第21話 お隣さんはスカポンタン
文字数 3,658文字
ついに言ってしまったこの台詞…
そして蒼も…
『俺も灯の事が好きだ…』
そう確かに言ったのだ…
信じられない事に今さっき…
蒼もわたしの事が好き…?
それって…
沈黙が二人の間を流れる…
波の音、行き交う人々の声との間に…
う、うわぁ~!!無意識に言ったけどこんな展開さすがに予測してなかった!妄想範囲外!!
再び前を向き涼し気な顔をしている蒼を見ると…
な、何か…何か言わないと!!
というか蒼も何か言ってよ!!
今更ながら我に返って顔が…全身が熱くなっていくのが分かった。物凄い速さで…
「あ、あの…!!」
「あかり~ん!!蒼~!!」
何か話さなければ…パニックになりつつもそう判断したわたしが意を決して口を開いた時だった。
タイミング悪く底抜けに明るい…この真夏の太陽の様な笑顔を浮かべた日向君がハイテンションにやって来たのは…
日向君…今度という今度は本当何してくれてるの!?空気読んでよ!!
八つ当たり気味にそう思った。我ながら無茶な考えだとすぐに反省したけど。
「昼飯食べようぜ!海と言ったらやっぱ海の家だよなぁ~!!」
「あんたは食べられりゃなんでも良いんでしょうが…」
「何言ってんだよななちん!!俺が海の家で焼きそばとかき氷食べるのどんだけ楽しみにしてたと思ってんだよ!!」
「どんだけ楽しみにしてたのよ!?…はぁ、行こ灯…こんな海馬鹿放っておいてさ…」
「放置駄目!!俺中身はうさぎさん並みなの!!」
「そんな可愛らしいもんじゃないから…」
と、目の前で繰り広げられる奈々ちゃんと日向君の掛け合い合戦…そしてその後ろからひょっこり顔を覗かせる美波ちゃんとずぶ濡れの水城君…
な、何なのまたこのいつも通りの展開は…
で、でも…さっきまであったことは夢でも幻でもなくて現実なんだ。妄想でも無く…
「灯ちゃん顔赤いけど大丈夫?のぼせちゃった?」
「俺スポーツドリンク持ってるけど飲むか?雛森しっかり面倒見とけよなぁ…」
俯いていたわたしの顔を心配そうに覗き込む美波ちゃんと水城君…
顔…そりゃああんな事言って言われたら赤くもなる。
でも…確かに何か全身熱い…頭も…
「花森!?」
「灯ちゃん!!」
わたしは夏の暑さにやられたのか、別の熱にやられたのか…視界が突然揺らぎそのまま意識がぷっつりと途切れてしまった。
なんてありがちなこの展開…
いや、のぼせて倒れるなんて言うのは温泉イベントに部類されるから違うのか…??
そして目を覚ましたのは簡易の救護室みたいな場所だった。
簡易なベッドの上に寝かされ、額には冷たいタオルが置かれているのに気付いた…
ああ、わたし何をしてるんだろう…?
無計画に告白して、はっきりさせないまま倒れて…
やっぱり、わたしって海との相性が最悪なんだ。
「…気が付いたか?気分はどうだ?」
「あ、蒼!?」
当然と言えば当然だが蒼が付き添っていたらしい…
冷たい水の入った紙コップを手渡しながらわたしの顔を覗き込んで少しだけ心配している様な表情を浮かべていた。
と言うか…蒼まだ水着のままだし!いや、海だから当たり前か…
パーカーを着ているとは言え前は開け放たれているので胸部やら腹部やらが丸見えだ…屈んで顔を覗き込んでいるから尚更…
ってまた何やましい事を考えようとしているのわたし!?程よく筋肉ついて意外としっかりした体つきしてるなとか!
ああ…駄目だ…蒼の事まともに見れない…!!
「…まだちょっと熱いな…お前体調悪かったのか?だったらなんで先に言わないんだよ…全く…」
「…!?」
またいつもの様に額に手を当て涼しい顔をしてそう言う蒼に変わりは無い。
わたしに告白されたって言うのに…というか蒼も好きって言ったくせにその事には何も触れてこないって…
「あ、あのさ…蒼…わたしが言った事覚えてる?」
「いつ具合が悪いなんて言った?」
「そうじゃないくて!その…倒れる前に話した事…」
蒼のパーカーの裾を遠慮がちに掴むと、わたしは俯いて何とかその話題を口にした。
ここでなかったことにするのは簡単だ…でも、せっかく言ってしまったんだしはっきりさせるしかない…
「…何か言ったか?別に特別気になることは…」
「お、覚えてないの!?」
「何を?」
「好きだって言ったでしょ!!わたしが蒼の事!!」
「…ああ、確かに言ったけど…」
「言ったけどって何そのサラッとした反応!?し、信じられない…あの言葉にわたしの勇気何年分が詰まっているかと…」
いや…なんかあれは無意識だったからついうっかり言ったって感じなんだけど…
それにしても何なのこの無反応!?幼馴染みが告白したって言うのにこの無表情!この涼しさ!!
