第37話 顧客リスト(2035年)

文字数 1,327文字

(智子が、自治体OSの顧客について、質問する)

智子が口を開いた。
「自治体OSの導入実績と効果について、説明してください」

スミスが答えた。

「弊社は、リトアニア発のベンチャー企業です。国単位では、リトアニア他3か国で採用されていますが、人口規模は、最大でも700万人に止まっています。

地方自治体での採用は、EU、米国を中心に進んでいます。

EUと米国の導入事例は、20件あります。このうち2件では、効果がないということで、採用後、継続が打ち切られています。この2件は、共に、タイプ1の採用でしたので、自治体OSの効果がなかったというより、維持管理ができなかったためと思われます。また、3件は、弊社以外の自治体OSに切り替わっています。自治体OSは、一つ間違えると、国防上の問題にも直結しますので、自国の企業を優先したいと判断がなされる場合もあり、3件は、これに該当すると考えています。プライバシーとセキュリティの問題は、P問題の一部として、理論的な解決がなされ、弊社の自治体OSはその規格に、準拠していますので、問題はありません。しかし、自治体OSは政治問題の一部なので、安心と安全が理解されるまでには時間がかかると考えています。


自治体OSシステムは、行政サービスの質の向上と、人件費の削減という、今までは、両立不可能と思われていた2つの課題を同時に解決します。

そのためには、解雇規制が撤廃されている必要があります。

日本の場合、2025年に、自動車産業で、解雇が始まり、そのあと、解雇規制が緩和されました。2028年には、生活保護と、ベーシックインカムを自治体単位で選択できる法案が成立しました。それまでは、日本の法体系は、全国画一でしたが、これ以降、自治体が、選択できる法体系が採択されています。その結果、足による投票が実現しています。現在では、解雇規制のレベルは、自治体ごとに異なっています。

自治体OSは、主に、解雇規制を緩めたベーシックインカムを採択している自治体に採用して頂いています。採用数は、現時点では、5自治体です。

自治体OSの効果を、調べたアンケート調査もありますが、それよりも、足による投票の方が信頼できるでしょう。導入時5自治体のうち、導入後2年を経過している自治体は2つだけです。したがって、現時点では、統計処理に耐えるだけのデータは得られていません。しかし、この2団体とも、人口の流入が増えています。また、導入後2年で、歳出が減少して、単年でみれば、財政赤字から抜け出しています。

お客様の自治体は、今まで採択された国や自治体の人口規模を越えています。したがって、弊社としては、チャレンジになりますので、人口規模の拡大に伴うOSの改善については、利益を度外視した技術開発の機会として、活用させて頂きたいと考えています。この点にはついては、既に、社内で合意を形成しています」

智子がお礼を言った。

「わかりました。今日は、長い時間、ご説明ありがとうございます」

スミスが返答した。

「こちらこそ、貴重な時間を割いていただき、説明できてよかったです。
なお、動画による説明もありますので、よろしかったらご覧ください」

説明者は、深くお辞儀をして退出した。
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