キョクゲイシ

文字数 478文字


 春の昼下り、町の広場で曲芸を披露している芸人たち。玉乗り、綱渡り、宙返り。はたまた火吹き、無言動作、滑稽な喧嘩……。今、小男が新たに芸を始めた。彼は幕のような青空に浮かぶ白い雲をつまみ、細くのばして口元に引っ張ってきた。そして細帯のような一定の太さにととのえながら、それを呑みこむ。体を軽く揺らしつつどんどん呑む、呑む。通りがかった飛行機も、鳥の群れも、雲と一緒に小男の口に呑まれていく。いやはや大した芸だ! だが見物人たちはそれまでに充分楽しんで、やや飽きてきていた。あまり喝采が起こらない。小男は誇りをはなはだしく傷つけられたらしい。顔を赤黒く染め勢いよくしゃがむと広場を指でつまみ、細くのばして呑みはじめた。広場がどんどん狭くなる、狭くなる。逃げる間もなくわたしたち見物人も芸人たちも、小男の口へと呑みこまれていく……。そういうことが一年前にあったのを、広場で芸を始めようとしている曲芸師の一団を見ながら思い出した。あの小男の姿もある。ここはうつつなのか彼の腹中なのか。風がときおり運河から生臭い臭を運んでくるが、なべて穏やかな春の昼下がりだった。


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