ココロ
文字数 479文字
わたしの心に私有地の標示が立った。結婚を前提に同居しているひとが、資金調達のためにわたしの心の一部を勝手に他人に売却したのだ。自分の心を売らないところが、慎重な性格の彼らしい。口論になりかけたけれど、いまの事業は絶対にうまくいく、世の中に必要になるものを先取りしているからだ、事業は借金をつくって営むのが当たり前で、どの会社もそうしていると説得され、まあみんなやっていることなら心配は必要ないのかもしれない、彼の成功がわたしの未来もつくるのだし協力しようと受け入れた。彼はその後も同様にわたしの心を切り売りし、仕事の資金をつくった。彼の帰宅は毎日遅く、帰らない日さえ珍しくなくなってきているので、事業が盛んになり忙しいのだなと思った。さらに半年後、わたしは心をすっかり他人の権利に占められてしまったので、引越しをしなければならなくなった。まだわたしが出ていかないうちから、以前はわたしのものだった心に建物がつくられはじめた。彼はいずこへか去り、彼の心に移り住むことはできなかった。わたしは行く当てもなく、自分の体のなかをこっそり放浪している。今日も青空だ。
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