4「さらば三角」ー7

文字数 2,056文字

「おい、晶、待てよ」
翔太が晶の手首を掴む。
「翔太。なんでこっち来たっ」
晶が振り返り、手を払う。翔太は少し離れて立つ。
「優斗の奴、堂々と二股掛けやがって……心配するな。俺がガツンと言ってやる」
「はぁ?ボクが優斗の『お洒落で可愛い彼女』になりたいと思うか?」     
「無理するな。おまえ、あいつを想って胸を痛めてたじゃねぇか」
「あれは服がきつくて、走ったら胸が痛くなったんだ。別に、その気ねぇし……」
「え?……じゃ、あれから、優斗に何て返事したんだ?」
「返事も何も……抱き付かれて、ブッ飛ばそうとしたら、寝落ちしやがった。何も覚えてねぇみたいだ」
「は?……それって、坂巻は知ってるのか?」
「玲奈には全部、話した。そしたら『1人足したら2で割れる』って、言ったんだ」
晶はフッと玲奈の言葉を思い出した。
『1人足したら2で割れる。さよなら三角また来て四角だよ。晶も勇気出して』
「意味わかんねぇぞ。2で割るって、どこをどう割るんだ?」
翔太がいらつく。
「玲奈は前から秀才の優斗に憧れて同じ高校目指してたんだってよ」
「マジ?……おまえ、それでいいのか?」
「うん。みんな大事な友達だ」    
「そうか。おまえは友達でいたいんだよな……安心しろ、俺達はずっと友達だ」
翔太が笑う。
「ち……違う。翔太は友達……じゃない」  
晶は絞り出すように言った。




「は?何言ってんだ?ずっと友達でいたいって、おまえが言ったんだぞ」
困惑する翔太。
「それは……翔太が玲奈を連れて来たからだ」
晶は翔太を睨みつける。
「え?坂巻がどうしたって?」
「突然、好きな女連れて来られたら、友達って言うしかねぇだろ」
「え……?」
「バカ……翔太のバカッ。本当は友達じゃなくて傍にいて欲しいんだよ。翔太がいないとダメなんだ。ボク……本当は翔太のこと……」
晶は下を向いて唇を噛み締める。
ポトリ。焼けたアスファルトに黒い染みが出来た。
翔太は晶の前髪を手のひらで掻き上げた。
怯えたような濡れた瞳が翔太を真っ直ぐ見つめている。
晶の想いが伝わってくると同時にズキンと胸が痛んだ。
……マジかよ……
「見るなっ」
晶は顔を真っ赤にして、翔太を突き飛ばした。

「待て、晶。俺が悪かった。坂巻はおまえの友達になって欲しくて連れて来ただけだ。俺が好きなのはおまえだ」  

「嘘だ。女と思ってないって……」
晶は顔を歪め、じりじりと後ずさる。
「それ、おまえが無理やり言わせたんだぞ」
「……じゃあ、ボクが優斗に告られた時、どうして、何も言ってくれなかったんだ?」
「おまえも優斗を好きなら諦めるしかねぇと思ったんだ。一体いつから俺のこと…」
「ボクの一番は初めから翔太だ。でもボクは我が儘で乱暴で頭悪いし、玲奈みたいに可愛くないし、いいとこなんて一つも……」

「ええい、黙れ。おまえがどんなに我が儘でも滅茶苦茶でも、俺はおまえが可愛くて堪らねぇんだ。俺が好きなのは晶、おまえだけだ。分かったか」
「……ホントにホントか?……ボクも翔太が好きだ。翔太がいたら誰もいらない」
晶は涙をポロポロ零した。。   
「ほら……晶、来い」
翔太が目を細め、逞しい腕を大きく広げる。
「翔太……」
晶は目を閉じ、大きく息を吸い込んだ。そして、真っ直ぐ翔太の広い胸に飛び込んで行く。
「いち、に、さん……」




ビシッ、バサ、ドス、ガス、ズガ、バシ、ドス、ビシ、ドスッ!
飛天〇剣流(ひてん〇つるぎりゅう)、奥義。『天翔〇閃(あまかける〇〇のひらめき))』……決まった」晶がポーズを取った。
「『〇ろうに剣心』の最速抜刀術『九頭〇閃』か……おまえ、今、それやるか?」
翔太が腹をピクピク震わせる。
「隙だらけだったからな。どうだ、効いたか?」
「ふん。おまえの手刀なんか、かゆくもねぇ」
「言ったなぁー。翔太のシックスパックはボクのものだ」
晶は翔太の腹に拳を押し付ける。
「おいおい、おまえが好きなのは、そっちか?」
「うん。好きなだけ殴れるし」
「ハハハ。ジョークになっ……」
「大好きだっ」晶は翔太に抱き付いた。
翔太も遠慮がちに、そして力強く晶を抱き締める。




「あー。男と男が抱き合ってるー」
「わっ、本当だ。男のカップルだあー」
道の向こうで幼児が騒ぎ出し、翔太と晶はパッと離れた。
「あれえ?親子じゃないか?大きさが違う」
「本当だ、違う。1人はデブだぞー」
翔太はガ二股で両腕を振り上げる。
「ガオオオー――ッ。デブじゃねぇ、俺様はマッチョだぞー」
「わあー。ゴリラだ、ゴリラだー」
幼児は蜘蛛の子を散らしたように逃げて行った。
街路樹のセミがジジジッと飛び立ち、冷や汗とも何ともつかない汗が噴き出てくる。


「戻るか」
翔太がボソッと呟いた。 
「うん……ボク、玲奈に習おうかな……身だしなみと言葉使い」
「無理すんな。おまえは今のままでいいからな」
「うん……」      
しばし、離れて歩く2人。
「なあ、翔太」
「なんだ、晶」
「ホコリの3原色にもう1色加えたら、何色になった?」
「……虹色……だなっ」
翔太と晶は同時に言って顔を見合わせる。
虹色に輝くペイブメントと明るい笑い声が、2人の前にどこまでも拡がっていった。


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