1「夏の終わりの人体実験」ー1 

文字数 1,684文字

****プロローグ****

翔太(しょうた)(あきら)優斗(ゆうと)は中学1年生。

夏の終わりのことだった。
「自由研究やろう」
「皆が驚く大実験やりてぇ」
「人間○○だーっ」
「って人体実験じゃね?」

************


  
ビッグな翔太(しょうた)、奔放な(あきら)、ちょっぴり気難しい優斗(ゆうと)
三人は幼稚園からの大親友。毎日、用事が有っても無くても優斗の部屋に集まって来る。

夏休みも残り僅かとなったある日。   

「自由研究やろう」
晶が突然、言い出す。
「今さら?宿題やらねぇ約束だろ」
翔太は呆れた。

優斗がPCを睨みながら、反論する。
「僕は約束してない。でも、おまえ達と遊ぶから自由研究は諦めてた」
「急にやってみたくなったんだ。何か無いかぁ?」
晶は無邪気に聞く。

「これはどうかな?レモンに2種類の金属板を刺して導線で繋ぐと電池になる」
優斗が「お気に入り」画面を開いて見せた。
「おっ。それ、いい。凄くいいっ」晶は大喜びする。
「チッ。俺が探してやろうと思ったのに……まぁ、それでもいいぜ」
翔太が渋々認め、3人はレモンや金属板を買いに走った。

実験は大成功。
レモンのパワーで電子オルゴールが鳴り、レモンの数を増やすと発光ダイオードが点灯した。
金属の組合わせと電力の関係を優斗がエクセルで表にする。
晶が部屋の隅でゲームを始めた時、翔太は閃いた。
 
翔太はザックリ開いた切り口から、それを引き抜く。 刺した時ほど、しぶきは飛び散らない。 銀色に光る先端から滴が垂れた。
込み上げる物をグッと飲み込み、振り返る。
晶は背を向け、手作業に熱中している。
……今度こそ外さねぇ……               
翔太は、それを握り締め、晶の頭上に振りかざす。

「ジャーン! どうだ? 人間電池だぞっ」

発光ダイオードをぶら下げたままの金属板がだらしなく目の前に伸びている。
「ウザッ。点いてねぇじゃん」
晶は一瞥(いちべつ)をくれると、ゴロリと寝そべってゲームを続けた。
「クソッ、絶対(ぜって)ぇウケると思ったのに」
翔太はガクリと肩を落とした。

その時、優斗がまさかの提案をした。
「それ、直列にしてみたらどうかな?」
「直列……って俺たちがレモンみたいにかぁ?」
翔太が太い眉をハの字形にした。
「面白れぇ。マジ、ウケる」
晶はスマホを放り出し、飛び起きた。
「なんで、優斗のはウケんだよ」
翔太は歯ぎしりして悔やしがった。



「一番、電力が大きかった板を使おう」
優斗が言った。
「あれ。亜鉛版が錆びたみてぇに変色してるぜ。こっちは何ともねぇのに」
翔太が板を指先で擦る。
「どれ?」
優斗が取り上げてジッと観察する。
「レモンに刺したまんまだったしな」
翔太が言う。

「イオン化傾向が大きいから電蝕が起こったのかもしれない。亜鉛はキツイな」
優斗が小さな声で呟く。
「フフン、聞こえたぞ。何の話だよ?」
翔太が脇腹を突つく。
「ああ、イオン化傾向ってのは高校の化学の……」
「って、兄貴の高校の?講師か?現職の先生が怒るほど大きいって、態度が?ん?胸か?」
「はあ?何を……」
優斗はポカンとしている。
猪岡(いのおか)井岡(いおか)?ケイコ、恵子(けいこ)慶子(けいこ)か?……会えんのが辛いか、おまえも大変だな」
翔太がニヤニヤして肩を叩くが、ガン無視される。
「そうだ。表面を削り取ろう」
優斗はスチールタワシで亜鉛板をピカピカに磨き上げた。
「照れるな照れるな」
しかし、翔太は相手にされず、無理やり金属板を握らされる。

三人は右手に亜鉛、左に銅板を握り締め、直列に繋がった。
発光ダイオードが微かに点灯する。
「ぉおー、やたっ。人間電池だぁー」
晶が絶叫した。
「晶、耳痛ぇだろ、無駄に大声出すな……」
「うるせぇ、ウドの大木」
晶がいきなり翔太の腹に足蹴りを食らわせた。

翔太は呆れて溜め息を付く。
「晶、おまえ少しはなぁ……」
「言うな、ぶっ殺されてぇか」
今度はパンチを打ち込むが、翔太は顔色一つ変えない。
「ふん。かゆくもねぇ」
「言ったなぁ」
短気な晶が本棚の上のダンベルに手を伸ばす。
優斗の本棚は、翔太の筋トレグッズに、ほぼ占領されていた。

「やめろよ、二人とも。人間電池、いいじゃないか」
優斗の一言で、その場は収まった。
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