3番外編「僕らの肝試し」

文字数 2,998文字

ビッグな翔太(しょうた)、奔放な(あきら)、ちょっぴり気難しい優斗(ゆうと)
3人は幼稚園からの大親友で、いつも優斗の部屋に集っている。
中2の夏休み。光合成の研究を終えた後、晶が言った。

この番外編はR.Kさんから3人組のほらぁをご提案頂き書いてみました、



1
「なあ。肝試しやろう」
晶の提案はいつも唐突だ。
「肝試し?けっ。くっだらねぇ」
翔太がニュースラスト(腹筋運動)をやりながら吐き捨てた。
「時間の無駄」
優斗もPCを操作しながら一刀両断する。 
「カーッ、ムカつく。おまえら、ホントは怖いんだろう」
晶が大きな目を吊り上げる。
「はぁ、怖いだと?夕べ、強盗を返り討ちにした俺様が?」
「ええっ、翔太、本当か?」
優斗が手を止め、振り向いた。
「嘘付け。居留守に入られただけだろーが」
晶が容赦なくつっこむ。
「居留守?空き巣じゃないのか?」
優斗が眉をしかめた。
「違ぇよ。ピンポンされたのに寝たふりしてたら、窓破って入って来たんだってよ」
晶が説明する。
「なるほど」
「居直り強盗をぶん殴って119番してやったぜ」
翔太はドヤ顔だ。
「普通、110番だろ」    
「誰が助けなんか呼ぶか。おまえと違って俺様に怖い物なんかねぇんだよ」
「聞き捨てならない。よし、肝試し行こうじゃないか」
優斗はPCをシャットダウンし、マウスを置いた。
「えっ、行くのかよ」
翔太が天井に掲げた両足でジャンプし、スタッと着地する。
「つつじ寺に女の幽霊が出るんだってさ」
晶が目をキラリと光らせる。
「ああ、女に化けて誘惑するっていうあれか?フフン」
優斗が鼻で笑った。
「雪女みたく冷てぇんだって。面白れぇじゃん。な、行こう!」
晶が一人はしゃぐ。
「あっ、ああーっ、残念。今日は友引だ」
翔太がカレンダーに壁ドンする。
「もう、いいよ。優斗、行こう」
晶が怒って優斗の腕を引っ張る。
「ま、待て。俺も行く。葬式じゃねぇから、友引でもいんだよな。わっはっは」
「目、笑ってないし……清めの塩でも用意しとくか?」
優斗が翔太を横目で見る。
「キヨメノシオ?何だそれ」
晶が聞き返した。
「幽霊退治には塩だろ?」
「そうか。じゃ、今夜8時。つつじ寺山門前集合な」
晶が勝手に決めて帰って行った。

2
「……晶の奴、何がやりてぇんだ?」
翔太が呟いた。
「あれ?顔が青い。翔太、もしかして怖いのか?」
優斗がニヤニヤする。
「怖くなんか、ね、ね、ねぇぞ」
翔太の声が震え出した。
「無理しなくても」
「黙れ、もし、幽霊が出たら、怖がって晶が抱き付いてくるかも知れねぇ。
おまえと2人きりでなんか、行かせねぇからな」
「幽霊を怖がる奴が、肝試しなんて言い出さないだろ」
「そうか……じゃあ、もし、出たらどうすればいい?」
「備えあれば憂いなしさ」
優斗が平然と言う  
「よし。優斗、頼んだぞ」
翔太はホッとした顔になる。

夜8時。つつじ寺山門前。
「晶はまだか?言いだしっぺのくせに、遅ぇな」
「翔太、何気に元気じゃね?」
「ハハハ。優斗が味方なら百人力だかんな」
「誰が味方だって?」
「おいおい、照れるなよ……ひえっ」
誰かが、いきなり、翔太に後ろから目隠しをした。
「だーれだ?」
「ざけんなよ、晶に決まって……ぎゃあああーーーー」
翔太は振り向きざま絶叫した。
「こんなんで驚くなんて普通、なくなくなくね?」
百均で買ったマスクをはぎ取って、晶が笑い転げる。
「ち、違ぇよ。一つ目小僧とダブルブッキングしたのかと焦っただけでぃ」
「じゃ、翔太、一番前な」
晶が懐中電灯を押し付ける。
「な、なんで俺が……?い、いや、そうだな。よし。黙って俺について来い!」

