マドベ
文字数 425文字
窓辺でわたしはためらっている。わたしにも翼があり飛びたてるはずなのだが、自分でそれに触ることができず、いまひとつ確信がもてない。眼下は虚無の闇である。飛べなければ際限もなく落ちていくだろう。空もなんだか黄ばんだ歯のようなおかしな色で、進んで目指したいところに思えない。一方、ずっとここにいるわけにもいかない。背後から部屋の壁が迫ってくる。いずれこの窓と壁は一枚の板になるだろう。わたしの居場所はなくなってしまう。思いきって飛べなくはないのだ。しかし考えすぎたせいか、自分が鳥であることに疑いの感情が生じてきた。自分はひょっとしたら魚なのでは? ますます決断ができなくなった。いまや体がまったく固まってしまったようだ。もう早く壁が来てわたしを無理やり押し出してくれればいい、そう思いはじめた。すると今度は壁はのろのろとした動きしかしなくなり、いっこうに近づいてこない。誰かなんとかして、と叫びたくても声は出ず、わたし以外世界に誰もいるわけがなかった。
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