第10話 システムの運用能力(2035年)

文字数 2,978文字

(鈴乃木がシステムの運用能力を説明する)

鈴乃木が説明を続けた。

「第3のシステムの運用とは、野球チームの運営に相当します。

野球チームの運営とは、第1に、優秀な監督・トレーナーのもとに、優秀な選手を集めて、強いチームを作ることです。そのためには、チケットやグッズの販売、寄付などで、収入を得ること、ホームグランドを整備することなどが必要になります。

DXの最大の課題、あるいは、DXが失敗する最大の原因は、システム運用にあります。

自治体のDXでは、自治体運営の目的が曖昧か、ポイントがずれていると問題が起こります。

組織の目的と、自治体OSの目的が一致していないとシステム運用に問題が出ます。

自治体OSの目的は、行政サービスの向上と経費節減です。つまり、行政サービスの労働生産性を最大化することです。

日本経済が失われた30年に突入した原因は、労働生産性の低さにあります。あるいは、労働生産性が向上しなかったといい換えても良いかもしれません。DXを入れる目的は、労働生産性の向上です。労働生産性が上がれば、労働者数は減ります。DXを入れるときには、過去の仕事のやり方は、参考になりません。生産性を最大化するように仕事のやり方を組み替える必要があります。

自治体の多くが、少子化、高齢化によって、財政が赤字に近づきます。そうすると、従来の仕事を微調整して、凌ごうとします。例えば、定員を削減して、経費を浮かすことを考えます。しかし、この方法はダメです。自治体は、法律で、作成を義務付けられた基本計画を作ります。基本計画の8割は、実は、過去の事例であって計画ではなりません。ビジョンではなく、ヒストリーです。基本計画と言いながら、計画に相当する部分は、計画書の5%以下で、しかも、計画の根拠は、薄弱です。過去のデータから、トレンドで将来フォーキャストします。しかし、この方法では、DXはできません。DXに必要な計画立案手法は、フォーキャストではなく、バックキャストです。将来に問題解決ができた状態をまず、設定して、それに、合わせて、計画を逆算します。

これが、先ほど述べたバックキャスト条件です。

これは、学生時代に、試験対策で使う方法です。試験範囲が決まっていて、試験までに使える時間がわかっていれば、1日、これだけ進めないと、試験までに、対策が終わらないと考えて、学習計画を立てます。あれが、バックキャストです。期限までに問題解決をするためには、バックキャストが合理的な手順なのです。

どうして、バックキャストにならないかといえば、計画と言いながら、解決すべき問題が何かが設定されていないためです。

歴史に基づいて、フォーキャストすることは、現状の延長をフォーキャストすることになりますので、今まで、行ってきた政策を是認して、それに、お墨付きを与えることになります。つまり、カスタマーの自治体の政策に問題はなかったという承認を与えることが、計画の主な目的です。

これは、生活習慣病にかかりそうな患者に対して、今までの生活習慣で基本的に問題ありません。しかし、運動だけは、毎日少ししてくださいと言うようなものです。8割が、是認、変更点は1、2割にした計画になります。

どうして、計画を作る前から、出来上がる計画の内容が決まっているかといえば、計画を作成する実体が、コンサルタントであるためです。自治体は、コンサルタントに計画作成業務を発注します。コンサルタントは、カスタマーの自治体の意向にあった計画を作らないと、次から、仕事が来なくなります。作成する計画に、100%何も新しいことはしなくて良いですとはかけませんが、解決すべき課題は、小さく、簡単なものであることが必要です。もちろん、コンサルタントが、自治体職員と相談して作ったものを基本計画と呼ぶと表向きの客観性が疑われますので、形式的には、学識経験者を入れた委員会を作ってお祓いをします。しかし、委員が計画について後で責任を問われることはありません。委員も、自治体の職員が何を期待しているかはわかっています。学識経験者の中には、こうした空気の読めない人もいますが、そうしたトラブルメーカーは、最初から、委員の中にはいれません。学識経験者の中には、委員に選ばれることはステータスであると考え、委員会が好きな方もいます。委員に選ばれるためには、トラブルメーカーにならないことが必要です。その条件は、自治体職員が触れて欲しくない課題、タブーを回避することになります。この条件は、コンサルタントが、自治体から、仕事をもらえる条件でもあります。つまり、この業界で生活するには、コンサルタントも学識経験者も、すぐに、解決できないような問題は、タブーとして回避しないと生き残れません。

しかし、解決すべき問題は、タブーの中にあります。タブーを先送りすると、結局は、行き詰まって、夕張市のように破綻します。今のままでは、基本計画は、問題解決をするシステムを含んでいません。基本計画の役割は、計画を作りました、将来のことは十分に考えていますという免罪符になってしまいます。
これは、変わらない日本、変わらない日本のシステムの一部です。

こうした実効性のない基本計画ができる原因は、基本計画を行政部局が作るためです。三権分立から考えれば、基本計画の作成は、議会の仕事です。自治体や政府がなにをするかを決定するのは、住民によって選ばれた議会が決める、行政は、議会が決めた決定を執行するーこれが三権分立の考え方です。基本計画が、本当に、将来の政策を制約するのであれば、これは、議会が作成しなければなりません。


5年後に、労働生産性をどこまで上げるかというゴールを設定します。そうすると5年後の職員数が分かります。どれだけ、DXを使わなければならないかが分かります。そうすると、仕事の組み立てをどこまで、再構成しなければならないかが分かります。職員数を減らすと一人当たりの仕事の量が増えます。労働生産性が上がるということは、一人当たりの仕事の量が増えるわけですから、これは当たり前です。その分、コストが減ります。企業であれば、利益が出ます。労働配分率を一定にするのであれば、利益の一部は、労働者に還元します。つまり、自治体で言えば、DXを進めて、労働生産性が上がった部局は、そうでない部局に比べて、給与は上がって当然です。こうなれば、職員はできるだけ、新規採用の数を減らして、給与を上げることを望むはずです。給与を一定にすれば、新規採用を減らさずに、一人当たりの仕事の量を減らすことを職員は望むはずです。DXを進めて、給与を上げないのであれば、DXによる利益に対する労働配分率は、ゼロですから、労働者を無視した強欲な労働配分率です。これをしながら、DXを進めることには、無理があります。


アプリと自治体OSを合わせて、運用する必要がありますが、これは、素人には、不可能ですので、大半は、アウトソーシングします。

システム運用は、自治体OSとは別のサービスとして分けています。その理由は、システム運用の難易度は、お客様の組織によって大きく異なるからです。自治体OSとアプリは、コンピュータサイエンスの世界ですが、システム運用は、コンピュータサイエンスの外の問題です」
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