第31話 お隣さんと先輩と照れ隠しと
文字数 7,203文字
十月の始まりの朝、蒼は裏庭に呼び出され女子生徒から愛の告白をされていた。
わたしよりも少し大きいくらい、割と小柄で普通に可愛らしい女の子。ピンクの色のセーターがお洒落で似合っている。
「…悪い、俺彼女いるから…無理だ。」
「え!?か、彼女いるんですか!?」
そこ、驚くところかな…?いや、相手が蒼ならそれが普通か…。
はっきりきっぱりと断る蒼を前に、その女子生徒は少し…いやかなり驚いたい様子で目を見開き、まじまじと蒼を見つめている。
その瞬間、朝の秋風が吹き…蒼の髪とその子の長い髪をさらりと揺らした。
いいなぁ…黒髪ストレートロング。両サイドに結んでいるセーターと同色のリボンも可愛い。女子力高いなぁ…。
と、わたしはここで彼女として堂々と様子を見ているのか…?勿論違う。それじゃあただの嫌味な女だ。
偶然だった。今朝蒼が下駄箱を開けた瞬間…その一時だけ微かに動揺した様な表情を浮かべたのをわたしは見逃さなかったのだ。偶然だけど。
しかし敢えて聞かず、そして蒼も素早く下駄箱の物を取り出し鞄に仕舞い込み…何事も無かったかの様に涼しい顔をして教室へと歩いて行ったのだ。いつもの様に無表情に。
え?っと一瞬思った…あの蒼がわたしに隠し事をするなんてと。さらりといつもの様に言ってしまえば良かった物を…だ。
そしてわたしは…蒼を尾行した。結果今に至る。
だ、だって気になるもん…!わたし一応彼女だし、あの蒼に限って迷うなんて事ないと思うけど…。
蒼…モテるからなぁ…。あの顔だし。蒼狙いの女子が多いのは知っていたけど、なんでこうレベルの高い感じの子ばっかりアタックしてくるんだろう…。
「…そういう訳だから…」
「え!?あ、うん…彼女いるなら仕方ないよね…」
「…今頃変な妄想をしていないか心配で…他に用がないなら戻るけど…」
「え?う、うん…」
妄想って…。まだしてないよ、失礼な…。
物陰(植え込みの茂み)に隠れ、蒼の失礼な言葉に少しムッとしながらもほっとする自分がいる。
そうだよね、蒼だし…わたし何を変な心配してたんだろう。
「あ、雛森君!」
「なんだ?」
蒼が背を向けると、女子生徒は慌てて駆け寄り手を握った…
「あの…彼女ってもしかしていつも一緒にいるあの子?」
「そうだけど…」
「そ、そうなんだ…可愛いよね!お似合いだね。」
「そうか…?まぁ…(小さくてちまちましてるとことか)可愛いけど…あいつには俺が付いていないと駄目だと思う…色々と…」
「そっか…ラブラブなんだね。」
「…そうなのか?いつもと変わらない気がするけど…」
「雛森君、彼女さんの事大好きじゃん。あ、じゃあ…私はこれで…変な事まで聞いちゃってごめんね。」
無表情に考え込む蒼を見て苦笑すると、女子生徒は慌てて手を放し走り去って行ったのであった。
あとに残されたのは…蒼一人…と、茂みに隠れるわたし…
ど、どうしよう…考えてなかったけどこの状態で蒼にバレずに教室に戻るなんてハードな技、わたしに出来るかな?鈍臭いわたしに…
ここでバレたらなんか凄く気まずいし…!!奈々ちゃんとか連れて来ればよかった!!
