ビイドロ

文字数 342文字


 恋に疲れているときは、眠りのなかで夜の海辺を歩く。くりかえす波が寄せた、丸くなったびいどろの数々。指先でつまみ手のひらにのせる。それは濡れているのにおさなごの耳のようにほんのりあたたかい。誰の恋ごころだったのだろう、と思う。割れて大海に散ったすえ、どれほどの時を経てか、ここにたどりついたのだ。わたしの声がとどくことはなかろうけれど、励ましの言葉をつぶやきたくなる。だいじょうぶ、あなたの恋はうそやまぼろしではありませんでしたよ。いまでも小さな欠片にまでぬくもりが残っているのですから。――わたしの恋も、割れたらこの広い海辺に流れつく、そしてひと知れず息づきつづけるはず、そう思えば臆病なわたしにも多少の勇気がにじみでてくる。波音のなかに冷たい吐息をひとつ残して、わたしは目ざめる。


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