4「さらば三角」ー1

文字数 3,365文字

****プロローグ****

ビッグな翔太(しょうた)、奔放な(あきら)、ちょっぴり気難しい優斗(ゆうと)
3人は幼稚園からの大親友。
毎日、用事が有っても無くても優斗の部屋に集まって来る。
中学最後の夏休み、3人は自由研究の計画を立てた。

「同時進行で、隠れ実験しねぇか?」
「どんな?」
「晶にガールフレンドを作る実験」
「却下」
「とにかく、1人誘って来るから邪魔すんな」

招かれた美少女、玲奈(れな)をめぐって3人の友情は……?

***********


  
朝5時。暑くて目が覚める。
赤い壁。
赤い枕。
赤いシーツ。
赤いシャツ。
赤。あか。アカ……。
赤いカーテンから陽が溢れる。
目に赤が突き刺さる。
身体中の血が滾る。
駄目だ、興奮して眠れねぇ……。

それは晶の唐突な質問から始まった。          




「なあ、ホコリって何だ?」
晶が大きな目を丸くして聞く。
「ホコリったらゴミだろ」
翔太がダンベルスクワットをしながら答える。
「翔太に聞いてねぇ。なあ、優斗、ホコリって……」
優斗はマウスを操作しながら答える。
「あらゆる物から剥がれ落ちた極小の欠片……かな。で、ホコリどこ?」
目が怒っている。
晶が手を振る。
「いやいや、ここにはねぇよ。優斗の母さん、こまめだからな」
「掃除は朝晩、自分でしている」
「ありえねぇー。暇人だな」 
カタンッ 優斗がマウスを落とした。
「晶。今、何と……?」
「ひ・ま・じーん。こっちは一日中忙しくて掃除なんかする暇ねぇのに」
「バカ。おまえがホコリ立ててんだぞ」
翔太は晶にデコピンを食らわそうとするが、スルリスルリとかわされる。
「ホコリあっても死なねぇもーん。ボクの部屋、ネズミみたいなホコリが出たんだぞアッハッハ」
晶は逃げ回りながら、自虐ネタで自慢する。
「フン、おまえの部屋には絶対ぇ行かねぇ」
翔太は諦めて床に腰を降ろした。
「誰が入れるかーっ」
晶が滑り込んで、翔太の腹にキックする。
「……ってか、ホコリって何気に灰色?」
「3原色を混ぜると黒っぽくなる。ホコリが灰色なのは色んな色が混じっているからだろう」
優斗が気を取り直して答える。
「じゃあさ、赤いもんばっか、あったら赤いホコリが出るのか?」
「隙ありっ」
翔太が晶の足を掴んでくすぐった。
「きゃはは、やめろ、やめろーっ」
晶が暴れまくる。
「赤いホコリ……か」
優斗は尖った顎に親指を当て、人差し指で眼鏡を押し上げた。




優斗の切れ長の目尻と口角がキリキリ吊り上り、恐い顔になっていく。
楽しいことを考える時の癖だった。
「どうした、優斗。ホコリが面白ぇのか?」
翔太が気付いた
「優斗、もしかして……?」
晶が目を輝かせる。
「うん。最後の自由研究にどうかなと……」
「おいおい。ゴミの研究なんてなぁ」
翔太が目一杯、引く。  
「身近にあるのに、良く知らない……どうだ?」
「どこが?知らねぇ奴いねぇし、汚ねぇし」
翔太が完全否定する。  
「じゃあ、翔太。チリとホコリの違いが分かるか?」
「え?え~っと……落ちてんのがホコリで、空中に浮いてるやつがチリじゃねぇか?」
「うーん。一割一部一厘の続きが毛、糸、忽、微、繊、沙、塵、埃……つまり逆だ。チリはホコリより大きく、先に落……」
「やめろ、やめろ。聞いてねぇし、超ムカつく」
「うーん、惜しいな。去年よりビッグな研究かも知れないのに」  
 優斗がさり気なく、エサを蒔く。   
「ムリムリムリムリ。ホコリなんか、やなこったぱんなこった」
翔太が壁倒立をして断固反対の意思表示をした。
ドスッ!
剥き出しになった翔太のシックスパックに、ストレートがぶち込まれる。
「ボク、賛成。これで決まり。イエーイ」
エサに食らいついた晶が歓声を上げた。
「おまえなぁ……ま、多数決じゃ、仕方ねぇか」
翔太は逆さまのまま、苦笑いした。
「計画通り」
優斗もニヤリと笑う。




中学生になってから共同研究を始めた3人は、去年の「光合成の研究」で見事、県金賞及び学校賞に輝いた。
実験が大好きになった晶は中学最後の夏休みに、さらなるビッグな研究を期待していた。