「…いるんだろ?出て来い…」
うわぁっ!?いきなりバレてる!?蒼、どっから気づいていたんだろう…。なんか怖い…。
身を隠しパニクっていると、突然真上から何かが降って来た…。植え込み越しのわたしの目の前に…。
眩し過ぎる金髪、そして真っ赤なパーカー姿…
ひゅ、日向君…?なんでこの人までここに…
「あ~、バレちゃったかぁ~!!」
「夏、お前尾行の意味を知っているか?」
「だってなんかお前こそこそしてるからさ!俺は堂々と後を付けようと思った!」
「…堂々過ぎるだろ…まぁ、別にいいけど…」
「そうそう!細かい事は気にすんなって!気になったっから来ちゃっただけだし!!」
「…本能的すぎるぞ…でもなんで木の上なんだ?普通に物陰に隠れて入れば良いのに…」
確かにそうだ…。でもそうしない所が日向君らしいっていうか…奈々ちゃんでも同じような事したんだろうな。
ああ…でも…助かった…。日向君が騒いでいる間にわたしはこっそりと…
「お前何してんの?」
「…!?」
さ、最悪…!なんでこんなタイミングでこの人に!?
茂みから何とか離れ、渡り廊下まで辿り着いた瞬間、わたしはその人に抱え上げられたのだった。背後からまるで猫でも抱き上げるかのように。
彼もまた黒髪サラサラヘアだ。しかし毛先が寝癖で跳ねて前髪も長めでその上寝起きのせいか、睡眠不足のせいか目つきが悪い。
そして今日も腹立たしいくらい足が長く背が高く、そして黒縁眼鏡が似合っていて恰好良い…
「…ちーこ、お前…太った?秋だからって食べ過ぎじゃね?」
「う、うるさいですよ…!今そんな事関係ないでしょ!!」
最悪だ…この状況で忍先輩に会うなんて!この人は面白い事が大好物のドSな危険人物だ…。わたしの今までの行動に気づいて何をからかわれるか…!!
「体重増やすより身長増やせって…。どうせ庭で芋でも毎日の様に焼いて食ってるんだろ?」
「し、してませんよ!我が家の庭にそんなスペースありませんし…」
「マジ?普通あるんじゃねーの?」
「忍先輩の家のお庭が立派なんですよ…きっと…」
「え?俺芋焼くなら自分家より緋乃の家の庭使うけど?そこの縁側が最高でさぁ…あそこで寝転んでダラダラすんの。芋は緋乃のお兄ちゃんが焼いてくれるし…もう最高。」
「何してるんですか…?緋乃先輩のお兄さんにまで迷惑かけて…」
幼馴染みとは言え人の家の縁側でダラダラして、挙句お兄さんにお芋焼かせるとは…さすが先輩だ。だらっけっぷりとジャ●アン感がにじみ出ている。
でも…緋乃先輩のお兄さんか…。きっと凄くイケメンで優しいんだろうな。ほんわかした感じで。
「…あ、お前今…緋乃のお兄ちゃんイケメンなんだろうなって思っただろ?」
「な、何故それを!?」
「顔にすぐ出るし…バレバレ?ま、俺も退屈してたし緋乃も喜ぶだろうし…お前も来れば?如月家?」
「え!?い、良いんですか!?マジで!?」
「食い付き早っ…」
緋乃先輩の家にわたしが…!?イケメン(妄想だけど)お兄さんのいる家に!?
い、いや…でも!わたしには蒼がいるし!!蒼もイケメンだし!!でも、やっぱり緋乃先輩のお兄さんも…
「…ちなみに、お兄さんはイケメンだ。お前好みの紳士的で優しい…」
「え、ええ!?い、嫌ですねぇ…そ、そんな事聞いてませんよぉ~!!ふ、ふふふ…イケメンなんだ(小声でぼそっと)…」
忍先輩に耳元でそう囁かれ、わたしは更に胸が高鳴った…。
どうしよう、凄く気になる!そして凄く行きたい!!
