第38話 黄昏(たそがれ)(2035年)

文字数 1,025文字

(智子は、セールスマンがかえった後で、今後の展望を考える)

秋も深くなって、日の傾く時間が、めっきり早くなった.最近では、ここ、東京都庁の知事室からは、富士がよく見える日が多くなった.夕焼けの富士だ.EVの普及が、排気ガスを減らして、空気が澄んできたせいだ.

一昔前の東京は、人、人、人、どこに行っても人がいる喧騒の都だった.それが、現在では、すっかり、人が減ってしまった.

2020年が変化のはじまりであった。コロナウイルスの拡大に伴い、リモートワークが定着した。オフィスは東京から出て行って、それに合わせて、サラリーマンも東京を離れた。東京都の交通システムは、エネルギー効率がよく、渋滞を回避できる電車が主体であったが、電車は、感染症に対しては脆弱であった。2021年に、コロナウイルスの第1のピークは過ぎたが、その後も、変異株や、同じような感染症の問題が続き、電車の利用者数が元に戻ることはなかった.自動運転のEVが普及するに従って、感染症リスクの低い、EVが交通の主役になった。しかも、自動運転であれば、駐車場のスペースは不要である。実験的なスマートシティが成功をおさめるにつれて、東京近郊に、スマートシティの開発が進み、環境によいエコなライフスタイルとして支持をうけた。東京都内に住むことは、環境意識の低い人間のするライフスタイルとみなされるようになった。

東京都は財政上の課題を抱えるようになった。

オフィスと生産年齢人口の転出により、歳入の3分の1が失われた。

人口減少により地下鉄、山手線、新幹線などの収入が減少し、一部は廃線にするか、東京都が財政支援するかの選択をせまられた。しかし、人口減少が、スプロール的におこったため、一部を廃線にすることは難しかった。

2030年に開通したリニア新幹線は、黒字化の見通しは全く立たなかった。
今から考えると、オンデマンドの時代に、新幹線を建設する計画には無理があった。
リニア新幹線は、関連する施設整備の収益を減少させた。

2047年完成予定の新宿駅の再整備計画の見直しも、頭の痛い課題だ。

オリンピックの借入金の返済は重くのしかかった。

老朽化した道路、上下水道の維持管理は大きな負担だった。東京都の人口は減少したが、移住した住民の多くは、現役で働いている人で、移住費用の捻出の難しい高齢者は東京都に残った。このため高齢化率は4割に近くなり、対策に、費用がかかった。

2035年、東京都は、財政再建団体に指定された。
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