キリヌキ

文字数 553文字



 古い教室で、でこぼこのある木の机にむかって座っている、子どものわたしたち。それぞれの目の前に二冊の本が置かれている。青銅の鐘を鳴らしたような声で、女性教師が言う。今ではいなくなってしまった動物を、右の本で見つけて、左の本に移していきます。左の本をあなたたちは持ち帰り、一生たいせつに保管しなければなりません。さあ開いて……。みんなは右の本の頁から指示された動物をハサミで切りぬき、何も記されていない左の本の頁に糊付けする。教師が別の動物の名を読みあげる。生徒は黙って切りぬく。だがどうしたことだろう、わたしの前には右手側にあるはずの本がない。小さな教室なので教師にもわたしの当惑がわかるはずなのだけれど、変わらず動物の名前を読みあげていく。幼い生徒にとって、静かな教室で先生、と呼びかけるのは大変つらいことなのだ。とまどっているうちに作業はだいぶ進んでしまった。わたしはもはやあきらめて、わたしが持ち帰ることになっている左の本を開き、名前を聞いて自分の心に現れた動物の姿を描く。ドードー、アンブロケトゥス、エピオルニス……、オロヒップス、ミアキス、メガラニア。オンニア、プレオンダクティルス、ナウマンゾウ! 夢中になって時を過ごし顔を上げると、教室にはわたし一人。わたしは本を閉じて胸に抱き、家路につく。


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