5「ぼくらが消えた日」ー1

文字数 1,967文字

****プロローグ****あの日、ぼくらは消えたんだ。

ビッグでマッチョな安藤翔太(あんどう・しょうた)
自由奔放で常識の無い栗田晶(くりた・あきら)
ちょっぴり気難しい秀才の堀之内優斗(ほりのうち・ゆうと)
3人は幼稚園からの大親友で、いつも優斗の部屋に集っていた。
三角関係が危ぶまれた3人だったが、中学3年の夏休み、美少女、坂巻玲奈(さかまき・れな)の出現と優斗の入院によって解散の危機を迎え、揉めに揉めた末、4人グループとなり、優斗と玲奈、翔太と晶がそれぞれカップルとなる。
冬休み。いよいよ受験一色となり、4人の勉強会はラストスパートを迎える。

***********



「あーあ。遂にカウントダウン始まっちまったぁー」
(あきら)があくびをしながら床に大の字になり、広い額をポリポリ掻く。
顔に似合わない言動は相変わらずだが、髪の切り口がくすぐったくて、自分が熱い視線を浴びていることには気付かない。
「いよいよだな。晶、150構文覚えたか?」
優斗(ゆうと)がテーブル越しに声を掛ける。
「んなもん、ボクには必要ねぇ」
晶はフンと鼻で笑う。
「えっ。晶って英語は得意なの?」
玲奈(れな)が露骨に驚く。
「んだよ。他が出来ねぇみたいじゃんか」
晶は不満そうに下唇を突き出す。
「今、耳を疑った。他は出来るみてぇに聞こえたぞ」
翔太(しょうた)が参考書を捲りながら横を見る。
「信じてやれよ……おまえの耳だ……ろっ」
晶が飛び起きて翔太にヘッドロックをかけた。思いきり息を吸い込み、翔太の耳に「フ―ッ」と吹きかける。
「うわぁーっ。よ、よせ、感じ……じゃねぇ、くすぐってぇだろ」
翔太が立ち上り、大きな身体を揺すって晶を振るい落とす。
晶は猫のようにジャンプして丸クッションに飛び乗り、バランスを取った。
「あのー……晶って何が得意なの?」
玲奈が遠慮がちに聞く。
「理科かな……あと、体育なら任せとけ」
クッションを弾き飛ばすと、頭を床に付け、両手で支えながら天井に向かって大きく足を広げた。
「体育、受験に関係ねぇだろ」
翔太はテーブルの隅に座り直す。
「構文なんかクソくらえ」
まるで他人事の晶であった。
「数学の問題集は?やってるんだろうな」
優斗が怒ったように聞く。
「数学は捨てたんだよっ」
晶が叫びながらウィンドミル(背中を回転させる技)を始めた。
「おまえ、やる気あんのか?自由研究でゲットした推薦、無駄にすんなよ」
「大丈夫。国語はこれがある」
回転を止めた晶はペンケースに向かってジャンプする。

「何だよ、ただの鉛筆じゃねぇか」
「回る寿司屋で貰った。魚偏の漢字が載ってんだ」
「寿司ネタだけじゃ意味ねぇだろ」
「魚偏、米偏、さんずいの3本セットだ。凄げぇだろ」
「ふうん。でも、読めないと意味ないよね?」
玲奈がつっこむ。

「うっ……いんだよ。面接重視だかんな。楽勝だ」
「それ、本気で言ってるの?」
玲奈が聞いた。
「当ったり前ぇだろ。男らしさをがっつりアピールすんだ」晶は既にドヤ顔である。
「合コンじゃねぇぞ……ってか、おまえ女だろうが」
翔太も呆れて、海苔の様な眉をハの字に下げた。
「受験票、男んなってた。やったね」
両手でピースサインを作る。
「あー、それで刈り上げに、ぱっつん前髪か?バッカでぇー」
翔太が噴き出す。
「でも、ボサボサより可愛いじゃん」
玲奈も笑う。

「受験票は直してもらえ。失格になるぞ」
優斗が脅す。
「なんで?向こうが勝手に間違えたんじゃん。3年間、男で通す。全校イケメンコンクール優勝の実力を見せてやるぞー」
拳骨を振り上げる。
「は?イケメン?」
玲奈が目を点にする。
「小6の児童会の余興に冗談でエントリーしたらさ……」優斗が玲奈に耳打ちする。
「あの頃とは違ぇーだろ。もう、ペッタンコじゃねぇんだぞ」
翔太が怒鳴る。
「何でわかる。見たのかっ?」
晶がサッと飛び退り、かめはめ波の構えを取る。
「ブルブルブル。見てねぇ見てねぇ」
翔太が頭と手を激しく振る。
「だってよ。抱き締めた時に、そのう、ここら辺にポワーンと柔らかい……な、何、言わせんだ。とにかく、おまえは凄っげぇ可愛いんだよ。ズボン穿こうが刈り上げにしようが、もう、男には見えんくなったんだよっ」
「はぁ。聞いてる方が恥ずかしい……あれ、優斗?怖い顔……」
玲奈がハッとする。
「ああ、今後の学習計画をシミュレーションしてたんだ」
優斗は慌てて笑って見せる。
翔太と対峙した晶は「くぉんのスケベ野郎ー」と、飛び蹴りを食らわした。
「この騒音でシミュレーション?」
玲奈は耳を塞いだ。
翔太は晶の蹴りを腹筋で受け止めながらも赤い顔で鼻の下を伸ばしている。
「フン。かゆくもねぇ。しかし、可愛いって言やぁ、坂巻ってA○Bみたいだよな。凄っげぇオシャレだし」
「あら、どうせなら乃○坂って言ってよね」
玲奈はオフホワイトのニットに羽織ったカーディガンの襟を撫でて見せる。緩めにカールしたロングヘアが肩の上を滑る。
「坂巻がいるだけで、つまんねぇ部屋が華やかになるもんな。わっはっは」


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