2「ぼくらのスペクトル」ー1

文字数 1,122文字

****プロローグ****

翔太(しょうた)(あきら)優斗(ゆうと)は中学2年生。
用事が有っても無くても、いつも自然に優斗の部屋に集まっている。


「今年こそはビッグな実験やるって言っただろーが」
「って、何すんだよ」
「あれだ」
「地球かぁ……ビッグだなぁ」

***********





朝。
晶はドアの前で、びびった。
超低音の唸り声が聞こえる。まるで……?
中を覗くと、優斗と目が合った。
「晶か……はっはっはっ」
優斗が突然、笑い出す。

「なんでぃ、キモッ」軽く返し、足を踏み入れる晶。
あれ?何か違う。何か……変。
「優斗。ボク、ちょっと用事……」
回れ右をする晶。
「来い。いいもん見つけたんだ」
優斗は晶の腕を取り、長身痩躯と思えない力で奥へ引きずり込んだ。
机の上には、透明な管、瓶、注射器、卓上コンロ、少し膨らんだアルミ箔。
優斗は血走った目を吊り上げ、銀色の包みを広げて見せる。
白い粉……。
晶の頭の中で、警報が鳴り響く。




「優斗、それって……」
晶の胸は高鳴る。
「しっ」
優斗が細長い指を立てた。
「……が使ってた」
優斗は指先を兄貴の部屋に向け、ピンクの錠剤を取り出した。
「これも……」
甘い花の香り。
「バスソルト……?」
晶はよろけて机に両手を突いた。
古いニュース映像がフラッシュバックする。
「大声出すな」
優斗は後ろから晶の口を手で塞ぐ。
「この化学式持ってるやつ、探してた……晶、どれがいい?」
優斗は囁きながら、机の上の注射器に手を伸ばす。
「どれって……ボクはいいよ」
晶がパッと振り向く。
「いや、やる。決めたんだ」荒い鼻息で晶の前髪が舞い上がる。
優斗は目を細め、晶の両肩を正面からガッシリ掴む。
「どうした、晶?」  
晶の瞳が左右に揺れる。
「わああーっ」
晶は大声で叫んで両腕を跳ね上げ、一気に右足を踏み込むと、襟を掴んで脇下に潜り込み、回転させた左足のバネを使って、フワリと長身を背負い上げた。

ズダーンッ

「おい、何ごとだっ?」
翔太がドアの陰から顔を出した。






その日は夏休み初日だった。

「プッ、いや、その……だ、大丈夫か……?」
翔太が必死に笑いを堪えながらも、優斗を気遣う。
優斗は背中をさすり、への字に曲げた口をやっと開いた。
「乱暴なんだよ晶は……いきなり投げ飛ばすか?」
「断ってから投げたら、護身術になんねーじゃん」
晶が即座に言い返す。
「はぁー」
翔太が大きなため息と共に息を吸い込む。
「ほんっと、見た目と中身のギャップ、ハンパねぇ。おまえ、少しはなぁ……」
「言うな、ゴリラ」
晶が翔太の腹にパンチを打ち込んだ。
翔太は腹筋に力を入れ、平然と受け止める。
「言わねぇよ……ってか、おまえは優斗にひと言あるよな?」
「ひと言?……そうだな。夏は襟無しTシャツだ」
「そっち?」
翔太が、つっこむ。



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