ここまで反応の無い奴だとは思わなかった…こんな時くらい少しは動揺して顔赤くするとか可愛げのある反応したっていいじゃない!!馬鹿!!
蒼のいつも通りの態度を見ていたらなんだか腹が立って来た。蒼の性格上はぐらかして茶化すなんて器用な事は出来ない…
じゃあわたしの告白は?あの時の好きってお互いに言った言葉は何だったの??
「俺も好きだと言った…」
「そ、それにしても…」
「幼馴染みとして、隣にいる存在として好きってことだろ?俺がいつも言っているような…」
「…は?」
「…そんな事で一々怒るな…特別な意味なんてないだろ?俺もお前も…。大体お前はいつも大げさなんだよ。反応が。いい加減その癖直した方がいいぞ?致命的にドジなのは仕方がないとして…百歩譲って…」
「…の…か…」
「…灯?」
「蒼の馬鹿!!鈍感!!なんであんたってこんな時も…」
「…何の事を言ってるんだ?」
「…蒼の…あ、蒼の…ス、スカポンタン!!海に潜って頭冷やせ!馬鹿!!」
「ス、スカポンタンってお前…おい!灯!!」
「追って来るな!!バカバカバカぁ~!!」
ガラッ…
わたしは沸き起こって来た怒りを蒼にぶつけついでに額に置いてあったタオルも投げつけ、走り去った…
信じられない!!なんであの状況でそんな解釈するのか訳がわからない!!馬鹿なの?蒼は馬鹿なの!?
「…なんなんだあいつは…?」
残された蒼はぽかんとしてその場に立ち尽くしていた…
無表情、冷静沈着なクールビューティーな彼らしくない間抜け面して…
海なんて本当大嫌いだ~~~~!!
*****
バシャッ…
「…雛森?お前何してんの?」
「…頭を冷やしてる…」
「は?そろそろ帰るぞ?」
夕日に染まる浜辺…波打つ音…
人もまばらになった海に潜る一人の美少年…蒼…
どうやら彼は本当に海に潜って頭を冷やしていたらしい。
水城君が呆れたように蒼を引っ張り出すとそのまま更衣室の方へと引きずって行った…
「ってお前自分で歩けって…らしくねーな…」
「…俺は馬鹿なのか?」
「はぁ?」
「…三回も言われた…しかもスカポンタンとも…」
「…それって花森に?ていうか今時スカポンタンなんて言う奴いたんだな…スゲー…」
「…だな…俺も十三年間一緒にいて初めて聞いた…」
「…何したんだよ?あいつがそこまで言うなんてよっぽどだろ?」
水城君は足を止め、適当な浜辺に腰を下すと蒼にも座るよう促した。
そこで大人しく従うのが蒼らしいと言うか…
しかし何だろう…この夕日に染まる海でイケメン二人が肩を並べて座る図って…
わたしがその場にいたら薔薇色妄想でご飯三杯くらいいけそうだ…
「…それが…心当たりがない…」
「は?そんな訳ないだろ?よく考えてみろって…」
「…わかった…ちょっと走って考えてくる…」
「ちょ、ちょっと待て!!なんで走る必要が…っておい!!」
スカポンタンが余程ショックだったのか、まだ混乱しているのか…蒼はすっくと立ち上がると浜辺を走り出した…
「…ったく仕方ねーな…待てって雛森!」
そして追う水城君…
何この光景?まるで二人が浜辺で追いかけっこしているみたいだ…
あははうふふって笑い声が聞こえてきそう…
「あ!お前ら何楽しそうな事してんだよ!!俺も混ぜろよ~!!」
と、それを発見してさっそく混ざる寂しがりの日向君…
ああ、こうしてまたはっきりしないままぐだぐだに過ぎて行くんだよね…
帰りのバスの中、わたしは蒼と一言も口を利かないどころか近寄りもしなかった。
もうこれからどうすればいいんだろう…?これなら振ってくれた方がまだマシだったかもしれない…
告白すら受け入れられず理解されてないなんて…本当蒼って最悪!!