第13話 P問題(2035年)

文字数 1,974文字

(鈴乃木が、P問題について説明する)

鈴乃木が、口を開いた。

自治体OSについて、ご説明する前に、P問題を確認しておきます。P問題は、非常に重要なので、最近では、よく取り上げられますが、正しく理解されていないことも多く、その結果、説明が正しく伝わらなくなり混乱する例が多いです。ここでは、確認のために、説明を聞いてください。

P問題は、複数のシステムで適切な意思疎通を行いネットワーク上に集団意識を形成する最適な方法を探索する問題なのですが、この説明は、抽象的でわかりにくいので、具体例をあげます。

自動運転をする自動車を使って、説明します。前の自動車Fと後の自動車Bの間の通信を考えます。
自動車Fが、ブレーキを踏んで、自動車Bがそれに追従して、アクセルを緩めるか、ブレーキを踏むかの問題を考えます。

一番簡単な方法は、自動車Fがブレーキを踏む前に、これからブレーキを踏むという信号を発する方法です。自動車Bは、この信号をキャッチして、減速します。この方法でも、自動車Fのストップランプがついてから、反応するよりも、時間が稼げますので、衝突リスクが減ります。画像センサーの結果をニューラルネットで、自動車と判定して、ストップランプの点滅画像を判定して、自動運転する方法は、通信障害があっても使えますので、バックアップのシステムとしては有効です。また、人間が、反応するよりも速いリアクションが可能です。しかし、通信信号があれば、それを利用する方が、更に、速いレスポンスができますので、画像認識よりは、このデータを優先すべきです。


このとき通信信号で、何を送るべきかという問題がP問題です。これから、ブレーキを踏みますという信号には、減速のために、弱いブレーキを踏むのか、衝突を避けるために、急ブレーキを踏むのかという違いの情報は含まれていません。しかし、この情報の違いは、衝突回避には重要です。自動車Fが、自動車Bに、通信する課題を考えます。通信情報量が最大の場合は、自動車Fの自動運転の全情報を、自動車Bに送信する場合になります。しかし、これは、明らかに過大で、どこかで、妥協点を探す必要があります。この問題がP問題になります。これは、情報圧縮の問題でもありますが、最近の主流は、集合意識の問題として、答えを求めるアプローチです。

自動運転の方法は、ドライバーの意識をモデル化したものと考えることができます。ドライバーの意識では、運転は、普通の運転、個性的な運転、非常事態の運転に分かれています。普通の運転は、燃費や旅行時間を優先した運転です。個性的な運転は、ここでは、ちょっと風景を見たいので、速度を落として走るといった運転です。非常事態の運転は、周辺の交通が、普通と違った反応をする場合の運転です。交通事故が発生した場合の運転が、これに相当します。人間のドライバーは、交通事故が発生した場合の運転を経験することが少ないため、この時に適切に反応できない問題点が指摘されています。一方、自動運転では、過去の事故データや、事故のシミュレーションデータを使って、非常事態の運転を学習できますので、非常事態の運転能力は、人間のドライバーを上回っています。

自動車間のP問題を考えるときに、普通の運転という集合意識が存在していると考えれば、この範囲内の運転では、これから、ブレーキを踏みますという簡単な情報伝達で問題はありません。一方、集合意識から外れる、個性的な運転、非常事態の運転については、詳細なデータを送るべきです。

交差点を左折したところに、歩行者がいたとします。乗車している自動車からは、左折しないと歩行者は見えません。しかし、左折する車線を走っている別の自動車の画像認識は、歩行者を識別しているはずです。それならば、交差点の周辺にいる自動車は、複数の自動車の集合意識として、歩行者の存在を共有すべきです。このような集合意識ができれば、左折する前から、歩行者の存在が認識できます。

次に、スーパーバイザーとして、地域に交通システムが入っている場合を考えます。交通システムは、個別の自動車から、情報を取集して、処理した結果を送信します。自動運転は、自動車の自動運転システムと、交通システムの2系統の信号を処理して、運転することになります。この2系統の信号の優先比率もP問題です。ここで問題になるのが、システムのメンテナンスと信頼性です。クラウドサービスで明らかになった様に、システムの信頼性は、メンテナンスが容易なクラウドシステムの方が高くなります。このため、自動運転システムの指令と、交通システムの指令が異なっていた場合には、後者を優先すべきです。現状の交通システム機能は貧弱ですが、中期的には、自動運転機能の多くが、地域交通システムに移行すると考えられています」
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