言うんだけど…知ってるかな?」
「いえ…名前は…」
蒼の一件があるまでは顔すら知らなかった。名前も可愛いし。
明らかに無理して微笑み、わたしを気遣う様に明るい声で自己紹介する花咲さんはやっぱりどう見ても良い子にしか見えない。
まず…駒井さんと違って嫌味な感じがしない。きゃぴきゃぴした媚びた様な雰囲気も全く無いのだ。それ故どうしてもこちらも油断してしまいそうになる。
そりゃ…蒼に告白した女の子だけど。別にわたしから奪ってやるって言う敵意は感じられない。そう言う感情は大体分かるものだ。同性なら尚更敏感に感じ取れる。鈍いわたしでもだ。
「…じゃあ…もしかして雛森君に聞いたかな?告白されたって…あ!で、でもね!!私速攻振られちゃったし、彼女いたんじゃ仕方ないなって諦めてるから!!き、気にしないでね?」
慌ててそう付け加える様子もわざとらしくない。むしろわたしを気遣ってくれている…そんな思いやりも感じられるほどだ。
じゃあなんでこの子…花咲さんはわたし何かに話しかけて来たんだろう?逃げた翌日、わざわざわたしのクラスまでやって来て…
「…顔色悪いけど…大丈夫?もしかしてあまり具合良くないんじゃない?」
「だ、大丈夫…ちょっと胃の調子が…」
「え!?ちょっとそれ全然大丈夫じゃないじゃん!!保健室行こう?えっと…仲の良い子とかいる?その子に連れてってもらった方が良いよね?」
花咲さんは慌ててわたしの肩に手を置くと、心配そうに顔を覗き込み次に教室の中を見渡す…
あ…この子多分良い子だ…。
「灯!?あんた大丈夫!?保健室行くよ!!」
「あ、灯ちゃん!?歩ける!?」
異変に気付いたのか、心配してか…奈々ちゃんと美波ちゃんが駆け寄って来る。そして背負おうとする逞しい奈々ちゃん…それに釣られ好奇心と可愛い女の子大好きな日向君がやって来た。
「あかりん大丈夫か!?うわっ!真っ青じゃん!!ちょっと待ってろよ!俺が超特急で保健室まで運んでやるから!!」
「あんたのしょぼい背中じゃ灯を任せらんないわよ!!」
「ななちん何言ってんだよ…俺の背中は超頑丈なんだぜ?いつかななちんも背負ってやったろ?あの時の安定感安心感を思い出してごらんよ…」
と、何故か得意げに恰好付けて言う日向君。当然奈々ちゃんに殴られた。脳天にゲンコツ一つ。かなり強烈だ。
「ちょっと!雛森君!!雛森君は何処よ!!」
「…雛森君なら水城君と一緒にトイレ行ったんじゃ…というか水城君が勝手に付いて行っただけだけど…」
確かにそうだった…。美波ちゃんと一緒に現れた水城君は、蒼がすっと教室を出ようとして『便所か?俺も俺も!!』と何故か日向君並みにテンション高くついて行った。
あの時の蒼の鬱陶しそうな顔と来たら…ちょっと笑える…
て…今はそんな場合じゃないかも…。本当にこれはちょっとまずい…胃が痛くなってきて気持ちが悪い…吐きそうかも…
「もう蒼なんて待ってらんねー!!俺があかりんを連れてくぜ!!」
「ちょ、ちょっと…灯はデリケートなんだからそっと運びなさいよ!!落としたらぶっ飛ばすわよ!!」
「任せろ姉さん!!よっし行くぜあかりん!!俺から手離すんじゃねーぞ!!」
「だからそっとって言ってんでしょうが!!馬鹿日向!!」
愛しの奈々ちゃんの声が聞こえているのかいないのか…。日向君は気合を入れてわたしを背負おうとした…その時だった。
ふわり……
急に背後から持ち上げられ、わたしは誰かの腕の中にすっぽりと納まっていた。妙に安定感のある腕だ。
「遊びに来てやったら何してんのお前ら?新しい遊び?」
気だるげな声、無駄に整った顔…そして黒縁眼鏡の奥に見える瞳は…残念ながらいつもの様に死んで…あれ?いないや。普通だ!?
「し、忍先輩…何かあったんですか?」
「それ俺の台詞だから。真っ青な顔して何ボケかましてんの?」
「…ですよね…気のせいか…」
ちょっとがっかり…
いつもの如く気だるげに無気力にしかししっかりと突っ込むのは…忍先輩だ。そしてその後ろから緋乃先輩が心配そうに覗き込んでいる。
「灯ちゃん、大丈夫ですの?まさか昨日の人形の呪いが…」
「あ?こいつ元々胃腸弱いだろ…何か変な物食ったんだろ?芋とか芋とか…芋とか?」
「まぁ…食当たり?可哀想に…」
違いますが…何で芋一択しかないんですか?先輩??
