6番外編「さよならのかわりに」ー1

文字数 1,370文字

3月。
高校受験を目前に補習授業の後も勉強会と称し集まる(あきら)達4人であった。

「今から、小論文の練習しないか?」
唐突に優斗(ゆうと)が言う。
「え?最後の追い込みしねぇのか?」
英単カードを握り締めた翔太(しょうた)が当惑気味に顔を上げる。
「今さら頭に詰め込んでも、しょうがないわよ」
玲奈(れな)が冷たく言い放つ。
「余裕だな、優斗と玲奈は。明日から東京の受験旅行だろ?」
晶もスマホから目を離す。
「市立推薦落ちて、公立受けるくせに、何もしないおまえには負けるんじゃね?」
翔太が嫌味を言う。
「いーんだよ。どーせ、定員割れてんだから」
晶は再びゲームに興じる。
「小論文は大体600~800字程度だから、1時間で1000字以内。テーマはSFで小説を書いてみよう」
優斗が真面目な顔で原稿用紙を配る。

「ムリムリムリムリ。ボク、書けない。てか、何気にSF?」
晶は必死に抵抗する。
「それ、試験会場でも言うか?」
翔太が睨みつける。
「そうよ。晶。何事も前向きに!」
玲奈も目を吊り上げる。
「う……書くよ、書けば良いんだろ?でも、1000字はムリ」
「短くても良いよ。では、始め!」
優斗がテーブルに目覚まし時計を置いた。

緊張感に包まれた部屋の空気を秒針が刻む。
四人は時たま顔を上げながら鉛筆を走らせた。
「ぐはあーっ!疲れた……」
1時間後、晶はギリギリで原稿を書き終えた。
「じゃ、先ずはレベルの低そうなのから読もうぜ」
翔太が晶の原稿を取り上げる。
「言ったな、てめぇ」
晶が翔太の腹にキックをぶち込む。



*****『タイムトリップ』 栗田晶 *****

ボクは、ある日、タイムトリップしました。
未来の世界はパリピってゆーか、まじサイコ―でした。
未来ではみんな、しゅんかんい動するから車がいらないです。
だから、ドーロもないです。  
町には花が咲いてて、魚がおよいで、鳥がうたってます。
空は青くて町の空気はめっちゃきれいです。
やさいや動物も何もデカくて、みんな、好きなだけ食べれます。
サクサクはたらかなくてもいいってのは、すごいっぽいです。
店の形は売ってる物の形で、見たらわかります。
ペコったんで、肉の形した店にシュッて入りました。   
となりで未来人が「ブタキャベツ定食」注文しました。
キャベツに水ぶっかけてて、リアルガチやばいです。 
ボクもマネして、キャベツに水かけたら、じわってきました。
別の未来人はサシミ定食のワサビなめて、あげぽよで、ギガやばいです。
ここでチキったら、なしよりのなしです。
ちょづいてまねたら、びょうで、もんぜつしました。
元の世界にタイムトリップして目がさめました。
ああ。あのオニうまそうな肉、がっつり食えば良かったなあ。 
おわり

ドヤ顔の晶の前で3人は絶句する。
「晶が凄く可愛く思えるのは気のせい?」
優斗がボソッと呟く。
「ほぼほぼ気のせいね。常軌を逸したバカさ加減に正常な判断力を失ってるだけよ。さ、明日のこと考えよう」
玲奈は迷える優斗の目を自分に向けようと必死になった。
「童話じゃねえし。もっと漢字使え」
と翔太。
「へーんだ。ボクには秘密兵器がある」
晶がムキになってペンケースを掲げる。
「魚偏、米偏、さんずいの漢字鉛筆3本セットでしょ?読めもしない」
玲奈がピシャリとつっこむ。
「魚って書けたぞ」
晶は口を尖らせる。
「当たり前だ、小学生か?」
「うるせー。次、行ってみよー」
晶が翔太の原稿を取り上げる。



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