第2話 自治体財政の変化(2030年)

文字数 1,812文字

(2030年には、自治体財政の悪化に伴う変化が表面化してきた)

2030年頃の労働人口の減少は、非正規社員の数を激減させた。

労働人口減少とテレワークは、ここ10年で、社会を大きく変えた。フルタイムで、高い賃金を払うことができる企業は、非正規社員の正規社員への転換を図った。DXを導入して、非正規社員の仕事そのものをなくす企業も出てきた。こうした対応ができない民間企業ーそれは、主に、中小企業であるがー淘汰されていった。

政治が、有権者の支持層を得るために、既得利権の保持をすることがある。例えば、小規模農家数が多いときには、農家票は当選に有効であるし、都市部よりも農村部の方が、当選に必要な票数が少ないので、小規模農家を維持する労働生産性を無視した政策が行われやすい。しかし、農家戸数がある限界を超えて減少すると、小規模農家の既得利権を維持する政策は、当選にとって有効な戦略ではなくなる。この場合に、当選に有利な代替戦略が見つかれば、政治家は、遊牧民のようにそちらへ、移住する。

同じことは、公共事業を請け負う建設業界に当てはまる。それまで、地方では、公共事業による建設業が、雇用の大きな部分を占めていた。しかし、3Kのため、現場の労働者が集まらずに、外国人労働者に頼った時期があった。労働人口の減少と、DXによって、現在では、現場労働の主役はロボットである。こうなると建設業界で働く労働者の数が減って、建設業界の労働者の既得利権を維持する政策は、当選に必要な票集めには、有効でなくなる。

労働市場の変化は、有権者の変化につながる。有権者人口が減少した業界の既得利権保持より、当選に有効な代替案がみつかれば、政治は変化を加速する要素になる。


2030年頃、多くの自治体が、財政悪化に伴い、補助金を廃止するか、低金利付きの融資に切り替えていた。その結果、補助金を使った利益誘導が、できなくなった。人口減少に伴い地価が下落したことで、土地利用の許認可を通じた利益誘導もできなくなった。そこで、地方議員や、首長になる旨みが減って、なり手が、激減した。


自治体は、それまで、賃金は安いが、決して潰れない組織という点をセールスポイントにして、地方公務員の人材確保をしてきたが、安い賃金と財政の先行き不安で、新規職員の確保ができなくなった。一方では、テレワークと兼業の普及で、一人で、3つ、4つの会社に所属して、仕事をする人も多くなった。この働き方では、全ての会社が同時に倒産するリスクは、大恐慌にでもならなければ、低い。その結果、公務員は潰れないという特徴はセールスポイントではなくなり、公務員の募集が困難になった。公務員の募集には、賃金単価を上げる必要があるが、財源は厳しい。そこで、自治体は、フルタイムワーカーの新規採用を諦めて、テレワークによるパートタームに切り替えるようになった。もちろん、兼業には、インサイダー情報流出のリスクがある。この部分は、テレワークでは、対応が難しい。しかし、補助金が減った結果、利益に繋がるインサイダー情報の量は激減した。若年層の職員が、テレワーカーになった結果、中間管理職の仕事が変わった。公務員の仕事は、今までのように、「Aくん。これをやっておいてくれ」といった曖昧な指示はできなくなった。指示は、全て、ジョブとして、独立した内容を明確に定義する必要が生じた。さらに、指示は、デジタルで行う。管理職は、新しい働き方に対応可能な管理職と対応できない管理職に、二極化してきた。


2018年に、経済産業省は、2025年に、DXの崖があると警告を鳴らした。そのレポートは、デジタル技術の導入の遅れを指摘するものであったが、問題は、デジタル技術ではなく、組織だった。レポートは、DXが遅れた企業とDXが進んだ企業を対比する内容であった。2025年に、確かにDXの崖は存在した。しかし、それは、崖のような不連続断面ではなかった。現実は、組織のカオスだった。

歴史を紐解くと、明治維新では、社会システムが変わって公務員が大量失業している。幕藩体制の公務員である武士は、大政奉還によって、失業して、収入の手立てを失った。民業へ転換を図った人もいたが、「武士の商法」と言われるように成功例は、少なかった。明治政府は、失業対策に、北海道を始め、開拓事業の促進を図っている。

2035年は、自治体は、DXの維新前夜の様相を呈していた。

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