4「さらば三角」ー4

文字数 1,227文字

翌朝。翔太が門の前に立っていると、晶がやって来た。
「おーい、翔太。優斗は?」
「それが……入院したらしいんだ。さっき、優斗の兄貴が出掛けてった」
「翔太、行こう」
晶は走り出した。


病院の受付では部屋を教えて貰えなかった。
2人は出直し、長期戦の構えでロビーに張り込んだ。  
「これ、優斗に見せるんだ」
晶はリュックから青い物体の入った透明容器を取り出した。                 
翔太も容器を掲げて見せた。
「これ混ぜたら紫だよな」
「3色で灰色……もう1色足したら虹色になればいいのに……あ、あそこっ」                         
目ざとい晶が敏子を見つけた。
「おばさんっ。優斗、何号室?俺達……」
「あら。あなた達、来てくれたの?悪いけど、当分、誰にも会えないの。家にも来ないでね」    
結局、2人は病院からも追い出されてしまった。
「なんで、会えないんだよ」
晶は翔太に噛み付いた。
「面会謝絶ってことか……優斗の奴、何の病気なんだ?



「あっ、そうだ。倒れる前、優斗が言ってた。クリップなんとかっていう菌を見つけたって……」
「それ、ググってみようぜ……とりま(取敢えず)、俺の部屋、来るか?」
さり気なく、誘う翔太。
「いや。そこのバス停、行こ。翔太、タブレット持って来ただろ?」

タブレットに齧り付きながら翔太が唸る。
「晶。クリップ菌なんてどこにも載ってねぇぞ」
「おかしいな。優斗が言ったんだ。ボクが物置で取ったホコリに鳩の糞が混じってんじゃないかって……」
「鳩……?それ先に言え……これか?クリプトコッカス菌。鳩の糞に生えるカビ……肺に吸い込むと感染……風邪によく似た症状。軽い病気……だってよ。安心しろ」
「本当か?見せろ」
タブレットを奪い取った晶が、サッと顔色を変えた。
「どうした、晶?何て書いてある?」
「……か、漢字が読めない」
「ええい、返せっ」
今度は翔太がタブレットを奪い返す。
「肺や脳に病変を作る。喘息でステロイドを長期使用している場合や免疫が落ちている場合、死に至ることがある、死亡率は20%……」
「死……優斗が?ぼ……ボクのせいだ」
晶がガタガタ震え出す。

「落ち着け、晶。それならおまえだって、吸ったはずだろ」
翔太が晶の肩を優しく叩く。
翔太は他にも思い当ることが有った。ファ○リーズンに含まれる第四級アンモニウム塩は霧状で吸い込むと血液や脳に達し、喘息等を発症する危険があるらしい。病院に運ばれた夜、調べて知ったが、晶には絶対言うまいと思っていた。
「ゆ、優斗はボクらと違ってデリ、デリバリー……」
「デリケートだろ。おまえのせいじゃねぇ、きっと良くなる」
「ボク、優斗に会って確かめてくる」
突然、晶が走り出す。
「待てよ、晶。今は会えねぇって、おばさんに……待てったら」
翔太が追い駆けて掴まえる。
「放せ、翔太、放せーっ」
晶は大暴れする。
「ちょいと、そこのサッカー少年」
声を掛けたのは坂巻玲奈(さかまきれな)だった。
「坂巻。……誤解するな、俺達は……」


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