ベッド
文字数 1,136文字
外国には、ベッドが子どもを乗せて歩きだしたり宙を飛んだりする漫画があるらしい。なのにうちのベッドは何もしないね。そんなことをちらっと考えたら、すぐにベッドに覚られた。わたしを乗せたままむきになってその身に力をこめている。何をするつもりなのか? 影響を受けて周りが黒ずみ、電灯が明滅し、やがて部屋全体が歪みはじめた。思い描いていた、子どもの夢のような情景とちがう。ベッドを叩きもうやめるように促すが、聞いてくれない。力の膨れあがったベッドが変貌するのは、一瞬だった。足を置く方の端がぐいっと勢いよく飛び出す。長く伸びたと思うと向きを変え、旋回しながら下へ下へと道をつくった。夜の闇とはちがう異様な黒さが下方に見えるので、わたしはおびえた。万が一にも落ちないように、ベッドの支柱にしがみつく。でも無駄だった。伸びたベッドとは別に、わたしの乗っているあたりが元のベッドの形に浮きあがり分離した。そしてわたしをしがみつかせた状態で跳ね、水泳選手が飛びこむように、伸びたベッドの上を滑りだしたのだ。わたしは悲鳴をあげたが、まもなく声を出せなくなった。息がしづらいほど滑走速度が速まったためだ。濃い闇のなかへ、くるくる回りながら滑り落ちていくベッド。調子にのって、もっと勢いを増そうとしているらしく、わたしは腹立ちを覚えた。だからなるべく平静を装い、ベッドに言ってやった。ちょっとばかり驚いたけれど、こんなものを喜ぶのは五歳までの小さい子どもくらいね、と。ベッドはとたんに元気を無くした。空気の抜けた浮輪のようにつぶれて止まる。上に乗っていたわたしは止まれず、宙に投げだされた。この身は虚ろな闇のなかへ。手がかりのない虚空を飛びに飛んでもまだ止まらない。どうやって脱出すればいいのやら。それにしても、ああ……、新しいベッドを買わなくてはいけない。お金に余裕が全然ない時季なのに困ったな、そう考えて、ふと思い至った。今わたしが飛んでいるのは、わたしの
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