「明日、終業式の後、イチキタ(一時帰宅)してから集合な」
と言って別れた3人だったが、程なく、翔太から優斗へ連絡が入る。
「どうした、翔太。ホコリは無さそうか?」 
「んなもん、いくらでもあらぁ。それよか、同時進行で、隠れ実験しねぇか?」
「どんな?」
「晶にガールフレンドを作る実験」
「却下」
「おいおい、即決かよ」
「欲しければ晶が自分で作るさ。余計な世話だ」
「自分で作る気がねぇから困るんだ」
「晶だって、高校生になれば変わるさ」
「高校になってからじゃ遅ぇーって」
「翔太って、子供に失敗させない過保護な親みたいだ」
「っるせぇ。とにかく、終業式の後、1人誘って来る。まずは4人で徐々に慣らすんだ」  
「勝手にしてくれ。僕は関知しない」
「よし。優斗、邪魔すんなよ」




「おーい。いっぱい見つけたぞ……うわっ」
ドアを開けた晶は、幽霊を見たかのように飛び上がった。
白のレースカットソーブラウスにレモンイエローの
ミニスカートを穿いた美少女が立っている。
「誰だ、おまえ?」晶がガン見する。
「坂巻玲奈(さかまきれな)。一応、おんなじクラス」
玲奈が晶に向き直る。長い髪がフワリと揺れ、花の香りがした。
「どうして、ここに……優斗の部屋にいるんだよっ」
晶の剣幕に玲奈が大きな目を瞬いた。
「堀之内君と共同研究しないかって、安藤に誘われたんだけど……迷惑なら帰る」
玲奈の、そして晶の視線が翔太に突き刺さる。
「どうして……」
怒りを含んだ晶の目に、翔太は、たじろぐ。
「いや、その……席が隣だったから誘ったんだよ。最後だし、大勢のがいいんじゃねぇかなって……」
「……だ」晶が呟く。
「え?」
玲奈が微かに首を傾げる。
「迷惑って言ったんだ。ボクらのグループに女は要らない。帰れ」  
「はあー?イラオコ自己チュー女でマジウケるんですけどー。何気にあんたの許可がいる訳?晶なに様っ?」  
玲奈が切れた。突然のキャラ変に、翔太が目を点にする。   
「っるせぇ。サッサと帰れっ」
晶が玲奈の腕を乱暴に引っ張る。
「そんなだから友達いないんだよ」
玲奈は晶の手を払い、キッと睨む。
「そうか。じゃあ、ボクが帰る」
晶は、プイと部屋を出て行った
「もおー。安藤、どーゆーこと?」
玲奈が怒って振り返る。   
「参ったな、こんなはずじゃ……」
翔太が苦笑いをする。
「はあー?来てくれって頼んでおいて、根回しもしてない。やっぱ、安藤はAKBだね。私、帰る」
玲奈が出て行った。




「言われた通り、邪魔はしなかった」
さっきまで傍観していた優斗が初めて口を開いた。
「坂巻って、もっと優しい奴だと思ってたんだがな……」
翔太は頭を掻いた。
「下手に優しいより、はっきり物を言う方がいい。それに、教室で見るより美人だった」
「おまえが気に入ってどうすんだ。っつーか、晶に惚れたんじゃなかったのかよ。宣戦布告しやがったくせに」
翔太が優斗を横目で睨んだ。
「去年のあの瞬間、晶に惚れたのは事実だが、僕の理想がお洒落で可愛い女の子というのも事実だ。あれ以来、晶は男にしか見えないし、僕は自分に正直なだけだ」
「マジで超ムカつく。おまえにだけは晶を渡したくねぇ」
「だったら、翔太が告ればいい」
「俺は晶が可愛くて堪らねぇ。でも今、あいつに必要なのは女同士の付き合い方を教えてくれる女友達だ。クラス委員の坂巻なら、うまくやってくれると思ったんだ」
「しかし、よく連れて来たな。どうやって誘った?」
「知らねぇのか。俺、結構、人気あるんだぜ。さっきも俺のことAKBだってよ。スター扱いとは参ったぜ」
翔太がドヤる。
「それ多分、違う。AKBはギャル語で、あほ消えろバカ」
「……」




バーンッ!
「ファ○リーズン!」
突然の乱入者によって部屋の中が白い霧で覆われた。
「ぶはっ、晶、やめろ」
翔太が悲鳴を上げる。
優斗は、かろうじて本棚の影に逃げ込む。   
「坂巻が帰るの見えたから戻って来たんだ。あー、女臭ぇ」
「おまえなぁ、ヨッ友じゃねぇ女友達もいた方がいた方がいいだろ」
翔太が説教を始める。
「はあ?余計なお世話だ」
晶は霧を吹きまくった。
「ええい。やめろっ」
無駄だと知って、翔太が怒鳴る。
「ヘーンだ、なめても安全って書いてあったからいいだろ?」
「もう気が済んだろ?いい加減にしろ」
優斗が横からスプレー缶を取り上げた。


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