けどなぁ…。これを蒼に話したら絶対反対されそうなんだよね。
『そんな得体の知れない場所には行くな』って…
蒼は忍先輩に良い印象を持っていないのだ。その先輩からのお誘いと知ったら尚更…
「丁重にお断りします…」
「蒼!?」
そんな事を考えていたせいか…。
肩に感じる重みと温もり…そして聞き慣れ過ぎた声…
振り返るとやはりそこには蒼が居た。無表情だが、少し不機嫌そうに見えるのは気のせいだと思いたい。
「…あ、ちーこを振った過保護の…」
「そんな覚えはありません。」
「え?そうなの?ちーこ、お前振られたってあんだけ騒いでたのに、なんでそんな大事な事言わねーんだよ?」
ガシッ…
忍先輩は掘り返さなくて良い事を引っ張り出し、挙句わたしの頭をがっしり掴んでガクガク揺さぶって見下ろしてきた。
いや、見下ろすというより見下している感じがする…
「い、痛いです…あとそれはもう良いんです!今わたしはこの蒼と…つ、付き合っていて…って…視界が歪んで気持ち悪いんでやめてください…!!」
「…はぁ?付き合ってるって…マジで?」
「本当です。あと灯は丁寧に扱って下さい。というかそれやめてくれませんか?」
「…あ~、気持ち悪い…うう…」
「慣れれば大丈夫だって…ほらほら。」
「だからやめて下さい!」
蒼は珍しく声を荒げ、忍先輩からわたしを引き離した。
そしてわたしを背後に押しやると、すかさず間に立ちはだかった。忍先輩とわたしの間に。
「たく…あなたは灯をなんだと思っているんですか?」
「可愛い後輩だと思ってるよ…表面上は…」
「ぼそっと聞き捨てならない事を…」
「ちゃんと日々超可愛がってるって…。お前さ…何だっけ?」
「雛森です。雛森蒼…」
「ああ、じゃあ…蒼?」
「いきなり呼び捨てですか…」
「さんとか君とか付けんの面倒臭ぇし…」
「それすらも…まぁ、構いませんけど…」
なんだろう…?蒼が忍先輩のペースに流されている気がするのは…??
さすがの蒼も、マイペースで気だるげ過ぎる忍先輩を前にすると、気が抜けてくるのかな…??警戒心は大いにあるみたいだけど。
「そんなにちーこの事心配ならお前も一緒に来れば?」
「…だから丁重にお断りすると…」
「それはお前の意見であって、こいつの意見じゃねーだろ?行く気満々だったし…だろ?」
「そうなのか?」
そう言って二人してわたしに顔を近づけ迫って来る…
蒼も忍先輩も長身な上イケメンなのでちょっと怖い様な、美味しい様な…
「嬉しそうな顔してんじゃねーよ。本当俺の顔好きだなお前…」
「灯はただ単にイケメンが好きなだけですよ…」
「まぁそうだけど…特にこういう顔が好みなんだって。俺が部活の勧誘した時に真っ先に付いて来たし…」
「あなたが灯を…?益々胡散臭い…」
「胡散臭いってお前な…俺はただ自分の直感と本能に素直なだけだって。そこになんか小さいのがちまちましてたから確保しとけってノリで…」
「…そんなノリで灯を…確保って何したんですか?」
「…別に…こうやっていつもみたいに…」
「ちょ、灯に何を…!」
忍先輩はわたしをひょいと持ち上げた。いつもの様に小脇に抱えて。
ええ、もう慣れましたとも…。驚きも怒りもしませんよ。トキメキすらね。
「…あ~、やっぱこれがしっくりくるわ~…」
「落ち着かないでく下さい…。灯、お前も何か言ったらどうなんだ?嫌じゃないのか?」
「…今更どうこう言ったところでどうにもならないと思う。」
「諦めてるのか…」
諦めの表情でそう言ったわたしを見て、蒼は少し気の毒そうな顔をした。
だって本当…わたしがどうこう言ってどうにかなる人なら、こんな事しないと思うもん。
「…緋乃がいなかったらお前を彼女にしてやってもよかったんだけどな…」
「結構です。」
「即答かよ。ま、いいけど。所有権はとりあえず俺にあるし。」
「そんなのありませんよ!?何故いきなり忍先輩の所有物になってるんですか!?わたし!?」
「え?違うの?」
「違いますよ!!」
「じゃあ蒼?」
「それも違います!」
「じゃあ俺でよくね?」
「何でですか!?」
「良く言うじゃん…ほら…『俺の物は俺の物、お前の物は俺の物』って。」
「本物のジャ●アン発言しないで下さい!ん?じゃあ…わたしの物は忍先輩の物なんですか?それって!?」
「お前今更気づいたの?おっせーよ。」
「気づいて恐怖を感じましたけど…?何爽やかに笑ってるんですか!?ここぞとばかりに!」
「あはは!好きだろ?俺の笑顔?」
「そ、そりゃ…好きですけど…顔は…」
「俺もお前の腕に納まる所とか好きだぞ?あとつつくと面白いとことか絶望的に鈍くさいとこも。見てて面白い。」
「嬉しくありません…猛烈に…」
ああ、楽しそうだ…。忍先輩今凄く楽しそうだ。
さっきまで目が据わっていたのに(寝不足か眠くて)、いつの間にか目が輝いて、笑顔まで浮かべているもの!!
