4「さらば三角」ー2

文字数 1,785文字


「よし、持って来たホコリを出してくれ」
優斗が言った。
「ほらよ。押入れの奥と洗濯機の下だ」
翔太が容器を2つ並べた。
「ボクはあのホコリのネズミ拾って来た。それと、物置の前の土ボコリってやつかな?」
晶も2つ。
「優斗は?」
晶が期待の目を向ける。
「僕の部屋には無くて、家中のエアコンのファンと箪笥の裏で発見した。」   
「で、どうすんだ?」
「採取した場所による成分の違いを顕微鏡で確認したい」
「ボクも見るっ」
「晶は遠慮してくれ。高いやつだから壊されたくない」
「信用ねぇな」
晶が拗ねる。
「そのかわり……晶、好きな色は?服とか鞄とか」
「青。何かくれるのか?」晶がサッと手を出した。
「翔太は?」
「赤だな」
「2人とも服やカーテン、部屋中の物をできるだけ同じ色に統一してくれ」
「なんで?」晶がポカンとする。
「ホコリの色の実験をする。晶が言ったろ?赤いもんばっかだったら、赤いホコリが出るかって」
「おー。言った、言った」
「コンクールで勝ち抜くにはビジュアルも重要だ。灰色では面白くない」
優斗が眼鏡を押し上げる。
「赤と青のホコリか。面白ぇー」
「で、優斗は何色だ?」
翔太が聞いた。
「ここは皆が出入りするから、クローゼットを黄色の部屋にしてみる」
「赤青黄。ホコリの3原色だっ」
晶がドヤる。
「んなもん、あるか」
翔太がつっこむ。
「ボクら、混ぜ合わせたら灰色かぁ」
「晶、人間は混ざらないよ。さて……と。実験の準備期間は1日で足りるか?」
優斗がにっこり笑う。
「準備って、もしかして……?」 
「そう、各自、部屋の大掃除だ。今日はもう帰ってくれ」
「ええーっ?ムリムリムリムリ」
晶と翔太は揃って大声を上げた。



翌日、優斗が爆弾宣言をした。
「大掃除のご褒美に今日から、勉強会を始めよう」
「んな褒美いらねぇよ」
全身赤の翔太がしかめ面になる。
「そうだ、反対―ぃ。夏休みは遊ぶためにある」
全身青の晶も、いきり立つ。
「それは普段、遊んでない人間が言うセリフだ。おまえ達、勉強してないだろう」
「何を今さら……そのために、共同研究やってんじゃねぇか」
「そうだ。去年の金賞で推薦貰って、今年はもっと上、行けるって……」
「推薦は絶対じゃない。落ちたら、確実に入試だぞ」
「おまえ、言い難いことをはっきり言いやがって」
翔太が睨んだ。
「そうだ、それでも友達かよ」
「友達だから言う。1日1時間だけでも頑張ってみないか?」
「うーん……仕方ねぇ。1時間位、付き合ってやるか」
翔太が先に落ちた。
「ちっ。根性無し」
晶は恨めしそうに翔太を見る。
「では、手始めに、この方程式から……」
「何だこれ?優斗、教えろー」
見るなり白旗を上げる晶。
「待て、晶。どうして、俺には聞かねぇんだ?」
「はあ?翔太に聞いてどうすんだ?」
「バカにすんな、数学はおまえより出来るんだぜ」  
「へぇー。じゃあ、翔太、一次関数ってどうだ?」
「はあ?一時間吸う?吐かねぇと死んじまうだろうが……」
ドスッ!
晶のキックが翔太の腹にのめり込む。
「聞いて損した。ちょっと休憩してくる」
蹲る翔太を無視して晶はドスドスと部屋を出る。
翔太がムクッと顔を上げる。
「マズイぞ。あいつ、ますます男化してねぇか?」
「だったら、女友達よりも彼氏が出来た方がいいんじゃないか?」
優斗がもっともらしく言う。
「そうか……優斗、邪魔すんなよ」
翔太はニヤッと笑い出て行った。



晶がアイスケースを搔き混ぜている所へ、翔太がやって来た。
「おう。どれがいい?」
晶が顔を上げた。
「おごってくれるのか?」
「優斗には世話になってるからな。あ、翔太もな」
「フン。俺はついでかよ」
「当たり前だろ」
ドン!
翔太がいきなり、コンビニの壁に手を付いた。
「なあ、晶……お、俺と付き合わねぇか?」
「はあ?付き合うって、今までの長―い付き合いは何だったんだよ。ふざけんな」
「う……あ、あのな。女の目から見たら、俺ってどうよ?」
「はあ?女の目なんか知らねぇよ」
「え?ああ、そうか。おまえ……俺のこと何だと思ってんだ?」
「何って翔太は翔太だ。親友だ。違うか?」
「うーん。その通り」
翔太はヘラヘラ笑った
「翔太。猛烈な暑さでおかしくなったのか?ま、元からだけどな」
「晶。おまえ、優斗と俺とどっちを……」
「しつけぇな。どっちを何だよ?」
「いや、ええとだな、どっちをす、す、す……尊敬してるぅっ?」
「はあ?優斗に決まってんじゃねぇか」
晶が声を荒げる。
「だよな」


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