第26話 公共事業の再編(2030年)

文字数 1,297文字

(人口減少下の予算削減のために、ハード対策から、ソフト対策へ、公共事業の再編が始まった。)

2030年頃、地方自治体に激震が走っていた。問題は、公共事業の防災事業を中止とした再編だった。

過去の災害対策は、ダムや堤防を作ることだった。しかし、人口が減少し、税収が減っていくなかで、ハードの建設と維持管理に限界がくることは、わかりきったことだった。

どんなに、防災施設を建設しても、防ぎきれない、スケールの大きな災害は必ず発生する。

典型は、津波被害である。この場合には、資産を守ることは、脇において、人命救助が先行する。

津波警報を出しても、実際に、津波が来る確率は低い。このため、警報に対して、避難行動を起こす人の割合は、半分以下のことも多い。住民が、主体的に避難計画を立てるための手段としては、ハザードマップが準備されている。住民は、住民集会で、ハザードマップを見て、自らが、避難経路を探すことによって、自主的な避難の比率をあげられるという発想である。しかし、この方法は、危うい。

2011年の東日本大震災までは、避難に自動車を使うべきではないという指導がなされていた。自動車が渋滞で動けなくなると、危険であると考えられている。

2011年の津波では、津波の到達速度が速いため、自動車を使うことで、命が助かった場合も、出てきた。それからは、自動車は、状況を見て使うべきという指導に変わっている。

しかし、避難計画に使った紙のハザードマップと実際の被災状況は異なる。津波や洪水の被害状況は、刻々と変化する。非難する人が、これらの情報を入手して、避難経路を柔軟に変更できなければ、適切な避難は無理である。

スマホをつかった情報システムで、被災リスクの刻々の変化情報を受信できれば、避難計画は、より合理的に行える。こうしたソフトウェア整備の方が、堤防建設より、人命を助ける効果が高い場合が多いことがわかってきた。

つまり、防災は、ハードウェアの建設より、防災情報システムに投資した方が、合理的なことがわかってきた。

一方では、人口減少により、氾濫原として、整備できるエリアが拡大してきた。河川の上流にダムを建設しても、豪雨がダムより下流で発生した場合には、ダムに洪水防止効果はない。一方、河川の中流に設けられた氾濫原であれば、ダムより広い範囲で、発生した洪水に対応でき、より防災効果が高い。

河川生態学の進歩によって、河川中流の氾濫原が、生態系保持には、必須のストリーム構造であることがわかってきた。ダムは、環境を破壊するが、氾濫原は、環境を修復する。

河川生態学は、健全な水の循環だけでなく、健全な土砂の循環、健全なPOM(粒子状有機物)の循環の復元も求めている。このためには、ダムを、氾濫原に切り替えなければならない。

こうしたダムを氾濫原に、切り替える政策は、欧米では、2010年頃には、主流の防災対策になっていたが、遅ればせながら、2030年頃には、日本でも、ダムを撤去して、氾濫原に切り替えるケースが増えてきた。

その結果、自治体の公共事業の性格が一変してしまった。これは、予算や組織の大変革を引き起こしつつあった。

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