コサメ
文字数 517文字
水を食べて生きることにしてから何年経っただろう。今夜、街では死者の街からつかの間訪れる祖先の霊を迎えるため、あちらこちらで火が焚かれている。わたしはそのそばを歩くだけでもいやがられるので、自宅の窓から眺めている。わたしにだって祖先はいるのだ。戻って来る祖先に目礼くらいはしたい。この街にはこの街で生きていくためのやり方があり、その方法を選ばない者は外道、心得ちがいと言われてしまう。しかしわたしはこの街が持つ詐欺師のような一面を子どものころから感じていて、溶けこむ気にはなれなかった。勇敢な正義の戦士だとおだてられ皆は何をさせられているのか。気味が悪いと思わないのか。火のついた鞠を蹴り合う遊びが始まった。しかしあいにく小雨が降りだした。これもわたしのせいにされそうだ。何千年も前から続くとされるこの街、祖先もここで生きた。祖先たちが何も訊かずわたしの頭を撫でてくれたら嬉しいのだが。街を巡る大きな黒い幕のむこうは鬼と怪物が棲むけがれた闇であり、生者の街はないと他人に教えこまれたが本当だろうか。最近まで疑わなかったその教え。祖先の霊に挨拶を終えたら、わたしは幕のむこうにひとり挑むつもりだ。勇敢な戦士には一生ならない予定だけれど。
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