第35話 雇用形態の課題(2035年)

文字数 2,183文字

(スミスが、雇用形態の課題について解説する)

スミスが口を開くと、自動翻訳機が動いた。

「自治体OSの概略は、鈴乃木が説明した通りです。私は、営業のニーズに合わせた自治体OSの開発も担当していますので、補足説明をさせてください。

株式会社デザート・ストームは、会社自体が、自治体OSのような総合化OSの実験場になっています。社内のポストはフレキシブルで、必要に応じて、一人が複数のポストを兼務することで、業務の合理化とコストダウンができるようになっています。昨今は、日本でも、兼業が広がっていますから、一人で、複数の肩書きを持つ人も増えていると聞いています。デザート・ストームでは、総合化OSのアプリを使って、ポストと担当する時間を流動的に自動的に割り当てている点で先んじています。こうすることで、窓際族を発生させないだけでなく、窓口業務のように、特定の期間に集中して業務量が増える部門に対応できるメリットがあります。私は、営業部では、部長クラス扱いですが、システム開発部では、課長クラスで仕事をしています。
このような、流動的な仕事の割り当て機能を、弊社では、ジョブフュージョン機能と呼んで、重要なアプリと位置付けています。ただし、アプリの開発は、主に協力会社が行っているので、公平性を保って、協力会社の信頼を失わないために、ジョブフュージョン機能の開発は、デザート・ストームではなく、別の子会社で行っています。私は、自治体OSの開発は、デザート・ストームで、ジョブフュージョン機能の開発は、子会社で行っています。

ジョブフュージョン機能は、自治体OSでも利用可能な重要な機能ですが、古典的な、ポストがフュージョンしない発想の人には、説明がしにくいこと、アプリ開発会社との協定で、自治体OSの説明では、個別アプリの紹介は、内容に立ち入らないルールになっているので、ここでは説明しません。必要であれば、子会社に、請求していただければ、後ほど、子会社の営業、または、その代理として、鈴乃木が説明させていただきます。
日本は、人口が多いので、弊社にとって重要な市場です。自治体OSを普及させるための障害があれば、ひとつ、ひとつ、取り除いて、前に進むつもりです。
鈴乃木は、DXでは、適正のない人は、解雇すべきと申し上げました。

こうした説明をすると、『解雇』というキーワードが一人歩きして、批判を浴びやすいですが、人には、適性があり、それを伸ばすことで、多様な能力を発揮して、社会全体を支え合っていくことが大切だと考えています。

日本では、伝統的に、滅私奉公という価値観が長い間支配的だったときいています。しかし、これは、画一製品を大量生産するのに適したルールであって、現在は、百害あって一利ありません。『解雇』と『学習』というサイクルは、自己実現に、必要なステップです。学習内容は、100年版のムーアの法則に従って、毎年、変化しています。こうした変化に対して、自己学習で、対応できる人もいますが、少数の例外です。90%の人は、再教育を受ける必要があります。オンラインの教育も可能ですが、その場合でも、クラスのような学習グループを作ると、学習効果が上がります。

ポスト・デジタル・シフトになって、高給な仕事はクリエーターになりました。ITベンチャーで、若い億万長者が出ています。しかし、クリエーターのピークは若いときです。スポーツ選手のように、クリエイターは若い時には稼げますが、歳をとると生産性が下がります。若い人を滅私奉公で、安い給与で、クリエイティブでない仕事に従事させれば、生産性が下がり、企業はつぶれてしまいます。これが、ポスト・デジタル・シフトの仕事の常識です。仕事がクリエイティブでなければ、出来るだけ早く、『退職』するか、『解雇』すべきです。

『解雇』と『学習』というサイクルは、新しいビジネスのチャンスでもあります。デザート・ストームは、この面で、既に経験を積んでいるドイツのノウハウを元に、コンサルタントもしています。大学や専門学校の新しいオンラインカリキュラムの開発も手がけています。決して、『解雇』したら、後は面倒をみないという訳ではありません。ただし、『解雇』と『学習』の間は、企業は面倒をみられないので、公的支援が必要です。日本の場合には、労働生産性の低い企業や分野の存続に、公的資金を多量に投入している一方で、再教育のための『学習』に対する公的支援はわずかです。これは、労働生産性の低い企業や分野が選挙の票になり、利益誘導型の政治を続けているためです。しかし、労働生産性の低い企業や分野は中期的には、淘汰されます。こうした後ろ向きの政治は、日本の産業構造を破壊してきました。これは、持続可能ではないのです。

私のように、マルチジョブで生活していれば、全ての仕事を同時に『解雇』されなければ、『解雇』は全ての収入を失うことを意味しません。『解雇』は、学習のための時間が生まれたことを意味します。日本の失業保険では、全ての仕事を同時に『解雇』されていなければ、失業ではないかもしれませんが、マルチジョブの社会では、全ての仕事を同時に『解雇』されることは例外です。現在の先進国では、マルチジョブが当たり前なので、日本の事例は極めて特殊だということを念頭においてください」
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