もう関わるのはやめよう…。そう思い蒼に目をやると、いつもと変わらず無表情でわたしと忍先輩を見つめていた。
ああ、いつも通りのこの涼し気な雰囲気…。何か安心する。
*****
「あの先輩と仲良いな…」
「え?」
放課後、帰り支度をしていると蒼が突然そんな事をぼそっと呟いて来た。
今日はわたしも蒼も部活は無い日。つまり一緒に帰れる日なのだ。いつもと変わらないけど。
「今朝の…忍先輩とか言う…」
「ああ、あの人。ってどこをどう見たら仲良しに見えるの!?」
「昼休みも楽しそうだったし…」
「あれの何処が!?ただ偶然通りがかった先輩が、わたしの卵焼きを奪っただけだよ?あの人本当大人気無いんだから…」
「…あの人はいつもああなのか?」
「見ての通りだよ…。この前はわたしのどら焼き食べちゃうし、寒いからって抱き枕になれとか無茶苦茶な事言うし…」
「なったのか?」
「なってないよ!緋乃先輩が助けてくれたもん…。どら焼きも楓先輩が自分の分くれたし…」
「…お前、やっぱり気に入られてないか?」
「まぁ、嫌われてはいないけど…。前にも言ったけど、忍先輩は緋乃先輩一筋なんだって。」
「緋乃って…ああ、マカロン先輩か…」
「マ、マカロン先輩!?まぁ、蒼にとっちゃそうかもしれないけど…」
蒼は夏合宿の時、緋乃先輩からマカロンを貰って以来彼女の事を『美味しいマカロンをくれた良い人』と思っているらしく…。緋乃先輩の話題になると彼女の事を『マカロンの人』と言っていた。
それが今マカロン先輩に…!?進化してる…!!
「だってこの前…緋乃先輩が珍しく風邪でお休みしちゃった時、忍先輩猛ダッシュで帰宅して、途中で緋乃先輩の好物沢山買ってお見舞いに行ってたし…」
「あの先輩走れるのか?」
「…本気を出せば。滅多に見ないけど…。」
「あの人が本気を出す時っていつなんだ?想像が出来ない…」
「う~ん…わたしもさっぱり。でも、わたしがうっかり不良に絡まれそうになったら助けてくれたよ?」
「いつそうなった!?お前は本当に…」
「うん、ちょっとね…。でも間一髪、忍先輩のキックが不良の顔面に決まってさ。その後はあの目つきの悪さだけで撃退してたっけ…ダークな先輩は本当悪魔だから。」
「…お前の周りってなんでそんな変人ばかりなんだ…。俺は心配だよ…。」
「大丈夫だよ!基本皆良い人だし!それに蒼だって変な人だから!!」
「俺はあそこまで変わり者じゃない…」
「あはは、まぁ確かに!」
「笑うな…何か凄く嫌だ…」
「ごめんごめん。でも珍しいね?蒼がそんなに他人に興味持つなんてさ?忍先輩は確かに変人だけど…」
蒼は別に他人に全く興味を示さない訳ではないが、基本執着はしない。自分で言うのもあれだが、わたしぐらいだ。
でもこうして忍先輩の事を聞いて来て、興味を示しているとは…珍しい。あんなに警戒してたのに琴線にでも触れたのかな?
