コウモリ
文字数 448文字
夕方、家路を急ぐわたしの何を好むのか、蝙蝠がまとわりつく。鬱陶しくなってくるとわたしは歩みを止め、その場で手品の腕を披露し蝙蝠たちを造花に変える。その様子を見て、近くにいる人々から小銭が投げられる。わたしはしゃがんで銭貨を拾いあつめる。儲かったという気持ちと恥ずかしい気持ちとが半々にある。また家路を急ぐ。先程までよりさらに増えた蝙蝠たちが湧く。わたしは手品で連中を造花にする。このくり返しだ。なぜ気が急くのかわからないが、わたしは自分の家に向かって足早に歩いている。それにもかかわらず、いつまで経っても家に着かない。そもそもわたしの家はどこにあるのか? 蝙蝠たちを造花に変えすぎて、街の至るところが花だらけだ。ということは、わたしは街のなかを回っているにすぎないらしい。西の空を見れば、美しい繊い月が赤い空に虫ピンで止められ、晒し者になっている。そうだ、早く家に帰り拳銃を取って、あの月を救いに行かなければいけないのだ、と思い出した時、いっそう数を増した蝙蝠の群れがわたしを黒々と取り囲んだ。
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