第21話 ゲーム・チェンジャー(2035年)

文字数 2,273文字

(スミスが、自治体OSは、政治を変えるゲーム・チェンジャーであると説明する)

スミスが説明を追加した。

「政治パワーバランスモジュールが、既得権益を打破できるという説明は、信じられないかも知れません。

この問題は、数学的には、局所最適化と大域的な最適化の問題です。既得権益は、局所最適化であり、大域的な最適化を行ってこれを打破する手順が求められます。

政治パワーバランスモジュールに求められる条件は、局所最適化より、大域的な最適化の方が利益を生む構造を作りだすことです。

自治体財政からみれば、局所最適化より、大域的な最適化の方が経費を大きく節約できます。

節約分を給与に反映させます。これは、ファンドマネージャーが一般的に行っている方法です。ファンドマネージャーは、利益の20%を幹部のパートナーで山分けします。自治体財政の場合には、労働生産性をあげてコストを節約できれば、そのメリットは、数年は継続します。ですから、節約コストの50%をパートナーに分配できます。この処置は1年限りですが、基本給も、自治体財政や、労働生産性を反映して変化させますので、いくらかは、継続的にメリットがあります。

逆に、局所最適化に走って、自治体財政が悪化すれば、基本給は連動して下がります。

いままでの地方自治体の公務員の評価は、予算と定員の確保です。
あるいは、特定の政治家との忖度も有効かもしれません。

年功型雇用では、転勤など仕事の切り替えは専門知識を無視して行われ、その結果、ジョブマーケットでの価値がない人材を作り上げます。
50代で、リストラのために、レイオフする企業がありますが、人材育成どころか、廃人材を作っておいて、レイオフするのですから、退職金の上乗せで済む問題ではありません。年功型雇用は、人道的に問題があります。
とはいえ、財政難になった自治体も、同じようにリストラして、ジョブ型雇用に変更するしか、組織を継続させる方法はありません。

ジョブ型雇用をするためには、労働者と雇用者が、各労働者のジョブマーケットにおける価値を共有している必要があります。

しかし、長期間にわたって、労働者と雇用者の双方が、労働者の価値評価を行ってきませんでした。

2000年頃から、日本では、成果主義を導入した企業が出ましたが、全て失敗しています。これは、成果主義はジョブマーケットがあって初めて機能する仕組みだからです。

自治体OSは万能ではありませんが、「予算と定員の確保」に変わるエビデンスに基づく成果の評価をサポートします。自治体OSの上のアプリが計算した業績スコアは、成果の評価のスタート・ポイントになります。また、このスコアは、ISOのジョブマーケット・スコアリングのガイドラインにも準拠していますので、転職する場合に、使うこともできます」


「お話を聞いていると、あまりに多くの要素が絡み合っていて、どこから手をつけて良いのかわからなくなります。問題の解決は、気の遠くなるような話に聞こえます」
智子が言った。

スミスが続けた。
「一部を変更して問題を解決することはできません。年功型雇用から、ジョブ型雇用に切り替えるためには、雇用・給与・昇進といったジョブ・ゲームのルールを丸ごと取り替える必要があります。自治体OSはそのためのゲーム・チェンジャーの役割を果たします。

失敗のない完全なジョブ・ゲームの改善案を作ることはできません。現状変更の提案をすると、一つでも、失敗の可能性があると提案を否定する議論が行われることがありますが、これは、破綻した論理です。自治体OSによる改革は、細かな点では、問題や失敗を引き起こしながら進みます。起こりうる全ての状況を予測できる訳はありません。細部の問題や失敗は、フィードバックされて、自治体OSを修正しながら、改革が進めば良いのです。

本題は、政治と自治体OSの関係でした。話が、自治体の公務員のマネジメントになりました。これは偶然ではありません。政治は、公務員組織を通じてしか、政策を実施できません。公務員組織のマネジメントを変えずに、政治を変えることはできません。

省庁再編をいう政治家もいますが、ジョブマーケットがなければ、労働生産性はあがりませんし、従来の利益誘導型から、新しい政策に切り替えることはできません。ジョブマーケットができれば、省庁は仕事の量によって、変動するので、再編問題自体がなくなります。

DXも同じで、ジョブマーケットが出来れば、賃金の安い労働生産性の低い部門企業からは、労働者が流出して、DXに対応した賃金の高い企業だけが残ります。こうして、労働者の所得があがります。

DXのために、労働生産性の低い企業に補助金を付けても効果がありません。
古い建築が、老朽化で、地震に耐えられなくなったら、壊して、直すことが基本です。
重要文化財の建築では、解体修理をして、古い素材を残しながら、耐震強化をしますが、その場合には、立て直す場合に比べると、膨大な費用と時間がかかります。

DXのために、労働生産性の低い企業に補助金を付けるのは、その企業を重要文化財扱いしているのと同じです。労働生産性の低い企業は、文化財ではないので、高い費用を支払ってあえて残す必要はありません。

労働生産性の低い企業で働いていた労働者は、転職すれば、賃金があがります。

つまり、ジョブマーケットができれば、今までの政治は変わります。

自治体OSには、ジョブマーケットをつくるアプリに、必要なデータを提供することで、ジョブ・ゲームを変える基本的な機能が備わっています」
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