1「夏の終わりの人体実験」ー2

文字数 1,607文字


「これって、人体実験じゃね?」
翔太は、ふと、心配になった。
「ノープロブレム。実験材料が人間に変わっただけで、レモンみたいに身体に突き刺すわけじゃ……そうか、分かったぞ!」
優斗はパチンと指を鳴らした。
「え、何が?」
「汗だよ、汗」
「へ?」
「握っただけで電池になるなんておかしいと思ってた。翔太は、人一倍、汗をかく。だから、手のひらは、いつも汗でベトベトだ」
「おいおい、優斗。まるで、俺が太ってるみたいな言い方すんな。俺のは筋肉の塊で、脂肪じゃねぇぜ。汗かくのは運動するからで……」
「塩分を含んだ汗が電解液の代わりになったんだ。凄いや、翔太。よく、そんなこと思いついたな」
優斗は切れ長の目を丸くして翔太を見上げた。

「えっ?いやぁ……ま、これも才能ってぇやつだな。そんなに尊敬すんなよ、照れるじゃねぇか」
翔太はドヤ顔だ。
「『ひょうたんからクマ』……いや、『発想の変換』ってやつか。翔太、見直したぞっ」
晶が翔太の背中を思い切りブッ叩いた。
「それ言うなら、ひょうたんからコマ。変換じゃなくて転換……おいおい、またけんかか?」
優斗が二人を引きはがした。


汗が電解液になると聞いて、翔太と晶は、先を争ってスクワットや垂直飛びを繰り返した。 しかし、いくら汗をかいても、人間電池で発光ダイオード以上の電力は得られなかった。

実験に飽きた晶は、優斗が作ったコイルに電池を繋げ、方位磁針の針を動かして遊び始めた。それを見ていた優斗が呟く。
「電磁石……そうだ、人間電磁石作らないか?」
「人間で・ん・じ・しゃ・くぅ―?」
翔太と晶は息もぴったりに反応した。
「うん。すっげえ強力なやつを作るんだ。コイルは、なるべく大きくて巻きが多いほどいい。それに鉄芯をいれると磁力がウン千倍になるんだ」
優斗は尖った顎に右手の親指を当て、人差し指で眼鏡のフレームを押し上げた。 楽しいことを考える時の癖で、真っ直ぐな切れ長の目尻と口角をキリキリと吊り上げて、かなり怖い顔になる。

そのせいか、クラスメイトから、冷たそうと言われるが、優斗が名前の通りの性格であることを二人はよく知っていた。
「ウン千倍?ビッグだなぁ」
晶は大きな目をキラキラと輝かせた。

「鉄芯って、どんくれぇの……?」
翔太が、ノッてきた。
「大きい方がいい。丸くて太くて……どっか無いかな?」
優斗が両手を広げながら、斜めに天井を仰いだ。
「おっ、あるぞ。でも、昼間はちょっとなぁ……」
「じゃあ、夜中に行こう。あ、でも……」
優斗はチラッと晶を見た。

「バカにすんなっ」
短気な晶は拳を振り上げたが、真上からガシッと掴まれる。
「バカになんかしてねぇ。でもな、晶……」
翔太が手に力を込めた。
「痛ぇな、離せったらっ」 晶は思いきり腕を振り回す。
カシャ―ンッ
優斗の眼鏡が飛んだ。
「おい、大丈夫か?」
翔太が眼鏡を拾ってやった。晶はまだ興奮している。
「乱暴だな、晶は」
優斗は大切な眼鏡の無事を確認した。
「少しは周りを見ろ、それだから、女子に…」
翔太の忠告を遮り、晶は主張する。
「ボク、皆が驚く大実験みてぇなやつ、やりたかったんだ。だから、絶ってぇー行くからなっ」
言い出したら一歩も引かない晶だった。

「あきらっ」
身体が大きく、見るからに体育会系の翔太が凄むと、誰もがビビる。
が、晶は平然と睨み返す。
翔太が晶の額を指で弾いた。
長い前髪がフワリと跳ね、隠れていた目の端がキラリと光る。
その途端、翔太の太い眉は、ハの字に下がった。
「う……しょうがねぇな。夕飯食ってから8時にツツジ公園に集合。えーと、何持ってくんだ?」
翔太はバツが悪そうに頭を掻く。
「いや、僕が用意する」
優斗が冷ややかな目をくれる。
翔太が晶の我が儘を聞いてやらなかったことなど、一度も無いのだ。

「8時だな。まかせとけ」
目の下を擦りながら、晶が親指を立てて見せた。




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