忍先輩、一応芸術的センスは抜群に良いし才能あるし…。もしかしてそっちの気を感じ取ったとか??
「…お前が凄く楽しそうにしていたからちょっと…」
「だからどこが?」
「…俺にはそう見えただけだ。」
「なんでそう見えるかなぁ…?忍先輩より咲良君や楓先輩の方がよっぽど仲良しだし優しいよ。」
「それも何か嫌だ…」
蒼はそう呟くとそっぽを向いて、帰り支度をし始めてしまった。
ん?これは…??もしかして照れているの?いや、拗ねているのかな??
相変わらず涼しい顔をして変わりない様に見えるけど、これってちょっと妬いてるのかな?忍先輩に?わたしと仲良くしていたから?
だったら…忍先輩も少しはわたしの為に働いてくれたことになるのかな。絶対に口には出さないけど。
「大丈夫だって。わたしは蒼以外の人を好きになったりしないから。」
「いきなりなんだ?別に俺は…」
「別に…ちょっと言ってみたかっただけだよ。」
「…そうか…まぁ、悪い気はしない…」
顔を背けたまま、蒼はまたぼそりとそう呟いた。
なんだろう…これ?何か凄く蒼が可愛く見える…
ちょっと顔赤くなってない??よく見えないけど…
普段表情が乏しい奴はこれだから…
「…俺も…灯以外の奴を好きになったりしない…」
「…え?な、何急に!?」
「…お前がそう言ったから…俺もそう言いたくなっただけだ。」
「う、うん…」
ちょっと本当何なのこれ??急に真っすぐこっち見てこの台詞って…!反則でしょ!!
恥ずかしかったのか、蒼はふっと顔を反らすと『帰るぞ』と呟き、鞄を片手にさっさと教室を出て行ってしまった…。
蒼にも照れとかそんな気持ちがあったのか…。意外…。
一人取り残され、暫く呆然としていたが次第に笑いが込み上げて来た。
ああ、なんだろう…?この気持ち…。凄く幸せで嬉しいって言うのかな。とにかく顔がにやけそうで困る。
「…おい、何ぼんやりしてるんだ?」
「あ…ご、ごめんごめん!」
込み上げる笑いを堪えていると、蒼が再びやって来て今度はわたしの腕を掴んで引っ張って行く。
でもまだこっちを見ようとしないのは…やっぱり照れているからかな?
「何が可笑しい?」
「え?な、何?わたし笑ってた?」
「顔がにやけてる…」
「え?あ、あはは…!!何でもないって!」
「…気味が悪い。」
「ごめんごめんって!」
そう言ったもののわたしは笑いを止めることが出来なかった。そして蒼も、口ではそう言ったものの腕は掴んだまま真っすぐ前を見て歩いている。
ああ、わたし…ラブラブではないのかもしれないけど…ほんわかして幸せなのは確かみたいだ。
傍から見たらこの光景は奇妙に見えるかもしれないけど『わたし今、幸せを噛みしめてます!!』そう宣言したいくらい気分が良い。
「…わたし、蒼が好きだよ。」
「俺もだ…」
小さい声でお互いそう呟き合い、気持ちを確かめる…
同じ言葉が返って来る…
そんな些細なことが、すごく大きな幸せなんだ。
「……」
そんな幸せを噛みしめるわたし達を、物陰(掃除用具入れ)から見る一人の生徒…
それにわたしは気づくことはなかった。
「…雛森君…なんで…」
その小さな囁きも…
わたしの耳に届くことはなかったのだ…
これから何が起こるかも知る由もなかったのだ。