1「夏の終わりの人体実験」ー4

文字数 1,553文字

「できた」
「やったー」
「ばんざーい」
3人は鉄杭のコイルに繋げた金属板を頭上高く掲げ、飛び上がって喜んだ。その時……。

ピカッ ズガガーンッ!
ビリビリビリビリ…………

目のくらむような光が瞬き、凄まじい轟音と共に大地が震えた。
バラバラに弾き飛ばされた少年たちの無防備な肩に、背中に矢のような雨が突き刺さる。
ピシピシピシピシッ ズガーンッ!
ジグザグの光線が天から駆け降り、鉄杭を直撃した。
パーンッ!

耳をつんざく音がして火花が飛び散る。
全ての音が消えた。
滲んだ花火がスローモーションで地面に吸い込まれて行く。
やがて、滝のような雨は緩くなり、次第に身体の感覚が戻ってきた。
公園の灯りは無く、遠くで街燈のLEDライトが点灯している。

翔太は激しい恐怖に襲われた。
あいつらは……?

「あ……あきら―っ」
野太い声が公園中に響き渡った。
小さな影が両手を高く上げるのが、かろうじて見えた。
「ゆうと―っ」
続け様の呼び声に、細長い影がユラリと立ち上がった。
「しょうたぁー、怪我ないかぁ?」
晶の甲高い声は雨音にかき消された。しかし、それが聞こえたかのように、大男の影がガッツポーズを取ってみせた。

間接的とはいえ雷を受けたはずなのに皆、無傷だった。
再び、雷鳴が轟いた。
安堵の涙は雨で流され、掛け声は風に吹き飛ばされ、嵐の中を3人は走り出した。
翔太は晶が家に辿り着くまで、こっそり見送ったが、その後、一体どうやって自分のベッドに潜り込んだのか、記憶が無い。


翌朝一番。
バーンッ
「おいっ、おまえら無事かっ?」
ドアを開けた翔太の腹に、何かが飛んで来た。
「うおっ、なんだこりゃ?」
翔太が脇腹にへばり付いたスチールタワシを叩き落とそうとした時、甲高い声がした。

「翔太、おまえもか」
「なんでぃ?」
「ほら、見ろ」
部屋の奥で体育座りしていた晶が立ち上がると、その脇腹には空き缶やらスプーンやらが、ぶら下がっていた。
「強烈な電気は鉄を永久磁石に変えるんだ」
と言う優斗もクリップやピンをジャラジャラと身にまとっていた。
「おまえら、いつから鉄になったんだよ?」
翔太はヘラヘラ笑った。
「フフ。翔太、おまえもだ。夕べほうれん草食っただろう?」
「ほうれん草?……ああ、いっぺぇ食ったな。それがどうした」
翔太はスチールタワシをぶら下げたまま、床にあぐらをかく。
「僕も山盛り食わされた。晶もだ」
「昨日、スーパーで特売だったんだよ」
晶の甲高い声にスプーンのカチャカチャ音が混じる。
「だから、それが何だってんだよ」
「まだ、分からないか?雷が……ほうれん草の鉄を磁石に変えたんだ」
優斗が人差し指で眼鏡を押し上げる。
切れ長の目が妖しく光り、目尻と口角がキリキリと上がっていった。

「はぁ?腹の中で?バッカか、おまえら……」
翔太は呆れ顔で立ち上がった。
「あ、待て、来るな……」
優斗が手で制したが、遅かった。
「うわあぁぁー」
「うおぉぉーっ」
翔太が優斗と晶の丁度、中間地点に踏み込んだ途端、それぞれ部屋の反対側にいた2人が大声を上げながら飛んで来た。

ドンッ ガチャガチャ カチャン……

気が付くと、3人は部屋の真ん中で見事、合体。晶、翔太、優斗の順で折り重なり、人間ハンバーガーと化していた。 さしずめ、翔太は薄いバンズに挟まれた特大ハンバーグだ。
「おい、晶。 いつまで乗っかってんだ。 降りろ」
「だめだよ、腹がくっついて…… 翔太が悪いんだ。 折角、離れてたのに近寄るから……」
晶は「はぁー」と長い溜め息を付いて、スライスチーズのようにべったり、ハンバーグに覆い被さった。
「うっ」 
翔太がビクンと肩を振るわせ真っ赤になって怒り出す。
「し、知るかっ……んなこと、先に言えよなっ」




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