2「ぼくらのスペクトル」ー4

文字数 1,567文字


一時間後、汗みどろの翔太を迎え入れたエアコンは慌ててフル可動を始めた。
優斗は涼しい顔で測量結果を次々とパソコンに落とし、グラフに変えていく。
データーにより一目瞭然、照度の高い所ほど測定量が多く、水温もある程度、高い方がいいことが分かった。
「こいつら、健気だよな」
翔太がポツリと言った。
「ゼニ苔も猫じゃらしもヨモギも皆、切り刻まれてまで光合成してたんだぜ」
「赤い紅葉は、してねぇぞ」
晶がつっこむ。
「オワコンだ……光合成出来なくなったから自ら散ったんだ。うっ……」
「爺くせぇっ。実験材料に感情移入するなっ」
晶が翔太の頭をポカンと殴った。
「晶、おまえなぁ……」
「おっと、けんかしてる場合じゃない」
優斗が手を上げて止める。
「ヨモギの葉が一番、光合成量が多かった。最終実験はヨモギで行う」
「最終って何すんだ?」
晶が興奮して聞いた。
「色だ。光の色を変える」
「めっちゃ、面白そうじゃん」
晶は大喜びした。



「なーんだ。光の色って、カラーセロファンを巻いただけか。もっとすげぇことやるのかと思った……」
晶は実験の間中、同じ文句を繰り返していた。しかし、
「ふふ、面白い結果が出た」
優斗が嬉しそうに言うと、
「えっ、どんな?」
と、大喜びで飛んで来た。
「緑と青のセロファンの時、数値は高いが、赤では極端に低い。つまり、よもぎは緑や青の光を当てると、光合成を沢山するってことか……」
優斗が顎の端に親指を当てて満足そうにうなずいた。
「やったー、大成功―」
翔太がガッツポーズをした。
「おーっ。ビッグだあー」
晶も同時に万歳をした。
「お疲れーしょん。今度こそ打ち上げやろうぜ」
翔太がクーラーボックスからサイダーを取り出した。
晶はいそいそと鞄から、うまい棒を取り出す。
「ちょっと待った。本当にそうか?」
優斗が突然、大声を上げた。
「え、優斗……?」
晶はいつもクールな優斗の激しい物言いにドキッとした。
「よもぎは本当に緑か?」
優斗は親指を顎に食い込ませ、目尻をキリキリと吊り上げた。
「大変だ。優斗が暑さで狂ったぞ」
翔太が優斗の額に冷たいボトルを押し当てた。
「ばーか。暑さで狂ってたのは翔太だろ。優斗はクーラーん中いたじゃん」
「ははは、そうか。狂ってるのは俺か……」
翔太は力なくサイダーを床に転がした。




「晶、ヨモギはどうして緑に見える?」
優斗がキッと睨んだ。
「え?……えーと、緑色を反射してるから?」
「そう。光にはたくさんの色の光が混ざっている。緑の物が緑に見えるのは、そいつが光の中から緑以外の光を吸収して緑だけ跳ね返しているからだ。ただし、セロファンのように透明だと光は跳ねかえったり通過したりする。だから緑で光合成するならヨモギは緑じゃない」
「うーん……さっすが優斗」
晶がコクコクと頷いた。
「マジクソ意味分かんねぇ。晶、本当は分かってねぇだろ」
翔太がつっこんだ。
「テヘぺロ」
晶は舌を出した。
「つまり、よもぎが緑なら、緑の光を吸収しないから、光合成にも使えるはずがないってこと」優斗が言った。
「んな訳ねぇだろ。緑の光で光合成したんだからよ」
翔太が唇を尖らせる。
「だから、ヨモギの本当の色を知りたい。ヨモギを通った光を分光すれば、ヨモギの本当の色が分かる」
「さっすが、優斗」
晶は腕を組んで、尊敬の目で優斗を見上げた。
「あーあー、分光か。そんくれぃ俺だって知ってらぁ。プリズムで光を分けるんだよな?分ぁったよ、分光しようぜ、分光」
翔太がドヤ顔で言った。
「しかし、ヨモギの葉は光を通さない……」
優斗は顎に親指を当てて考えた。
「ちっ。詰めが甘ぇな……うーん、そうだな、葉が厚過ぎるんじゃね?」
翔太は両目にヨモギの葉を押し当て、太陽を見上げた。
「ゴリラがパンダになったぞ。ってか、キモッ」
晶が翔太の腹を蹴飛ばした。
「やったな」
翔太はヨモギをバサバサと晶に投げ付けた。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み