「…灯ちゃん、とりあえず保健室行きましょう?奈々ちゃん、灯ちゃんの騎士さんは何処ですの?まだお休み?」
「…え?ああ…雛森君はお友達とお手洗いに…って忍先輩!!灯運ぶならもっと丁寧に!!ほら!気だるげにしない!!しゃきっとする!!」
珍しくわたしをお姫様抱っこしている忍先輩だったが、面倒臭くなって来たのか…飽きて来たのか…わたしは腕からずり落ちそうになっていた。奈々ちゃんが慌てて指摘し、喝を入れた。
「うっせーな…ちゃんとした運び方してやってんだから文句言うなよ…つかちーこマジで死にそうなんだけど…」
「保健室!!走る!!忍先輩のその無駄に長い脚は何のためにあるの!?」
「…必要最低限行動するため?」
「間違ってはいないけど!!もっと人様の為にも活用しなさい!!この無気力人間!!」
ちなみに、奈々ちゃんがこうして忍先輩に喝を入れているのはいつものことだ。部活になれば必ず見られる光景その一と言ったところか。
忍先輩も忍先輩で煩いと言いながらもちゃんと聞いているから凄い…さすが奈々ちゃんだ。
今も奈々ちゃんに言われ渋々動いているし。競歩だけど大股で…
「…あ~、面倒くせー…なんで俺がお前なんかの為にこんな重労働しないといけない訳?」
「…後で飴ちゃんでもあげますから今は優しく労わって下さい。お願いします。」
「…はぁ、仕方ねーな…ほら、着いたぞ。さっさと吐いてさっさと寝ろよ…」
ガララッ…
奈々ちゃんに怒鳴られ機嫌が悪いのか…先輩は長い脚で保健室のドアを開け、挨拶も無しにベッドへ直行しわたしを転がす。
ああ…だからもうちょっと丁寧に…。いや、この先輩にしては丁寧な方か…
証拠にいつもベッドかお布団を見ると必ず寝転ぶ先輩が、今日はわたしのベッドの脇に立って見下ろしている。心なしか少しだけ心配そうな顔をしながら。
「…蒼は?こんな時すぐ駆けつけて来そうなのに…何やってんの?」
「…だからお友達とお手洗いに…」
「高校生にもなって連れションかよ…」
「というかお友達が勝手に付いて行ったっていうか…」
「…あいつモテモテじゃん。俺も今度誘っちゃおうかな…」
「何にですか…はぁ、とりあえずありがとうございました。後は休めば良くなると思いますので…」
「全くだ…朝から無駄な体力使わせやがって…」
「だからすみませんってば…慣れない重労働させてすみませんでした。もう戻って良いですよ…」
心配そうって言うのはやっぱり気のせいか…。忍先輩だもんね。なんだがっかり。
「…先生いないし…戻るまでとりあえず付き添っててやるから…お前放って戻ったら緋乃に怒られるし…」
「…ああ、そうですか…ってええ!?」
「…だから…緋乃に怒られんのが嫌なの。お前の為じゃねーよ…バーカ…」
うわぁ…なんて子供っぽい…
そっぽ向いて少しだけ頬を赤く染める忍先輩は新鮮だ。ラーメン何か食べる時、眼鏡を外す時くらいしか見た事がない。
「…そ、それに…お前保健室に一人とか嫌なんじゃねーの?ビビりだし…妄想力半端ねーし…」
「…それはわたしが怖がっていると?」
「違うの?」
「…い、いや…別にそこまでは…多分暫くしたら蒼が来るだろうし…」
「絶対来るな…あの過保護介護犬…」
「介護犬って…人を世話の掛かる年寄りみたいに…」
「ああ…年寄りじゃなくてお子様だもんな。悪い悪い。」
「素敵笑顔で残酷な事を…も、もう良いですよ。戻って下さい。緋乃先輩にはわたしからちゃんと言っておきますから…忍先輩の親切で優しい善行を。」
「ああ、話せ話せ。大いに話せ。」
……たく…この人は本当に……
ま、いいや…心配して運んでくれたのは間違いなさそうだし。それで良しとするか。
「…よし、じゃあそう言う事なら…俺も寝よ。」
「何故!?しかもなんでわたしのベッドに入ろうとするんですか!?」
「寒いから。」
「また抱き枕ですか!?い、嫌ですよ!!」
「お前の意見は聞いてないし。」
「たまには聞いてください!!」
そしてまた東雲先生の家で起こった様なやり取りが続いたのは言うまでもない。
まぁ…その後…
「…灯に何をやっているんですか…?」
「あ…見られちゃた?」
「…いいから速攻離れて下さい…」
と…静かに怒りに震える蒼によって制止されたから良かったけど。
いや…良くないのかな??
「…たく…お前は本当に…」
「わ、わたし悪くないもん…」
「知ってるけどな…それにしてももう少し危機感を持って…」
その後、蒼から延々とお説教されたのは言うまでも無い…