6番外編「さよならのかわりに」ー2

文字数 1,061文字

***『自動運転』 安藤翔太 ***

車の自動運転が当たり前になって久しい。
今日も高速道路を何台もの車が完全自動運転で走行している。
その中の1台のセダンに巡回中のパトカーが接近し、平行した。
パトカーは運転手の異常に気付き咄嗟の判断で前へ周り、ブレーキを掛けた。
衝突回避装置が作動し、セダンは緊急停止。
数時間前に心肺停止していたと思われる運転手は、パトカーが呼んだ救急車で直ちに病院へ搬送された。
AIパトカーのお手柄であった。 




「随分短いわね」 
玲奈がすかさず感想を述べる。
「いや、短い作品こそショートショートの王道だ。翔太。よく書いた」
優斗は満足そうだ。
「何、ホッとしてんだ?おまえ、何か企んでね?」
翔太が訝しむ。
「いや、別に」
優斗は涼しい顔で否定する。
晶は既に寝転がってスマホのゲームに没頭している。
「坂巻は、まさか1000字超えてないよな?」
優斗が厳しい目で玲奈に確認する。

「してないし。そう言う優斗こそ、どうなの?」
玲奈が少し膨れる。
「勿論、1000字以内だ」
「ふうん。あんまりブラックだと、一緒に寝てあげないからね~」
「って……ええー--?まさか二人、同じホテルじゃないよな?」
翔太が真っ赤になった。
「ジョークだって。ホテルは同じでも、部屋は別々よ」
玲奈が苦笑いする。
「さあ。早く、坂巻のを読もう」優斗が急かす。




***『時間を売る男』 坂巻玲奈***

ニートの男が公園でブラブラしていると、マスクを被った2人組が現れた。
「我々は宇宙人だ。あんたの時間を売って欲しい」
「ええっ?時間を売るってどうやって?」
「寝てればいい。30分1万円でどうだ?」
男は喜んで宇宙人のアジトへ付いて行った。
適性検査とやらに合格し、ほんの少し眠って金を握らされた男は、早速その夜、遊びに出掛けた。
翌日、公園にまた同じ2人組が現れた。
「我々はあんたが気に入った。今日の2時から4時まで売ってくれないか」
2時間を売り、4万円を手にした男は喜び勇んで夜の街へ繰り出した。
キャバクラに入り、ソファに腰掛けた途端、警官が押し入り、なんと、男は逮捕されてしまった。
昼間の銀行強盗の犯人と酷似しているというのだ。
知らぬ存ぜぬを主張したが、アリバイは無く、遺留品のライターの指紋と持っていた万札の番号が動かぬ証拠となった。
男には親も親戚もいない。今までのらりくらりと怠けながら生きて来た。
失う物など何も無いと思ったが、一つだけ残っていた物がある。
しかし、これでもう、その「怖い物」も無くなった。
男は留置場の灰色の壁に向かって静かに笑った。
終り。


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