ハネ
文字数 769文字
中学校の教室で昨夜見た夢の話などしなければよかった。教師に聞きとがめられて、不用物を学校に持ちこむな、しかも国家の発展に不要のものではないかとしかられ、その夢を没収された。放課後取りに来るようにと言われたが、わたしは忘れてしまったらしく受けとりに行かず、そのまま大人になった。
なんだか曇り空ばかりだと不満を感じながら暮らす日々が続く。まあわたしの人生こんなものと思いかけたころのある夜、眠りのなかでひたひたと水が寄せてわたしの頭の中にまで入ってきた。水面に一枚の枯れ葉が浮いていて、よく見ればその上に小人がひとり、あぐらをかいて座っている。白い蛾のような色の体で、子どもだか老人だかわからない。そして、オイ、オイ、と呼びかけてきた。オイ、オイ、オマエイツニナッタラオレヲムカエニクルノダ、オイ、オマエイツニナッタラ……。
何度も呼ばれたが、わたしは疲れて眠いし、小さくてみすぼらしいものの相手などしたくなかったので、背をむけてもっと深く眠りこもうとした。すると、ムカエニコナイノカ、ソレナラサラバダヨと言葉が変わった。気になって声の方を見やると、あの小さなものがわたしに背をむけていた。その背がゆっくりと割れて、蝶の羽に似たものが色鮮やかに光って生まれ出た。そしてさらにその羽が別の光る羽を生み、それらもさらに羽を生み……辺りをまばゆい光で染めた。わたしが思わず手をのばすと光は飛びたった。高く高く舞いあがり、ぶ厚い雲をも難なく割いて進む。何という力強さ、輝かしさ。そのまま光は雲の割け目を通して見える青空へと消えていった。
雲が閉じて肌寒さがもどってくる。しまったなあと悔いる気持ちが起こったけれど、明日からも曇り空の下で生きていかねばならない身なので、わたしはとりあえず寝直すことにした。他人に夢の話などもうするまいと思いながら。
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