ガンクツ
文字数 467文字
岩窟に身を潜め、ずっと銃を構えている。わたしの愛するひとをこの山に棲む狒狒が連れていき、歯ブラシにしてしまったのだ。わたしは復讐を誓い、村を出た。この細腕ではまともに戦って勝てるとは思えない。だが勝てる算段はある。旅回りの占い師が言うには、狒狒の首の後ろにいつも血をにじませている黒子がある。これを銃による一発でこそぎ取ることができれば、そこから血を噴き出して狒狒は自ずと死ぬ。占いなど信じたことはないが、わたしは自分の家産のすべてをその占い師にあげてここに来た。好機は百年のうちに瞬きするほどのわずかな時間しか訪れないと、直感でわかっていた。銃の構えを一瞬も解けない。周りは豪奢な花の山であった。わたしは涙を流した。狒狒がこんなに美しい山に棲み、日々土を舐めて働くわたしたちが岩窟の奥に似た暗い土地に住まわされているおかしさを感じたからである。わたしは銃をおろした。岩窟を出て、輝かしい天空にむかって祈った、わたしを狒狒にしてくださいと。天空は答えなかった。そのかわりに近くで足音がした。狒狒がわたしを歯ブラシにしに来たのである。
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