4「さらば三角」ー6

文字数 2,269文字

「暑っ」
玲奈が病院前のバス停で待っていると、翔太がノッソリとやってきた。
「あ、やっぱ来た。晶が心配だもんね」
「何言ってんだ。優斗を心配してんだよ」
その時、病院から晶が走り出てきた。
「翔太ぁー」   
晶は猛ダッシュで翔太の腹に体当たりし、ついでに2,3発ぶち込む。
玲奈が呆れて目を丸くした。
「おう、バレなかったか?会えたか?どうだった?」
「バレなかった。会えた。エアコンかびのアレルギーだってよ」
晶はまとめて返すと、不意に胸を押さえ蹲った。
「ハァ、苦し……痛てて……」
「どうした。何かあったのか?」
翔太は嫌な予感がした。
「えっ。いや、その……喧嘩した……」
「は?おまえ、何しに行ったんだ?」
「優斗が心配だから、ボク、実験やめようって言ったんだ」
「それで、喧嘩になったのか?」
「そ、それが……いきなり技を仕掛けてきやがって……」
「技……ヘッドロックか?まさか逆エビじゃ……」 
「い、いや、ベアハッグ(相手を腕で締め上げて動けなくする技)かな?なぁに、返り討ちにしてやったぁ」
晶の声が裏返る。
「ありえねぇー。バカかおまえら……ってか、顔赤いぞ」





「お……怒ってんだよ。優斗の奴、女扱いしやがって……翔太はしねぇよな?」
晶がキッと睨んだ。
「も……もちろん。おまえは同志だ、女だなんて思ってねぇぞ」
「……ならいい」
「嘘つき」
玲奈が割り込む。
「えっ、う、嘘なんか、ついてねぇぞ」
翔太がどもる。
「そうだ、変なこと言うな」
翔太と晶は口々に反発してから「え?」と顔を見合わせた。
「お母さんは出掛けてったよね。2人でプロレスごっごしてたなんて、騙されないよ」
「おまえ、何が言いてぇんだ」
翔太が玲奈を睨んだ。
「晶、隠しても無駄よ。堀之内君と何してたの?」玲奈がじりじりと攻め寄る。「まさか……キス?」
「んなことすっか。抱き付かれただけだっ」
晶は慌てて両手で口を塞ぎ、耳まで真っ赤になった。 
「ふうん。それから、どうしたの?正直に言いなさい」
「いや、だから、優斗がボクを、可愛い……とか、理想の女の子だとか言い出して……」
晶は玲奈の尋問に答えながら、苦しそうに胸を押さえていた。

翔太はヨロヨロと柱に寄り掛かった。
……畜生、やっぱ行かせんじゃなかった。
でも、胸が苦しいってことは、晶も優斗を……?
そうか……晶が幸せなら俺は、もう……
声も掛けずに立ち去る翔太に、2人は気付かなかった。





その後、優斗は順調に回復し、一週間後、無事退院した。
優斗の部屋の長テーブルを4人が囲んでいた。
「ううっ……長かったぜ。もう、おまえに会えねぇんじゃないかって、どんだけ心配したか……」
翔太は涙を拭って、ダンベルを抱き締めた。
「そっちかよ」
晶が翔太の頭をポカンと殴った。
「ジョークの分からねぇ奴だな」
「ジョークになってねぇ。このクソゴリラ」
晶が翔太の腹にキックを入れようとしたが、手で払われてムキになる。
玲奈がサッと立ち上がった。
今日は水色のキャミソールに白いシフォンボレロ、黒いミニスカート付きパンツという控えめな装いだ。
「新メンバーの坂巻玲奈(さかまきれな)です。よろしく」
「知らない奴いねぇし」
晶が喧嘩をやめて、つっこむ。
「それより、マジで実験やらないのか?」
優斗が小声で確認した。
「当たり前だ。どんだけ心配したと思ってんだ」 
晶が声を張り上げる。    
「今、ぶり返したら、命の保証無ぇぞ」
翔太も目を三角にして怒る。
「おまえ達まで母さんと同じこというのか」
うんざりしている優斗の肩を翔太がポンと叩く。
「まあ、諦めろ。坂巻の監視付きで、やっと勉強会を許して貰えたんだからな」
「どうして、坂巻は母さんに信用があるんだ?」
優斗の視線が玲奈に移る。

「なんたってクラス委員、優等生だぜ」
翔太が玲奈を持ち上げる。
「それより身だしなみと言葉使いよ。ね、晶?」
「そうか、良かったな」
晶は動じない。
「お蔭で出禁も解けたし、坂巻様々だぜ」
翔太が玲奈を拝んでみせる。
「おだてても何も出ないからね」
玲奈がベーッと舌を出す。
「あ、アイス、買って来ようか?」
晶が言う。
「そうか。おまえ、超リア充だもんな。仲良く行って来いや」
翔太が妙に明るく、誰にともなく言う。
「意味分かんねーし」
晶がキックするが、腹の前で翔太の手に阻まれた。
「こういうの……喧嘩しても仲良くて、言いたいこと言える関係っていいな。私、仲間に入れてもらって、めちゃ嬉しい」
玲奈がふわりと笑った。
玲奈は可愛いな……。晶は思った。
ふと見ると、優斗がフリーズしている。
「あ……」
優斗は目を瞑り、頭を暫く右手で支えてから、徐に顔を上げた。
「坂巻って可愛いな。お洒落のセンスもいいし、僕の理想にほぼ近い……良かったら僕の彼女にならないか?」
「えっ?」
玲奈が声を上げ、頬を赤らめる。
「優斗てめぇ、どの口がそれを言うかーっ」
翔太が、いきなりテーブルを飛び越え、優斗に殴り掛かる。
「やめろ翔太」
晶もテーブルを飛び越え乗り越え、翔太の肩に飛び付く。
「離せ、晶。俺は優斗を許さねぇ」
翔太は拳を振り上げる。
「やめて。堀之内君は病み上がりなんだよ」
玲奈が叫んだ。
翔太の拳が静止するのを見届けて、晶が部屋を飛び出し、翔太は慌てて後を追う。
「なんて乱暴な奴らだ。何を怒っているんだか……」
優斗は捩れたテーブルを見て溜め息を付いた。
「それは多分、堀之内君が一週間前と同じことを言ったから……」
玲奈が慎重に言葉を選ぶ。
「坂巻が見舞いに来たと母さんが言っていた……その時か?」
「覚えてない……の?」
「悪いが記憶に無い……それで、その……僕の彼女になってくれるかな?」





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