3
3人は山門を潜って石段を上がり、擦り切れた石畳を進んだ。
「おい、おまえら、なんか喋れよ」
「黙ってついて来いって、言ったじゃんか」
晶がつっこむ。
「う……出るはずねぇけど、その……幽霊って殴ったらどうなんのかな?ハハ」翔太が冗談ぽく聞く。
「バーカ。幽霊は殴れねぇよ。塩、投げろよ、キヨメノ塩」
晶が即答する。
翔太は焦った。
……しまった、塩……まだ優斗から受け取ってねぇ。

バサバサッ
参道の樹の間から何かが飛び立った。
「うわあっ。で、出た――――っ」
翔太が懐中電灯を放り投げ、辺りは、真っ暗闇に……。
「バカヤロー。サッサと灯り拾って来い」
晶が翔太の尻を蹴飛ばす。
「カラスかよ。お……脅かせやがって」
暗闇に這いつくばった翔太に誰かがスッと近付いて手の中に小さな袋をねじ込む。
お……清めの塩だな。優斗、感謝。
電灯を掴んで立ち上ると、いつの間にか、翔太は一人になっていた
「あれ、晶?優斗?おい、どこだ。返事しろっ」
懐中電灯を向けたせいで、墓石の大きな影がスーッと横に移動する。
「うわああああーーーーーーーー」
翔太は走り出した。
あれ?ここはどこだ?出口はどっちだ?
「翔太……」
大木の陰から声がした。
「あ、晶。そこにいたのか?優斗は一緒か?」
翔太は声のする方を懐中電灯で照らした。
「灯り向けるな……聞きたいことがある」
生暖かい風が吹き、雲が流れ、月が顔を出した。
俯いた晶の妙にしおらしい姿が浮かび上がる。
「翔太……ボクをどう思ってる?」
「え?」  
「翔太が好きだ。ずっと好きだった。翔太はボクを好きか?」
晶がゆっくり近付いて来る。
「ええーーっ、おまえが俺を?嘘だろ?」  
「声出すな。いいから早く答えろ」
晶は不安そうに翔太を見上げる。
「って、どっちだよ」
翔太は晶をガン見してハッと息を飲む。
月明かりで見る青白い顔はゾクッとするほど綺麗だった。
「えっと、その……お、俺は……」
翔太はボウッとして金縛りにあったように動けなくなった。
晶は黙って冷たい頬を翔太の胸に埋め、背中に手を回した。その手はとても冷たく力強かった。

4
「翔太……」
氷のような息を胸元に吹き掛けられ、翔太は正気に返った。
「は、離せっ……晶はこんなことしねぇぞ。おまえ、ゆ、ゆ、幽霊だな」
翔太は素早く、ポケットから塩袋を取り出して構えた。
「ちっ。もうちょっとだったのに」
晶は悔しそうに舌打ちをした。  
「こ、これでもくらえ。び……び、びっくりするほどユートピア!」
翔太は目を瞑って叫びながら、塩を掴んでは投げ、掴んでは投げた。

「おーい。翔太―」
遠くから優斗が呼ぶ。
「優斗、ここだー」
翔太が灯りをグルグル回した。
「今、変な声が……あれ?翔太、顔が黒いぞ。いや、暗いから赤か、青か?」
「で、で、出たんだ……女の幽霊……あ、いねぇ」      
「ハッハー。見間違いじゃねぇのか?ほら、翔太、アイス」
晶がクーラーバックを担いで現れた。
翔太は晶を見て、うろたえた。
「あっ、もう9時だ。晶の母さんにバレたら大変だ」
優斗が叫ぶ。
「お、おう、そうだな、帰ろうぜ」
慌ただしい帰り道、翔太はこっそり、優斗に礼を言った。
「清めの塩ありがとよ。 お蔭で助かったぜ」  
「何のこと?ネットで見たおまじないは教えたけど……」
「まったまた、照れるなよっ」
翔太が優斗の背中をバンバン叩いた。

翌朝、晶は寝ぼけ眼でキッチンへ向かう。
「夕べ疲れて風呂入らなかったせいか、顔がヌルヌルする・・・…」
「晶。塩の袋、知らない?」
「さ、さあ……」
「困ったわ。あれがいっぱい入ってたのに……」
「あれって?」
「一週間前のこと覚えてない?いくら塩かけても、這い上がって来るって、私が騒いでたら……」
「あ……まさか……」
「あなたが言ったんじゃない。ほらぁ、塩袋にぶち込んだら?なめくじ……って」
「ギ……ぎゃあ~~~~!」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み