キキ

文字数 312文字


 鬼気(きき)というものに喉を絞められている。強く巻きついたものをまったく振りほどけない。じわじわ苦しさが増すばかり。いったい自分が何の恨みを買ったのかわからない。恨みの深いものにとりそれを()らすための相手は誰でもよいのだとは聞いたことがあるけれど、なぜわたしがその相手に選ばれたのだろう。周囲に人の影はたくさん見えるのに、誰も救けてくれない。滑稽だなと誰かがつぶやいた。鼻で嗤う音も聞こえた。彼らには、他人の命の危機も一枚の戯画に見えるらしい。わたしは鬼気に奇妙な共感を覚えた。どこまでも続く闇のなかに、小さな泡が浮くように鬼気を生じさせたのも、きっと彼らだと思ったからだ。さっきまで彼らであったわたしは、いまは鬼気に変じていく。


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