6番外編「さよならのかわりに」ー3

文字数 1,324文字

「げっ。坂巻、暗ぇー、怖ぇー」
翔太が怯える。
「私、ブラックストーリーが好きなの」
玲奈はしれっとしている。
「長いな。でも、何とかなるか……これで安心して東京行ける」
優斗がフッと笑った。
「何の話?」
玲奈が眉根を寄せた。
「いや、僕もブラックが好きだってことさ」
それから、優斗は部屋の角で遊んでいる晶にこう言った。
「晶。今夜、この原稿をココアと一緒に母さんに渡してくれ」
「何で母さん?何でココア?」
晶がポカンとする。
「いいから、さよならの代わりにSSコンに4人の合作で宜しくって」
「……エスエスコン?意味わかんねー」
晶がゴロゴロ転がる。
玲奈は暫くココアの袋を見つめていたが、ハッと顔を上げ、優斗を見る。
優斗は悪戯っこのように肩をすくめ、玲奈に笑って見せた。
例えコンクールで選ばれなくても四人の固い絆はネットの片隅に永遠に刻まれる。
「さあ、これで最後だ」
優斗は自分の原稿をテーブルに広げた。


***『クリーチャーレース』 堀之内優斗***

2016年、スイスで初めて開催された『サイバスロン』をご存じだろうか?
身体に障がいのある人達がパワードスーツやロボットアーム等のテクノロジーを駆使し、サイボーグさながら戦うオリンピックである。
参加者は選手ではなく、パイロットと呼ばれている。
6種類の競技の内、ブレインコンピューターレースは、全身麻痺のパイロットが脳波による操作でコンピューター上のアバターを走らせるバーチャルレースであり、観客はアリーナの大型スクリーンで観戦できる仕組みになっている。
この競技のみを人間以外の生物で行う大会が、この度、開催されることになった。
その名もクリーチャーブレインコンピューターレースである。
小さな昆虫にさえ、人の脳に類似した構造があることは既に解明されているが、クリーチャーにルールを説明するのは困難である。
そこで、パイロット達には、脳と直結させたバーチャルリアリティで、攻撃から逃れ、敵を蹴落とし、サバイバルに徹することで、いかに速く安全な基地に辿り着くかを競って貰う。
大会には世界中のBCI研究チームより多数の参加申込みがあった。
BCI(ブレインコンピュータインターフェイス)は、脳からの信号を解析して、脳とコンピュータの間に、リアルタイムの広帯域通信路を実現するシステムである。
各々が選んだ優秀なパイロットの脳にコードを繋ぎ、操縦席に座らせる。
パイロットが受けた刺激によって発生する脳活動の変化を捉えて瞬時に行動に変換させるためである。
今、戦いの火蓋が切って落とされた。
パイロット、一斉にスタート!大小様々なパイロットは同じ大きさに変換され、入り乱れぶつかり合いながら飛び走り隠れ逃げまどいを繰り返す。
最後まで逃げ切るのは誰か?
アリーナで怒号と汗の飛び交う白熱戦が展開され、ダメージを負ったパイロットが次々に脱落して行く。
遂に一匹の勇者が数多の敵の目を潜り抜け、誰よりも速く基地に滑り込んだ。
王座に君臨したクリーチャーは誰か?アリーナ全体が一つの生き物となって息を飲む。
ミクロのコードの替りに月桂樹の冠を頂いた王者が今、表彰台に上がった。
スクリーンに大写しになったのは、この地球上に3億4千万年の歴史を誇るGの姿であった。



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